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ファストファッションはサステナブル?判断基準を持つために必要なこと

共感が変える消費 #4 情報の判断のしかた

コロナ禍によって生活のあり方が大きく変化し、社会が抱えていた不均衡が鮮明になった。ニュースで社会や世界の動きが報じられる機会が増加したこともあり、社会課題に意識が向く人が増加している。そのような中で、日々の消費行動でも社会課題に配慮する傾向が徐々に強まっている。電通の調査では、新型コロナウイルス対策の自粛期間によって30.9%がエシカル消費に対して「意識が高まった」と回答した(※)。
 しかし、社会課題に配慮されている製品やサービスを選択するにあたり、どのような情報を取得し、どんな面を重視すればよいのだろうか。また、それを提供している企業が積極的に社会課題解決に動いているかどうかを知るにはどうしたらよいか。一般社団法人エシカル協会理事、オウルズコンサルティンググループプリンシパルの大久保明日奈氏に聞いた。(取材・昆梓紗)

自分の中にものさしをつくる

―商品に「環境に配慮しています」と書かれていたり、企業がそういった情報を発信することが増えてきました。情報の判断や真偽を確かめるにはどうすればよいのでしょうか。

自分の中で情報のものさしを作ること、その上で情報を得ていくことが必要です。
 サステナブル消費、エシカル消費という言葉は知っていても、実際にどういうものか、何が該当するのか知らない人も多いと思います。当協会では、エシカルを「地球環境や人、社会、地域に配慮した考え方や行動」とお伝えしていますが、こう聞いただけでもかなり範囲が広いことがイメージできるかと思います。また、最新動向もどんどん更新されていて、だからこそ判断もつきにくくなっています。
 その中で重要なのが、正しい情報を得ることです。官公庁や信用できるメディアなどの情報ソースから定期的に情報を取得するほか、弊協会のような関連する団体の講座を受けるのもよいかと思います。

また、SNSやニュースで流れてくる商品や企業の情報だけを見聞きするよりも、積極的に取りに行くことが重要です。
 企業がサステナブルやSDGsについてどう捉えているかを判断するには、統合報告書を見るのがよいと思います。企業スタンスを知るためには最適な資料です。
 短期的なビジネスだけでなく、中長期的に何に取り組むかを開示してほしいというニーズが高まっています。統合報告書ではビジネスの戦略とサステナビリティの戦略を含め、企業としてどのような価値を作っていくのかがわかります。商品やサービスを生み出す企業自体がどういうフィロソフィーをもって何に取り組もうとしているか、という全体像をとらえることも重要です。

オウルズコンサルティンググループ提供

―生活の中ですぐに取り組めることはありますか。

商品やサービスの購入時、どういう風に作られているか店の従業員に聞くだけでも、その背景を知るきっかけになります。従業員がわからない場合、もしかしたらその企業はあまりサステナビリティに配慮していないかもしれません。顧客からそういった声が増えれば、その企業への気づきに繋がります。

ファストファッションはサステナブルか

―情報判断が難しい点は。

ある側面では社会課題に配慮されているけれど、別の面ではそうではないという場合。 例えば、農薬や化学肥料を使った地産地消の農作物と、無農薬だけれど遠方からの配達過程で多くのCO2を排出しているもの。どちらが環境負荷が低く、エシカルやサステナビリティと言えるのでしょう。
 将来、ライフサイクルアセスメントのような定量的な指標ができ、比較できるようになるとよいのですが、今時点では明確な指標がありません。
 だからこそ、自分の中でのものさしを持つことが大事になってきます。例えば、ファストファッションでも、サステナブルな素材を使っていて、企業として社会課題解決への取り組みをしていれば買ってもいい、という考え方もできますし、ファストファッションという大量生産の仕組み自体がサステナブルでないので買わない、という考え方もできます。ですが、後者の考え方のように、一義的な見解だけで不買を決めこんでいるだけでは企業や社会構造も変化していかないですよね。情報の中で、どの面は応援できて、どの面は難しいという判断する軸が大事になってきます。

―企業側も情報発信に苦戦している様子がうかがえます。

コミュニケーションする前提として、商品やサービス自体がサステナブルということが当たり前ですが非常に重要です。
 消費者の感度が高くなっており、見せかけのものは見破られるようになってきています。エシカルやサステナブルを標榜している商品は増えているものの、情報を精査すると、意外とそうではない場合も同様に増加しています。エシカル、サステナブルでないのにそう謳うことによるブランドや企業信頼度の棄損リスクはかなり高いといえるでしょう。コミュニケーションの前に、まずは企業の軸をきちんと確立することが重要です。

―先進的な事例はありますか。

「グッチ」「サン・ローラン」などを擁するフランスのアパレルメーカー「KERING(ケリング)」は、環境負荷を計測し貨幣価値に換算し分かりやすく明示しています。これによりサプライチェーンでの負荷が高いことが判明し、改善を進めています。「この取組みを進めているから、商品もサステナブルだ」というブランド全体でのメッセージを消費者に伝えているので、腑に落ちやすいようです。
 このように商品ごとに「環境に配慮している」と示すのではなく、「このような企業の姿勢から生まれた商品」とストーリーとしてコミュニケーションするとより理解が深まるのではないでしょうか。

―日本では、商品そのものと企業ストーリーがバラバラに発信されているように思います。

欧米企業はブランドや企業ストーリーを含めた商品説明が得意です。日本企業は商品1つひとつの説明をすごく熱心に真面目に行っていますよね。商品と企業姿勢を結び付けたストーリー戦略は増えてはいますが、まだこれからという印象。今後、同じような商品があったら、フィロソフィーや企業姿勢全体がサステナブルな商品を選びたい、という消費者が増えてくる可能性があるので、ぜひ背景も併せて積極的に伝えていってほしいと思います。

大久保理事

(※)電通アンケート

昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
なるべく良い消費をしたいけれど、「ある一面ではエシカル、サステナブルだけれど、他の面ではそうではない」というのは消費者にとっては大変悩ましい問題。情報が増えれば増えるほど判断が難しくなります。客観的な指標が増えればよいなと思います。

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消費者が商品を選ぶ際の判断基準に「共感」が大きく影響するようになってきた。コロナ禍以降、商品やサービスの品質が良いだけでなく、その背景にある製造プロセスでの環境や関わる人への配慮、業界構造問題に対する提起など、企業姿勢まで見据え共感に値するかを評価する向きが高まっている。

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