企業姿勢をチェック、SNSで発信…「行動する消費者」が増えた理由
消費者が商品を選択する際、商品そのものの機能や価値だけでなく、ブランドのストーリーや世界観への共感を重視するようになって久しい。さらに、コロナ禍を経て共感につながる要素が変わりつつある。商品そのものや、それを手掛ける企業・ブランドが「社会・環境問題解決に向けてどんな取り組みをしているか」にまで共感できるか、を計る傾向が出てきた。(取材・昆梓紗)
サステナビリティは「当たり前」
コロナ禍は世界と個人との距離を縮めた。2020年10月に行われた電通の調査(※1)では、「地球環境や社会問題は決して他人事ではない」と回答した83.0%のうち、「前から感じていたが、コロナを機により感じるようになった」と回答した人は42.0%、「コロナを経験して初めて感じるようになった」と回答した人が12.5%。半数以上がコロナ禍で地球環境や社会問題を自分事として捉えはじめたことがわかる。
これが消費行動にも少なからず影響を及ぼしていることが伺えるのが、エシカル消費への意識の高まりである。消費者庁の20年2月の調査(※2)によると、エシカル消費に対するイメージは、「これからの時代に必要」が51.8%。2016年度調査と比較すると、「これからの時代に必要」が大幅に上昇し、「よく分からない」が大幅に低下した。
社会・環境問題解決につながるかどうかが商品購入時の判断基準に含まれ始めている背景には、「商品そのものの機能価値だけの差別化が難しくなってきていることも影響している」と博報堂第二ブランドトランスフォーメーションマーケティング局部長の中平充氏は指摘する。消費への納得感が価値の1つとして重視される傾向が強まり、エシカルやサステナブルといった特性は納得感に結びつきやすい。
そして、若年層でその意識が高まっていることが見えてきた。PwCサステナビリティ合同会社が19年に行った消費者調査では「Z世代」と呼ばれる18~24歳(調査時)は「サステナビリティ」や「SDGs」という言葉の認知度が特に高く、ESG投資の実践割合が他の世代に比べて高いことなどが判明した。「Z世代は、『サステナビリティ』や『SDGs』の概念・理念が当たり前のものになりつつあるのではないか」とPwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンスの上田航大氏は見る。
この背景について、エシカル協会の大久保明日奈理事は、「上の世代では『まずは経済成長』という考えを持つ人が多かったものの、経済成長しきった段階で生まれた若者世代は、『成長のために社会・環境課題をないがしろにしても今後良い世界にならない』という大きな危機感をもって育ってきていることが影響している」と話す。さらにその意識が世代の共通認識として浸透しつつある理由として、情報へのアクセスが圧倒的に早いことを挙げる。例えば、気候変動への警鐘はヨーロッパから発信され、即時的に世界中に拡散されていった。
若者世代は商品そのものだけでなく、それを提供するブランドや企業姿勢までを意識する傾向も他の世代に比べて高いようだ。博報堂が20年9月に行った調査(※3)にて、「商品やサービスを購入・利用する際に、企業やブランドが掲げるビジョンや理念、思想をどの程度気にしますか」と聞いたところ、最も重視しているのは20代だった。「若者世代はネットに流れてくる情報の判断を毎日行いながら育ってきた。『この企業はブラックかも』『いい顔には裏があるのでは』など、ブランドや企業姿勢をシビアにみている傾向がある」と博報堂の中平氏は分析する。
表明、共有することでつながり、広がる
「これまでも何度か社会問題や環境への配慮意識が高まったことがありました。ただ、過去の盛り上がりと大きく異なる部分は、それを表明、発信するハードルが下がり、その動きが高まっていることです」と電通サステナビリティ/パーパスプロジェクトの梅津弓子氏は話す。SNSにより発信ハードルが低くなっていることに加え、世界的な流れを見ても「発信しなければ差別に加担していることと同じ」という流れが、米国のBlack Lives Matterをはじめとする一連の人権問題の動きで見られ、日本でも同様の動きが高まっていることも影響しているようだ。
博報堂の調査でも、ブランドの(社会的な)姿勢を重視する人はブランドについて積極的に情報を取得し、周囲に発信するという傾向が見られるという結果が出ている。
そして、商品に関する口コミのように、企業が自身の動きを発信するよりも消費者が主体となり情報を発信した場合の方が、客観性、説得力が増す。
このような消費者の価値観の変化に伴い、企業やブランドも変わりつつある。
従来は、「使いやすい」などの機能的価値、「楽しい」などの情緒的価値をブランドが消費者に提供する、という一方通行のブランディングや、クラウドファンディングのようにブランドと消費者で価値や体験を共創するブランディングなどが見られた。しかし、「ブランド」と「消費者」という二者間のみだけでなく、ステークホルダーやそれを取りまく社会も含め、実現したい世界をともに目指すという形が、消費者の共感を呼びつつある。
「企業と消費者が共有できる価値観を持っているだけでも親近感は増しますが、企業が実現したい社会像や共有価値に基づき、同じ目的を目指して共に何かを成し遂げるブランド体験があると、絆はさらに強化されます」(電通の梅津氏)。 例えば、「空き容器回収」などの環境・社会課題解決に関する取組みへの参加や、ブランドを通して体験したことの発信などがこれにあたる。
ただし日本では、この新たなブランドと消費者との関係はまだ発展途上の段階だ。博報堂の調査では、「共感するブランドがある」と回答した人は11.4%と、まだ低い割合にとどまっている。「だからこそ、今後成長の余地があるとも言えます」(博報堂の中平氏)。
(※2) 消費者庁調査
(※3) 博報堂調査