不良品検出にAI、投資効果を見極める導入前の第一歩

AIは幻想か―導入現場のリアル#01 「不良品を検出せよ」編

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ある化粧品メーカーからの相談

これはAI開発を事業にする当社が、とある化粧品用の容器メーカーのIT担当者から受けた相談だ。

「当社ではリキッド化粧品用の容器を製造しており、国内でも屈指の品質の高さが自慢です。容器の製造工場では品質管理を徹底していますが、どうしても容器に小さなキズが入るといったことが起きてしまい、こうした不良品が10,000個に1個の割合で発生しています。不良品の発見のための検品作業は欠かせませんが、少ない発生率にも関わらず、わざわざ作業員を配置することがロスになっていると感じています。最近良く見かける不良品発見AIで、検品作業を自動化できないでしょうか。」

新型コロナウイルス感染拡大による投資の冷え込みの影響が少なからずありながらも、こうしたビジネス現場からのAI導入の相談は依然として多い。短期的な見通しが暗い中でも、先を見据えてAIという新テクノロジーの導入に賭けてみよう意欲をもった企業が多いことの表れなのかもしれない。

成功の陰に

AI(人工知能)という言葉自体は1950年頃から使われ始めた古い概念ではあるが、2010年代にディープラーニング技術が開花し、その可能性を格段に引き上げた。とくに画像分野の技術進歩は著しく、撮影された画像から、何かしらの異常を検知・検出するといった今回のようなビジネス活用は、こと製造業においては、昨今活況な領域の一つだ。AI活用例の代表格であるがゆえ報道発表も多くなされており、AIが自動的に不良や破損を発見することが可能になったことを謳った事例が多数生まれている。こうした成功は紛れもない事実であり、AIという技術の進歩とビジネス応用が進んでいる証だろう。

しかし、報道されている成功事例だけを見てしまうと、あたかも“AI”なるスーパーロボットが人の手間を一切掛けずに課題を解決する世界がやってきたようにも見えてしまうが、これだけでAI導入を決意するには情報が少なすぎる。成功の陰に多くの努力が隠れていることは、人間であろうとAIであろうと同じこと。実はこれらの成功は、「新テクノロジー」の名を疑うようなアナログな作業によって支えられていることを知る必要がある。冒頭の相談内容をもとに紹介していこう。

入力→計算→出力そのものがAI

AIにまつわる用語として「学習」という言葉を聞いたことがあるだろう。そもそもAIはロボットのような形のあるようなものではない。小さなコンピュータチップに、エンジニアの手によって書き込まれた数値・数式によって構成されるプログラムである。入力されたデータに計算処理を施し、答えを出力するというプロセスそのものがAIの正体だ。今回の例の場合、傷が入った商品画像をデータとして入力した際に、予め設けられた計算ルールに基づいて画像を解析し、「キズがある」という答えを返すということになる。

この核となる計算ルールをつくるために必要なプロセスが学習だ。いくつかの手法があるものの、一般的にはキズの入った商品画像を大量に用意し、そのパターンを覚えさせる。プログラムであるAIが人間のように「キズ」が何かを知っているはずはないため、何枚もの画像を記憶させて、キズの入った不良品の画像と、何の傷もない良品の画像の違いを見分けられるように鍛えていくわけだ。考え方としては、人間がものを覚える過程と何ら変わらない。

匠の目は、AIでは代われない

言葉では簡単だが、実際はそうはいかない。AIは思った以上に素直で、覚えたものは検出できるが、覚えていないものは検出できない。学習させるデータが1cm大の十字のキズの画像だとしたら、それ以外の形の傷はAIにとっては「キズ」ではないのだ。そのため、多くのキズのパターンの画像を集めて、より多くの不良品の画像を学習させる必要がある。しかし、このメーカー、日本の製造業らしく類稀な品質の高さを誇っており、不良品率は10,000分の1と極めて低い。傷と一言で言ってもヒビ、ワレ、カケ、ハゲなどがあり、その現れ方のパターンも無数にある中で、十分な学習データが確保できる可能性は非常に低い。

では、とりあえず良品の画像と比較して、傷のあるもの全てを不良品として検出することにしてはどうか。だが、やはりAIは素直だ。細かな小傷くらいはどんな良品にも必ずある。それも含めて何でもかんでも検出していたら、製造ラインがストップするくらいの「不良品」で溢れてしまうだろう。

こうなると、商品として許容範囲の小傷は除外しなければいけない。では、「不良品のキズ」と「良品のキズ」の違いは何か。どれくらいの深さのキズは許され、どれくらいの長さのキズだと不良品判定すべきなのか。学習のための画像が収集できないとすれば、何かしら数値的な基準で「キズ」を定義する必要がありそうだ。恐らくこうした判定は、普段は“検品の鬼”的なベテラン作業員に任されていることが多い。想像すればわかるが、匠の目を数値で表すということは現実的にはかなり難しい。

課題はAIよりも人間にある

AIの技術や精度は間違いなく進歩している。ビジネスにおける導入事例も増えてきた。だが、本当に使えるAIを導入できているかどうかは別の話だ。上で見たように、意外にも課題となるのが、人がやるべき作業や判断に関わる部分だ。この容器メーカーの場合、AIを導入するかどうかを判断する以前に、「キズ」「不良品」といった概念を正確に定義することが第一歩だろう。そして、検品作業の完全自動化は不可能であることを前提に、とくに発生頻度の高い不良品パターンを特定することが必要になる。そして、その特定パターンをわざわざAIに検出させることに意味があるのか、現状の業務工程にかかるコストと比較検討しないといけない。AI開発には通常、数百〜数千万円単位の開発費と数ヶ月の開発期間がかかる上、容器のパッケージ変更を行う場合などには、新しい学習データを収集し、再学習させることも避けられないだろう。

AI導入には技術よりもビジネス感覚が必要だと良く言われる。過去の状況、現在の業務運用、今後のビジネス環境を踏まえて投資効果を見極めることができてはじめて、AIはビジネスにとって意義のあるテクノロジーだと呼ぶことができる。

(文=株式会社Laboro.AI 代表取締役CTO・藤原弘将/マーケティングディレクター・和田崇)

※記事内でご紹介している相談内容は、企業が特定できないよう実際の内容をヒントに改変したものです。また、特定の企業様を意図して記載するものでもございません。

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