CTやMRIの販売数は頭打ち、サービス事業へシフト急ぐ大手医療機器メーカー
大手医療機器メーカーのGEヘルスケア・ジャパン(東京都日野市)、シーメンスヘルスケア(東京都品川区)がサービス事業へのシフトを急いでいる。CT(コンピューター断層撮影装置)、MRI(磁気共鳴断層撮影装置)などの画像診断機器の国内販売台数が頭打ちになっていることを受け、サービスに注力する。機器の使用や検査、病床運営を効率化するサービスなどに取り組み、顧客との中長期的な関係の構築や自社製品の市場浸透を目指す。(石川雅基)
サービス事業にシフトする背景には、医療機器の買い替え年数が年々延び、医療機器の売れ行きが鈍っていることがある。2020年に実施した日本画像医療システム工業会(JIRA)の調査によると、医療機器の買い替え年数はMRIの場合12・2年で10年前よりも1・3年、CTは11・9年で同1・8年と、それぞれ延びている。シーメンスヘルスケアの森秀顕社長は「買い替えサイクルが延びたことで、マーケットがシュリンクしている。25年頃まではこのトレンドが続く」とみる。
医療機器の使用期間が延びているのは機器の耐久性が向上しているだけではなく、「病院経営が厳しく、設備投資ができないところが増えている」(GEヘルスケア・ジャパンサービス本部の大成学志ゼネラルマネージャー)ためだ。そのため同社ではビジネスモデルをモノ売りからコト売りにシフトしている。大成ゼネラルマネージャーは「これまでは製品を売った後のサービスの質を必ずしも担保できていたとは言い切れない。病院が高い製品を買っても使いきれていないケースもあった」と指摘する。
GEヘルスケア・ジャパン 機器の状況を可視化
GEヘルスケア・ジャパンは4月、医療機器の効率的な使用や医療従事者の業務効率の向上などを目的に、医療機器の保守リモートサービスを契約している顧客を対象にした会員制サービス「OriGEn(オリジン)」を始めた。専用タブレット端末のアプリケーション(応用ソフト)を通じ遠隔で医療機器の稼働状況管理や消耗品の購入、ウェブセミナーへの参加などのサービスを提供する。
稼働状況をデータとして可視化することで病院での利用動向を分析し、うまく使用できないようであれば最適な提案をする。「人事などで病院の状況も変化するため、追加オプションなども提案しながら医療機器を効率的に使ってもらう」(同)ことを狙う。
今後は、顧客とサービスの価値を共有しながら、早期に5000台の大型機器への契約完了を目指すという。
さらに同社は病院の病床運営の効率化にも取り組む。病床管理や入退院を最適化するシステム「コマンドセンター」の提供を開始。電子カルテなどの情報システムにひも付くデータから病床の稼働状況や医療従事者の配置、将来の入院患者の需要予測などをリアルタイムに可視化する。ディスプレー画面で一元的に状況を把握し、効率的な運営につなげる。既に草津総合病院(滋賀県草津市)が同システムを導入し、運用を始めた。
同社の多田荘一郎社長は「今後、サービスのプラットフォームを業界内外で共有することで発展させたい。病院運営や機器の使用の効率化を進めることで、病院が購入する機器が減ったとしても新しい投資に回るはず」と狙いを話す。
シーメンスヘルスケア 病院経営の効率化支援
シーメンスヘルスケアも診断支援や効率的な病院運営のサービス提供に動いている。森社長は「既存の医療機器のマーケットシェアを拡大するだけでなく、周辺領域にも進出する」と意気込む。
20年に放射線技師の検査を遠隔で支援するシステム「シンゴ・バーチャル・コックピット」の提供を開始した。臨床現場にいる技師と、離れた場所にいる経験豊富な技師をビデオ通話でつなぎ、臨床現場にいる技師がリアルタイムにアドバイスを受けながら検査できる。
撮影した画像や設定画面なども共有可能だ。技師の技量格差や人数不足などの解消に役立てる。最大3カ所の臨床現場とつなぐことができる。
シーメンスヘルスケアは医療機器を売るのではなく、医療機関が機器の利用状況や患者数に応じて、対価を払ってもらうサービス「マネージド・イクウィップメント・サービス」にも取り組む。医療機関は初期投資を軽減できるだけでなく、同社が機器を常にメンテナンスするため、最新の技術や製品を利用できる。導入する病院は徐々に増加し「現在五つの病院と契約し、10程度の大規模な病院と商談を進めている」(森社長)という。
病院経営の効率化に加え、医師の長時間労働を是正する働き方改革などが進められる中で、今後、サービス事業の重要性が一段と増してきそうだ。