開発が進む国産手術支援ロボット、「ダヴィンチ」打倒の鍵は独自機能と用途差別化

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エートラクションは腹腔鏡手術で助手の代わりになるロボットを開発する

国内の手術支援ロボットメーカーが開発にしのぎを削っている。国内市場をほぼ独占する米インテュイティブ・サージカルの「ダヴィンチ」に対し、国産ロボは独自機能や用途の差別化で勝機を得る。国内外の市場でシェア拡大を狙う国産ロボットの開発動向を追った。(森下晃行)

世界トップの実力 人を超えた「腹腔鏡」

世界トップシェアを握る手術支援ロボット、ダヴィンチ。日本では7月時点で約400台が稼働し、累計症例数は14万例以上にのぼる。世界では約5400台が稼働する。

ダヴィンチが国内外で高シェアを占める理由は、ロボを中心としたプラットフォーム(基盤)戦略にある。

患者の腹部に開けた穴から器具を挿入し手術する「腹腔(ふくくう)鏡手術」は、患者の体にかかる負担が小さい半面、医師に高い技量が求められる。ダヴィンチを使うと人間の手首を超えた可動域で器具を扱える、手ぶれが生じにくいなどのメリットがあり、属人的な技術に左右されない高精度の手術ができる。

導入・運用コストは高額だ。普及機種「X」の価格は1億7000万円から、年間1000万円以上の保守費用がかかる。一方、技術革新によるダヴィンチ自体の性能向上に加え、症例の蓄積や医師のトレーニング、保守管理などで顧客を囲い込み独自のプラットフォームを形成してきた。関連学会を中心に、ダヴィンチの使用を前提とした手術方法が生み出されてきたことも普及の理由の一つだ。

独自技術で反撃

「うちは先行者がいる領域に正面から挑むつもりはない」と国立がん研究センター発のベンチャー企業、エートラクション(千葉県柏市)の安藤岳洋社長は言い切る。

同社は、腹腔鏡手術の支援に特化した手術支援ロボを開発中だ。機能を絞り、ダヴィンチの半額以下の3000万―5000万円に導入コストを抑えた。ダヴィンチとは用途が異なるため単純比較は難しいが、コスト面の優位性を訴求する。2021年秋までの発売を目指す。医療機器としての認証取得や量産の準備を進める。

腹腔鏡手術では医師の他に内視鏡や鉗子(かんし)などの器具を扱う助手が数人必要だが、同社のロボは器具を保持する助手役を担う。医師は手に装着したセンサーと足元のペダルでアームを制御する。内視鏡の角度を変えて視野を確保したり、臓器を切る際に鉗子でつかんで固定したりできる。

ロボ自体のコストが低い上、医療機関は助手にかかる人件費を削減することが可能。「1回の手術で助手が2人必要だと仮定した場合、4―5年程度で導入コストを回収できる」と安藤社長は説明する。

ダヴィンチと異なる機能で差別化を図るロボもある。東京工業大学発ベンチャー企業のリバーフィールド(東京都新宿区)は、臓器をつかむ感覚を医師の手元に再現する「力覚フィードバック機能」を備えるロボを開発する。22年度内の発売を目指す。

「いかにビビッドに小さな力を検出して伝えられるか」と同社の只野耕太郎社長はコンセプトを説明する。腹腔鏡手術では、臓器をつかんだり切ったりする際の微妙な“手応え”も医師にとって重要な情報だからだ。同社のロボは空気圧によって手応えを再現する機構を搭載する。ダヴィンチが苦手とする肺などの柔らかな臓器の手術で活用を見込む。

リバーフィールドは臓器に触れた感覚を医師の手元に再現するロボを開発する

モーター搭載のダヴィンチに比べ、空気圧駆動のため軽量に設計できる。小型で運搬しやすい点を生かし、ダヴィンチを運用する病院でも2台目のロボとして導入を狙う。導入コストは1億円以下に抑えたい考えだ。

「がん治療」に使用 岡山大、CT画像確認して組織採取

岡山大学はがんの検査や治療に使用するロボ「ゼロボット」を開発中だ。医師がコンピューター断層撮影(CT)画像を撮影しながら患者に医療用針を刺し、がん組織を採取したり焼き切ったりする「IVR」と呼ばれる検査・治療法で活用する。医師の代わりにロボが患者に針を刺す仕組みだ。

「CTは放射線を発する検査機器なので、医師は処置中に被曝(ばく)するリスクがある」と開発に携わった岡山大学医学部放射線科の平木隆夫准教授は指摘する。ロボが医師の代わりに針を刺すことで、被曝リスクをなくせるのが最大の利点だ。

ソフトウエアで設定した角度に正確に針を刺せる特性を生かし、CT画像に写らない方向に針を刺すことができる。医師の技術に依存しないため、処置時間が短縮できるなどの利点もある。

岡山大の開発した医療用穿刺(せんし)ロボ「ゼロボット」

試作品は16年に完成し、人に対する臨床試験は18年に完了した。20年9月からは医師による処置との差異を比較する医師主導治験を開始し、22年3月の終了を予定する。「現在は量産に向けパートナー企業を探している段階」(平木准教授)だ。

8月には川崎重工業とシスメックスの共同出資会社メディカロイド(神戸市中央区)が手術支援ロボ「ヒノトリ」の製造販売承認を取得した。ダヴィンチに比べ、アーム同士が干渉しにくく手術の妨げになりにくい点を訴求する。

調査会社の富士経済(東京都中央区)によれば、手術支援ロボの国内市場は25年には20年比2・6倍の240億円に達する。海外市場は同2・9倍の5783億円に達する見通しだ。

国産メーカーの勝機は低コスト化と機能や用途の差別化だが、大きな市場である海外への展開も視野に入れる必要がある。既に普及が進む欧米に加え、今後成長が見込まれる中国や東南アジアに展開しつつ、現地の医師や学会と共同で手術方法の開発に取り組むことが求められる。

勝機は何か― 済生会横浜市東部病院ロボット手術センター長・石田勝氏

国産手術支援ロボの勝機は何か―。ダヴィンチで800例以上の手術を実施してきた済生会横浜市東部病院(横浜市鶴見区)の石田勝ロボット手術センター長にダヴィンチの使用感や国内メーカーの優位性を聞いた。

 手術支援ロボは腹腔鏡手術の“上位互換”だ。例えば、前立腺がんの除去後に膀胱(ぼうこう)と尿道をつなぎ合わせる場合、手ぶれが起きず、人間の手首では曲げられない角度でもうまく縫合できる。ダヴィンチは「実は未来から来たのでは」と感じるくらい完成度が高い。世界では00年ごろから使われ始めているが、当時から現在まで基本的な機能はほとんど変わっていないのがその証拠だ。

国内メーカーが勝てるとすれば、コスト面か診断支援の部分だろう。ダヴィンチの場合、鉗子などの手術器具は専用品を必要とするため高額なランニングコストがネックだ。導入コストは1億円より大幅に安ければ病院として検討できる。

ダヴィンチのカメラは既存の内視鏡に比べ視野の角度が限定される。鉗子の使い勝手もあまり良くない。組織を切開・止血する手術器具も他社製品より信頼性が劣る印象がある。

日本の医療機器メーカーは画像診断領域で優れた技術がある。手術中の映像から腫瘍を検出し医師に知らせる、あるいは重要な臓器や血管を画面上で強調するなどの機能をロボと統合すれば優位性を示せるのではないか。(談)

石田勝氏

日刊工業新聞2020年9月23日

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