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「研究DX」の推進へ。文科省が22年度予算要求に盛り込んだ3つの枠組み

文部科学省は研究のデジタル変革(DX)の仕組み整備や人材育成を推進する。2022年度予算の概算要求に新規事業を相次いで盛り込んだ。中でもデータを人工知能(AI)などで分析する「データ駆動型研究」は、学術研究の新手法として分野を超えたシステム構築が欠かせない。これに各分野のデータベース(DB)などを連動させる。(編集委員・山本佳世子)

文科省の研究DX推進の枠組みは三つ。一つ目は「研究施設・設備の自動化・遠隔利用」だ。機器の共用や有効利用を促進するため、遠隔地への画像・データ転送など組み合わせる。22年度予算の概算要求では大学教育において、IoT(モノのインターネット)やスマート農業など、実験・実習設備のDX化で新規75億円が計上された。

二つ目は全国の大学・研究機関を支える国立情報学研究所主導の「次世代学術研究プラットフォーム」。22年度から後継機が稼働する超高速の学術情報基盤「SINET(サイネット)」と、研究データ管理・活用基盤を一体運用する。データ基盤は強固なセキュリティー、データ解析処理の再現性、DBの探索法などが特徴だ。

この取り組みと関係するのが、三つ目となる各分野のデータ基盤と連携した研究データマネジメント高度化事業。新規17億円を要求した。研究データ活用の3機能、管理・検索・公開のハードとソフトの整備や人材育成を手がける。生命科学や防災、IoTなどの研究強化と融合を目指す。川口悦生参事官は「特定の目的で集めたデータを他分野とシェアし、新たに活用できるよう変えていく」と異分野融合の狙いを説明する。

データ駆動型研究を推進するため、分野別のデータ基盤整備も進める。先進は物質・材料研究機構がリードする材料分野で、大型放射光施設「スプリング8」の材料データ基盤で新規10億円を要求した。超大容量データの品質を保ちつつ、サイネットでの全国利用を促す。

ユニークなのは人文学の研究資料をAI技術で分析できるように、構造化データを作成する事業で新規に約5億円を要求。古文書の記録を防災や地球環境の保全に役立てる研究などが想定される。

一方、データサイエンス(DS)・AIの人材育成では人文・社会科学系の大学院修士課程学生向け新規事業に約9億円を計上した。各専門分野に加え、数学やAIを高度に学んでもらう。地理情報と人流を掛け合わせたり、政策文書の言語解析をしたりするなど想定している。

概算要求では研究DX関連の予算が多く盛り込まれたが、分野や研究者によって研究DXへの温度差がある。まず22年度予算の確保とともに、施策の訴求や使い勝手の向上に努めることが、次世代研究をリードすることにつながってきそうだ。

関連記事:データ駆動型研究を推進。情報学研が6年かけて整備する「次世代学術研究プラットフォーム」の全貌

日刊工業新聞2021年9月17日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
デジタル化、データ活用、データサイエンス、DXと多様な言葉が昨今、飛び交って自身も、そして人文・社会科学系を含むIT系が苦手な研究現場も、わかりにくいのではないかと思って、解説記事で整理をしてみた。根本的なデータ基盤の問題解決はNIIが率いて、これまで意識の高い研究者に依存し点在している各種のDBをつなげ、データサイエンスを用いた「データ駆動型(データによって動きだす)研究」に多くの研究者が着手していく-。そんな流れとなってきそうだ。

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