三井化学が挑む化学業界の新たなAI活用法の中身
三井化学は2021年度から素材の新規用途探索に人工知能(AI)を活用する。どんな物性の素材がどんな用途で使われているかをAIに学習させ、人には思い付かない用途をAIが提案する。化学業界にとって新たなAI活用方法となる。研究開発や生産技術に加え、素材の営業もAIで効率化することで全社のデジタル変革(DX)を加速する。
AIを用いた素材の新規用途探索システムには、IBMのAI「ワトソン」の機能の一部を使う。これに素材物性と用途の関係性や市場動向、外部の特許や論文などの情報を収集したライブラリ(辞書)を組み合わせる。
まず1―2カ月内に3種類の物性を選んでライブラリを作成し、10月をめどにシステムを稼働させる。また、AIを用いた素材開発手法「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」など、他のシステムと連携させ、新たな材料開発手法の獲得にもつなげる。
三瓶雅夫執行役員は「従来のAI活用の目的はコスト削減が中心で、売上高を増やす目的の使い方は少ない。化学業界で新規用途探索にAIを使う例は初めて」と話す。
新システムは既存素材の用途拡大に役立ちそうだ。これまで既存素材を別の用途に転用する場合、個人の知識や情報収集、ひらめきに頼っていた。
多様な業界で技術革新が進み、新製品に合う素材も短期間で提案することが求められる。異なる業界で使われてきた既存素材を活用できれば、最終製品の開発期間短縮にも寄与できる。
三井化学は先行する研究開発や生産技術、事務管理部門のデジタル化に加え、営業やサプライチェーン(供給網)のデジタル化を推進。さらに各領域をつなぎ、全社のDXにつなげる。
日刊工業新聞2021年5月7日