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大和ハウス創業者の夢「創業100周年で売上高10兆円」が現実味。成長の芽は国内にあり!

大和ハウス創業者の夢「創業100周年で売上高10兆円」が現実味。成長の芽は国内にあり!

創業者・石橋信夫氏

創業100周年で売上高10兆円―。そんな創業者の夢が現実味を帯びてきている。大和ハウス工業の2021年度業績は売上高4兆3000億円を予想。コロナ禍で足踏みを余儀なくされたものの、近年は成長スピードを加速している。売上高1兆円から2兆円へは12年かかったが、2兆円から4兆円へは6年で到達した。折しも本年は創業者の故石橋信夫氏の生誕からちょうど100年。縮小均衡が懸念されていた国内市場も脱炭素などを受け潮目が変わる中、悲願達成に向けた道程を追った。(大阪・池知恵)

20年6月に会長を退任した樋口武男最高顧問が、創業者の夢として繰り返し口にしていた「創業100周年での売上高10兆円」。もっとも創業100周年に当たるのは34年後の55年だ。現在の成長ペースを前提とすれば、そこまでに10兆円に達しない方が非現実的に見える。そんな“誤算”の最大の要因は、物流施設の開発などを手がける事業施設部門の伸びだ。

10年度に1943億円だった同部門の売上高は、12年度に中堅ゼネコンのフジタを買収したこともあり、18年度に1兆円の大台を突破。成長をけん引している。コロナ禍で20年度は9899億円と1兆円を割ったが、21年度は1兆700億円と反転を予想。芳井敬一社長は「(成長に向け)相当なウエートを占めてくることになる」と、今後も最大の成長エンジンに位置付ける。

これまでに手がけた物流施設の開発棟数は着工中を含め301棟、延べ床面積は約1044万平方メートルに上り、物流施設デベロッパーでは国内トップを走る。21年度までの3カ年計画で、事業施設部門への投資は、前3カ年の3964億円を大幅に上回る約6500億円に設定。次期3カ年計画の投資額は未定だが、投資ペースがさらに加速することは間違いない。建築事業本部長の浦川竜哉取締役は「22年度以降も毎年30―50棟のペースで開発を進める」と話す。

総合力で競合引き離す

国内の主要な物流施設開発デベロッパーとしては、外資系の日本GLP(東京都港区)やプロロジス(同千代田区)、国内勢では大手不動産会社の三菱地所や野村不動産などと競合するが、芳井社長は「我々は単純なデベロッパーではなく、建設業がデベロッパーをやっている」と、自らの優位性を語る。

物流コストをどれだけ抑えられるかは「最後はコイン1枚」(芳井社長)が勝敗を決する―。そんなテナントの要求に応えようとすると、建設に精通していることは最大の武器となる。

市場の裾野が広がってきたことも追い風となる。これまで物流施設の開発は東名阪など大都市圏に集中していたが、「建て替えが10%しか済んでいない」(同)全国の既存施設の更新も控える。ここで強みとなるのが、戸建て住宅や賃貸住宅、商業施設などの建設で築いてきた全国の営業網だ。さらに工業団地造成などで区画整理に取り組んできたことも、適地を有利な条件で確保することにつながっており、総合力でライバルを引き離す構えだ。

成長分野 DC・卸売市場・半導体工場…

物流施設に続く成長分野とするのがデータセンター(DC)の開発だ。20年から30年にかけて千葉ニュータウン(千葉県印西市)に整備する「千葉ニュータウンデータセンターパークプロジェクト(仮称)」では、総延べ床面積33万平方メートル(東京ドーム7個分)という巨大なDCを建設する。第5世代通信(5G)の普及でデータ流通量が大きく伸びることに加え、セキュリティー面などからDCの国内立地の重要性が再認識される。そのためDC建設の流れは、「10年や15年は続く」(芳井社長)と大きな期待をかける。

新規分野はさらに多方面に広がる。3月には、富山市公設地方卸売市場の再整備事業に参画。社会インフラである卸売市場の再生に取り組む。異色なところでは「漁業の工業化」として、23年にも静岡県小山町で年間生産量6300トンの閉鎖型陸上養殖施設を開設。さらに国内の半導体不足を受けて「半導体工場建設も手がけていきたい」(浦川取締役)とするなど、豊富な国内案件が成長を下支えしていく。

「稼ぎ所」国内に多く

「樋口(前)会長が10兆円を目指すと言っていた時は、少なくとも半分は海外で稼がなければならないと考えていた」と芳井社長は振り返る。それが「大野(前)社長の時に各事業が変化し、(10兆円時の国内外比率は)6対4とか7対3になるという方向に変わってきた」と続ける。

国内人口が減少に転じる中、もともと成長を海外事業に求め投資をしてきた。16年度以降、米スタンレー・マーチン、豪ローソングループ、米エセックス・ホームズ、米トゥルーマーク、オランダのフレックスビルドホールディングスと立て続けに海外企業を買収。この8月にも過去最大の海外M&A(合併・買収)となる448億円で、米キャッスルロックの買収に踏み切った。

実際、海外事業は着実に成長を遂げてきた。21年度は売上高4000億円を見込み、いよいよ全社の約1割を占めることになる。しかし売上高10兆円に向けた成長の芽は、むしろ国内で次々と伸びてきている。

インタビュー/大和ハウス工業社長・芳井敬一氏 

昨年4月に着工した静岡県最大のマルチテナント型物流施設「DPL新富士Ⅱ」
―売上高10兆円に向け、国内市場にまだ伸びしろはありますか。

「菅義偉前首相が50年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を打ち出し、家庭部門では30年度に温室効果ガス排出量66%削減(13年度比)を目指すことになった。ただ省エネ効果がない既存住宅は国内に約1000万戸残っており、そのうち70―80%は耐震性に問題がある。これだけで(現在の新築需要)年80万戸の10年分に相当する。これにゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)対応リフォームやマンションのZEH対応も加わるため、国内はそれほど縮小しない」

―物流施設などの建築事業はさらに勢いを増しそうです。

「物流施設とともに期待できるのがデータセンターだ。設備など(の請負)が加わると坪単価のポテンシャルは物流施設よりも高い。災害に強く特別高圧が受電できるなど建設場所が限られるのも、(土地のノウハウがある)当社にとっては有利だ」

―海外事業で注力する市場は。

「米国、豪州、欧州、中国だ。特に米国では(子会社の)スタンレー・マーチンやトゥルーマークは土地の仕入れがしっかりしているので、当社の資金力をもって住宅開発のスピードを上げてもらう。両社はかなり成長するだろう。中国の分譲マンション開発事業も非常に好調だ。こだわっているのは、私たちはモノづくりの会社だということ。中国では建設後も管理会社でしっかりサポートしており、中古市場で高く評価されている」

―住宅大手の中で大和ハウスの成長が際立っています。

「他社と違うのは、もともと(規格型仮設建物の)パイプハウスという商品で建設業としてスタートしたこと。それを住宅に応用し(建設と住宅の)2本柱で事業をずっと展開してきた。世の中が徐々に変わってきたことで、その強みを発揮できるようになった」

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