全固体電池がクルマに採用される課題は?トヨタや日産が今考えていること
カーボンニュートラルの潮流に乗り「全固体電池」への注目が高まっている。現在はスマートフォンやパソコン、自動車、住宅までさまざまな領域でリチウムイオン電池が使われている。従来のリチウムイオン電池は電解質が液体なのに対して、全固体電池は文字通り固体だ。液漏れの心配がない安全性や、充電時間が短い利便性などの特徴がある。各業界が注目する全固体電池の開発動向を追う。
航続距離長く
電動化が加速する中、自動車業界で電池の開発競争が激しくなっている。電気自動車(EV)などの電動車に搭載される液系リチウムイオン電池の性能向上と合わせて、今後登場が待たれるのは全固体電池だ。全固体電池は液系電池よりエネルギーを高密度化でき、電動車の航続距離を飛躍的に伸ばせる。
富士経済(東京都中央区)によると全固体電池の世界市場は2020年見込みの34億円に対して、35年には2兆1014億円に急拡大すると予測される。電動車などで利用が見込まれる硫化物系の全固体電池がけん引すると見られる。期待が高まる一方、課題もある。その一つが材料開発だ。
電極割れ防ぐ
20年代前半に全固体電池の実用化を目指すトヨタ自動車。実現に向けて「充放電の際に膨張収縮しにくい材料を開発する必要がある」とパワートレーンカンパニー幹部は話す。
材料(粒子)の膨張収縮は電極体の“割れ”を起こす。リチウムイオンの通り道が途切れるため、電池性能が低下してしまう。全固体電池を長期利用する上でも課題だ。これらの課題を解決できる材料ができれば「全固体電池の開発は大きく前進する」(パワートレーンカンパニー幹部)とみている。
さらに固体電解質は水分に弱い。大気中の水分に触れても変質する。水分に強い材料も探索中だ。難題の材料開発では海外の大学や研究機関との連携も進めている。
また、厳格な水分管理が求められる全固体電池の生産にはドライルームなどの専用設備が必要だ。ただ密閉系では作業性が低く量産には不向き。トヨタでは気流などを活用して、開放系でも乾燥状態を保ちながら生産できる工程開発に取り組んでいる。
全固体電池を普及させるにはニーズ探索がカギを握る。「液系リチウムイオン電池に対して、全固体電池ならではのメリット、特性が発揮できる搭載車両をしっかり見極めることが大事だ」(同)という。
コスト競争力
日産自動車も全固体電池の開発を進めている。「全固体電池は内燃機関並みにコスト競争力のある電動車を実現する、キーアイテムの一つして有望だ」(日産関係者)とする。開発の課題は車用途として必要なエネルギー密度、耐久性、安全性、量産のための技術などを挙げる。
全固体電池は海外の自動車メーカー勢も開発に力を入れ、実用化に向けた期待が高まっている。ただ液系リチウムイオン電池が行き渡るなか、全固体電池の投入には経済合理性や消費者ニーズなどの視点も欠かせない。
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