【ディープテックを追え】「ダヴィンチ」の独壇場に東工大発スタートアップが挑む
米インテュイティブ・サージカルの「ダヴィンチ」の独壇場だった手術支援ロボットに変化が起きてきた。特許切れに伴い、日本勢もダヴィンチの牙城を崩そうと参入している。東京工業大学発スタートアップのリバーフィールド(東京都新宿区)は機能や価格面で差別化し、商機を見いだそうとしている。
低コストを実現
リバーフィールドは患者の体に複数の穴を開け、器具を挿入する腹腔(ふくくう)鏡手術を支援するロボットを開発する。市場の先駆者のダヴィンチよりも小型・軽量かつ低コストを強みに訴求する。
低コストを実現するカギは空気圧による駆動方式にある。モーターで駆動するダヴィンチの最上位機種が2億円以上かかるのに対し、リバーフィールドは7千万円から8千万円ほどで導入できるという。また、ダヴィンチが4本のロボットアームで構成されているのに対し、同社では価格を抑えるためアームを3本にした。ダヴィンチの2台目としての運用や、地方の中小病院を主なターゲットに据える。
「力覚フィードバック」という感触を伝える機能もつける。ロボットアームの先端に力が加わると、内部のシリンダの圧力が変化する。この変化を圧力センサーで捉え、ロボットの手先の力加減を推定する。医師の手元で臓器に触れる感覚を再現し、力加減の微調整に役立てる。これにより、相当な訓練や経験が必要だったロボット手術のハードルを下げられるとしている。只野耕太郎社長は「精密な動作を空気圧駆動で実現するため、部品の組み合わせなどの研究成果が詰まっている」と話す。医師が一定期間ロボット操作のトレーニングを積めば、すぐさま手術ができるように設計するという。
柔らかい臓器向けの手術をターゲットに
一方で空気圧駆動はモーター駆動に比べて、つかむ力が弱いという弱点を抱える。ダヴィンチの主戦場、前立腺手術では分が悪い。そこで同社が開拓するのは、肺など柔らかい臓器での活用だ。只野社長は「ダヴィンチの利用はほとんどが前立腺手術だ。柔らかい臓器でのロボット活用を普及できれば、まだ導入が進んでいない手術にも市場を広げていける」と自信を口にする。
9月には約30億円を第三者割当増資で調達した。開発するロボットの医療機器申請や量産化のために使う。株主でもある東レエンジニアリング(東京都中央区)と協力し、2023年1月の販売を目指す。また、現状リリースしている内視鏡ホルダーロボット「EMARO」(エマロ)の次世代機や眼科用のロボットも開発中だ。そのほか複数の手術支援ロボットを開発している。調達した資金を使い、販売までのスピードを上げる。将来はユニット部品などを内製化し、さらなる価格低減も図る。海外への展開も視野に入れる。
患者にとってロボット手術は、体への負荷が小さいとされる。これまでは実質的に“ダヴィンチの独壇場”で、高コストかつ医師の高スキルが必要な点がボトルネックだったが、今後は選択肢が広がりそうだ。例えば、川崎重工業とシスメックスが共同出資するメディカロイド(神戸市中央区)や、国立がん研究センター発スタートアップのエートラクション(千葉県柏市)なども研究開発を進める。競争激化も予想されるが、それだけ成長余地があるとも言える。普及には製品開発に加え、医師へのトレーニングの充実もカギを握りそうだ。
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