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データサイエンス人材の需要急伸に対応する”超高度な若手教員の再教育”の中身

統計数理研究所は各分野の助教らを「大学統計教員」に育成し、その下で修士課程学生らを「統計エキスパート」として輩出するプロジェクトを始めた。データサイエンス(DS)人材のニーズ急伸に対応するため、滋賀大学など21機関が参画。英語教科書を使った講義体験などに加え、2022年度からベテランが指導する分野別演習を行う。研修後は所属機関の学生への講義や指導を手がけ、21年度から10年間で約500人のエキスパートを育成する。

第1期の研修生は東京医科歯科大学、東京理科大学、国立極地研究所など9機関の11人で、専門は理、工、情報のほか薬、保健、文化情報学など。経済学の多重回帰分析、心理学の因子分析などに限定せず、スキルを網羅的に学び、修士学生向けの教育指導ができる力を付ける。1期2年間の3期で、全参画大学から研修生を受け入れる。

分野共通の統計学知識を得るため、世界的な英語の教科書を使い、研修生が順に講義の実施体験をしていく研修をオンラインでスタートした。作問練習や論文執筆技術、所属大学における研究指導演習まで必修だ。さらにシニア特任教授らの指導で分野別の教材開発や、企業課題に対する共同研究などに進む。

プロジェクトは文部科学省の事業。21年度から5年間で約30人の大学統計教員を育成する。その後に各自、年3人以上の修士学生を指導し、政府が掲げるDS「エキスパート」人材輩出に道筋を付ける。

DSは「計算機科学」と「統計学」が基盤で、応用領域となる各「専門分野」の3スキルが必要とされる。日本は他国と異なり、統計学に特化した学部が伝統的になかった。独学を含め各専門分野の中で統計スキルを身に付けるケースが多いため、解釈を間違うなどの危険がある。

そのため統計全体を理解した教員の育成と指導が必要とされ、統数研などによる取り組みが注目されそうだ。

日刊工業新聞2022年1月20日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
データサイエンス(DS)の基盤となる統計分野の大学教員の不足は、あちこちで耳にしていた。背景には相次ぐDS学部の新設と、DS全学部生の学びという政府の方針がある。今回の取り組みは、すでに博士号を持つ若手教員に、統計専門家といえるだけの力を付けてもらう”超高度な若手教員の再教育”だ。今は1期の11人に限定されるが、これがうまくいけば同じ仕組みで、かなりの数の教員&一般社会へ出て行く人材を確保できるようになるだろう。

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