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NTTと富士通がタッグ、6Gの商機拡大へ問われる実効性

NTTと富士通がタッグ、6Gの商機拡大へ問われる実効性

澤田NTT社長(左)と時田富士通社長(会見はオンラインで実施。写真はNTT提供)

オープン化戦略で商機拡大

NTTは26日、次世代光通信基盤の構想「IOWN(アイオン)」推進に向け、富士通との連携を強化すると発表した。世界の通信インフラ市場では中国企業など数社が大半のシェアを握る。NTTや富士通は特定メーカーの機器に縛られないオープン化戦略を加速し、第6世代通信(6G)での商機拡大を狙う。今回の提携が日本勢の存在感向上につながるか、実効性が問われる。(編集委員・斎藤弘和、同・斉藤実)

「光電融合」開発急ぐ デバイス、来年度提供

26日にオンラインで会見したNTTの澤田純社長と富士通の時田隆仁社長は、今回の提携強化で「光電融合」技術の開発を急ぐ考えを強調した。光電融合は半導体チップ内の配線部分に光通信を導入して消費電力低減や高速演算の実現を図るもので、IOWNの中核技術と位置付けられている。

2022年度中に光電融合デバイスの商用提供を始める計画だ。

両社はIOWNを推進する国際団体の「IOWNグローバルフォーラム」などで従来も協業してきた。だが澤田NTT社長は「一緒に製品をつくるには、半導体を入り口にした個別の提携を進める必要がある」と判断。子会社同士の資本業務提携に踏み切った。将来に関しては、「(NTTと富士通の関係が)包括的になっていくとは思う」と述べた。

富士通にとっては、今回のNTTとの提携を自社の海外事業の成長につなげられるかも問われる。時田社長は「グローバルに事業を拡大するには、オープンであることが一番大事。独占的に市場を押さえることは社会から受け入れられないし、当社だけで技術革新を起こすことは難しい」と指摘。今後については「必要であれば、いろいろなグローバル企業とも提携していく。排他的に組むつもりはない」と語った。

通信機器の“オープン化”は、「(ファーウェイのように自社の機器で通信事業者の囲い込みを図る)垂直統合の強いところと戦う」(澤田NTT社長)手段にもなる。光電融合でそれを加速できるか注目される。

国際競争、後れ取り戻す NTT、日本の軸に

「日本企業は厳しい状況に置かれている。反省すべきことはしっかりと反省しながら、官民をあげてオールジャパンで国際競争力強化に取り組んでいきたい」―。武田良太総務相は20日の閣議後会見でこう述べていた。

16日の日米首脳会談では、両国でオープンな第5世代通信(5G)ネットワークの推進を確認した。背景には通信インフラ市場の寡占がある。18年時点で基地局の世界シェアは中国・華為技術(ファーウェイ)、スウェーデンのエリクソン、フィンランドのノキアで約8割を占め、日本の通信機器メーカーは国際競争で後れをとっている。

こうした状況が続けばNTTにとっては調達リスクが高まるだけでなく、競争が停滞して技術革新が進まなくなることも懸念される。そこで同社は傘下のNTTドコモを中心に、無線ネットワークのオープン化や高度化を目指す「O―RANアライアンス」を推進している。20年にNTTはNECとの資本業務提携を決めたが、この狙いの一つには日本勢によるO―RAN製品の拡販がある。

また、日米両国は安全保障などの観点から、ファーウェイ製品を実質的に排除してきた。米国は中国政府とつながりがあると考えられる企業から自国の通信インフラを守る「5Gクリーンネットワーク」構想を掲げ、NTTやKDDIなどの日本企業も“クリーンな事業者”に認定した。米国でバイデン政権が発足後も米中対立は収束する兆しがなく、日本企業にとっては米国と連携して自社の存在感を高める好機とも言える。

ただ、既に商用化された5Gで巻き返すことは難しく、勝負できる余地が大きいのは6Gだ。この意味でNTTが30年ごろの実用化を見込むIOWNは武器になりうる。膨大なデータを迅速に処理するIOWNを普及させ、都市管理や自動運転の高度化といった複雑な課題の解決につなげる―。NTTと富士通の連携強化で、こうした流れを加速できるか試される。

日米首脳会談では両国が5G・6Gで連携していくことが確認された(16日、ワシントン=首相官邸ツイッターより)

緩やかな“良縁”関係 富士通、ポスト5Gへ

富士通は、半導体の実装技術で実績を持つ子会社の富士通アドバンストテクノロジ(FATEC、川崎市幸区)の株式の3分の2を譲渡することで、同社の経営権をNTTグループに委ねる。譲渡先はNTT本体ではなく、NTTの子会社であり、資本関係としては緩やかな提携だ。ただ、戦略的には重要な意味を持ち、“遠縁”ながらも、渡りに船の“良縁”といえそうだ。

IOWNに代表されるポスト5Gをめぐる戦略提携では、NTTとNECが先駆け、共同開発へのコミットとして、NTTはNECの発行済み株式の5%を取得した。今回の富士通―NTTの提携も、大きな文脈は「NTT―NEC」の提携と似通っている。

IOWNが普及すれば自動運転の高度化にもつながると期待されている(イメージ=NTT提供)

NECと同様に富士通は、通信機器メーカーでもあり、5Gの無線基地局の開発・製造を手がけ、研究開発ではポスト5Gも見据えている。今回の提携を機に、基地局だけでなく、IOWNの実用化でカギとなる「光電融合技術」をはじめ、技術基盤となる半導体を含めてNTTグループとの関係を強化していくことが可能だ。

富士通はもともと光伝送技術に強く、今回のNTTグループとの連携強化によって、半導体レベルを含めて、光通信関連などで次代への道が広がる。

FATECは、6月から「NTTエレクトロニクスクロステクノロジ」として、NTTグループで再スタートを切る。光電融合技術を用いた半導体などをさまざまな用途に拡大し、低エネルギーで高効率な情報通信技術(ICT)システムの実現を目指す。

富士通はここ数年にわたる事業構造改革によって、パソコンや携帯電話などのハードウエア事業を相次ぎ連結から外し、グループ再編を進めてきた。半導体事業も本丸の製造部門は連結から切り離している。ただ今回は、こうしたグループ再編とは異なり、将棋で言えば重要な手駒を切って、新たな活路を開く妙手といえる。

日刊工業新聞2021年4月27日

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