神戸の中小企業が「KUKA」の産業ロボットで切削加工をリードするまで

雑誌『機械技術:特集・成功事例に学ぶ ロボットを活用した金属加工現場の高度化技術』

  • 2
  • 2
可搬重量125kgの産業ロボットでの切削加工

(有)マリノプロジェクト(神戸市西区)は、産業用ロボットを使った切削加工に取り組んでいる。ロボットに工具を設置し、CAMで作成したプログラムに沿って加工を行う。長さ6m×幅2mのベッドと7mの移動レールを揃え、バンパーやボンネットなどの大型ワークにも対応。24時間の自動加工も可能だ。最近は自動車関連の仕事に加え、産業用の治具や家具といった分野からのオファーも増えており、少量多品種での需要開拓に活用している。

自動車のボディを丸ごと削りたい

同社はFRPやカーボン製品の企画製作から自動車部品や機械加工部品などの切削加工を展開している。ロボットを使った切削加工に着手したのは2014年。きっかけは「自動車のボディを丸ごと加工したい」との亀田真嗣社長の思い付きからだった。導入する数年前から電気自動車(EV)が注目され始め、自動車メーカーだけでなく、異業種からも参入が見込まれていた。ボディを加工できる設備を持つことで新たな受注を獲得できるとの目論見だった。

亀田社長(左)3次元CADを担当する麻美取締役。夫婦で会社を立ち上げた
 とはいえ、ボディを加工するには門型の大型マシニングセンタ(MC)が必要だ。設備投資は1億円以上にもなり、負担が大きい。工作機械の見本市やロボット展などを見て歩き、代わりになる装置を探しまわる中でひらめいたのが産業用ロボットで切削するアイデアだった。産業用ロボットがさまざまな動きを見せるデモンストレーションから切削にも活用できると判断。大型MCに比べて投資額も数分の1ですむことからロボットメーカーへの問い合わせを始めた。

そこで名乗りを上げたのがドイツのロボットメーカーであるKUKAだった。多くのメーカーからは産業用ロボットでは精度の面で切削に適用するのは難しいといわれていた。日本市場の開拓に乗り出していたKUKAは亀田社長の申し出を積極的に受け入れ、導入に向けた検討を始めていった。ただ、このときは亀田社長が体調を崩し、延期せざるを得なくなった。直後に東日本大震災もあってしばらく導入を見合わせていた。亀田社長が回復し、KUKAとの打ち合わせを再開したのは12年。「結論から言えば、延期になったことが当社にとっては正解でした。製品の可搬重量が60kgだったものが可搬重量125kgのロボットが国内で購入できるようになったのに加え、それまでのロボット言語から工作機械で使うGコードが使えるNCデータ制御プログラミング『KUKA.CNC』が国内販売されたことがその後の立ち上げに大きく寄与しました」(亀田社長)と振り返る。
 コストを削減するため搬送レールとベッド、工具置き場などを独自に製作した。ロボットとの同期化を意識して搬送用のモータとワークの回転装置はKUKA製を採用した。「搬送レールの幅は従来400mm程度ですが、当社は1000mmにして安定度を高め、台を木製にして振動を抑制するなど工夫した」(同)とカスタマイズによって精度も向上させた。

工具は自動交換

国内初のGコードで動く産業ロボット

産業用ロボット本体が導入され運用をスタートした。亀田社長は「当初は使いこなせるまで1年~1年半くらい見ていた」が、実際はすぐに立ち上がり、バンパーやボンネットのベースモデルの切削などを手掛けるようになった。早期の稼働を可能にした背景の1つには同社が以前から3次元データを取り入れた加工に取り組み、CAMの操作に長けていたことが挙げられる。MCで機械加工を始めた2002年から「WorkNC」などの3次元CAD/CAMを活用。ロボットの導入にともない「Robotmaster」を採用した際もすでに活用していた「Mastercam」の経験からそれほど違和感なく使いこなすようになった。
 ただ、導入当初から稼働はしているものの、ロボットの特異点を制御できずに作業をストップすることも少なくなかった。KUKA.CNCは日本で初めて導入したもので国内での活用事例がなく原因がつかめない。「Robotmasterを扱うゼネテックやKUKAとも頻繁にやり取りし、最終的にはドイツのKUKA本社にパスを持って駆けつけてパラメータの調整の仕方を教わって解決した」(同)といった苦労もあった。

バンパー切削の効率を飛躍的に向上

実際の作業は点群データからCADデータに起こして、加工軌跡を作成。それをRobotmasterでシミュレーションおよび最適化を行ってロボットプログラムを出力し、ロボットでの切削加工を行う。導入以来、自動車のバンパーやボンネットなどの大型パーツの加工がしやすくなった。たとえばパンパーのベースモデルはMCで切削加工していたが、機械に設置するにはモデルを複数に分割して加工するしかなかった。CADで分割する作業が生じるなど効率が低下するほか、繁忙期には工場内が分割したブロックで占拠されることもしばしばあった。
 ロボットによる切削加工ではバンパーのベースモデルを1回で加工できるようになり、CADによるモデリングと切削加工の時間を大幅に削減。ブロックを組み立てる作業なども不要になった。ロボットとCAMの連動が順調に進み始めてからこれらベースモデルの切削はすべてロボットによる加工に切り替え、生産能力を拡大することにもつながった。
 受注面では当初の目論見であったEVのボディについては「その後、EVへの異業種や個人の参入が進んでおらず、今のところ受注はない」(同)状況だ。一方、自動車部品に加えて最近は大型の治具の加工や家具メーカーなどこれまでになかった分野からのオファーも出てきている。

木材加工にも着手

珍しいところでは兵庫県内の有名洋菓子店の新規店に大型冷蔵を据え付ける木製の台座の切削を受注し、納品した。台座はアフリカ産のマメ科の木材を使用し、大きさは2m×1m。かなり堅い素材で近隣に対応できる木材加工店がないということで、知人を通じて依頼があった。「ケミカル材の経験ありましたが、木材は初めて。工具も木材といえばほぞ穴をあけるようなドリルしかない。それでルーターの刃で試したところ削ることができ、納めることができました。産業用ロボットを導入しなければこんな仕事はなかったと思います」(同)と意外な事業の広がりに期待が高まる。
 ロボット切削のネックとみられる精度についても「ワークの素材にもよりますが0.5くらいまでは出せます。このレベルの精度を維持できればいい仕事は自動車以外にも多くあるので、そうしたワークの切削を低コスト、短納期化できるのがロボット切削だと考えています」(同)と費用対効果を重視したメリットを強調する。

3次元データ活用で顧客を拡大

また、同社の強みである3次元データの活用もこうした新規事業開拓に大きな役割を果たしている。3次元CADを担当する亀田麻美取締役も「当社の周辺は重工業系の協力企業が多いこともあり、自由曲面を描けるような会社は少ない。デザイン性のある仕事もロボット加工と組み合わせることで増やしていきたい」と3次元CAD/CAMと産業用ロボットの連携による加工領域の拡大への可能性に期待を寄せる。実際、劇画原作の米国映画ヒーローをCGデータからCADで等身大にスケールアップしてロボットで削る過程をユーチューブにアップしたところ反響が大きく、仕事のオファーもきているという。

フグの養殖システム開発へ

今後は3次元データを活用したMCによる機械加工と産業用ロボットの2本柱で受注開拓を進める一方、新たに自社製品の開発にも取り組む。その第一弾がフグの養殖システムだ。同社が養殖用のFRPの水槽をロボット切削で製作し、浄化槽を手掛ける企業と組んで淡水でのフグ養殖システムを完成させる。すでに近隣の河原に用地を取得しており、今夏をめどにパイロットのシステムを完成。縦5m×横5m×深さ1mの水槽を2槽設置し、フグ500匹の養殖を始める。「フグの淡水での養殖は九州などで始まっている。1年半で出荷でき、チョウザメの7年などに比べても事業化しやすく今後参入するところも増えてくる」(同)との見通しで、自社製品による事業基盤の強化を図るのが狙いだ。新型コロナウイルスの影響による不透明感が漂う中、加工事業に加え、新たな柱の構築に活路を見出そうとしている。
(雑誌『機械技術:特集・成功事例に学ぶ ロボットを活用した金属加工現場の高度化技術』より抜粋)

<会社概要>
会社名:(有)マリノプロジェクト
所在地:〒651-2266 神戸市西区平野町印路六塚1200
設立:1989年
代表者:代表取締役亀田真嗣
従業員数:7名
事業内容:FRP、CFRP製作、3次元CAD/CAM、NC加工

雑誌紹介

雑誌名:機械技術 2020年5月号
 判型:B5判
 税込み価格:1,540円

機械技術 2020年5月号  Vol.68 No.6
【特集】成功事例に学ぶ ロボットを活用した金属加工現場の高度化技術
 人手不足の解消や生産性向上、作業安全を目的とした、ロボットと工作機械の連携によるモノづくりに金属加工現場の関心が高まっている。多品種少量生産や高品質への要求が一段と進む中、生産形態や製品の要求仕様を考慮した戦略的な自動化によるモノづくりの構築が急務になっている。
 特集では、金属加工現場でのロボットを活用した加工・搬送などの自動化に取り組み、成果を上げ始めた現場の事例を取り上げる。

販売サイト
Rakutenブックス
Yahoo!ショッピング
日刊工業新聞ブックストア

雑誌「機械技術」

関連する記事はこちら

特集