今年度グッドデザイン賞公募開始!ビジネスの潮流は「循環」へ
国内で唯一の総合的なデザイン顕彰制度である「グッドデザイン賞」の今年度公募が1日開始する。ここ数年、課題解決だけでなくビジネスモデルや生産工程まで評価された受賞事例が増えてきた。グッドデザイン賞から見えてくる潮流や、デザインとビジネスの関わり方の変化について、審査委員長を務める多摩美術大学教授で有限会社ザートデザイン安次富隆取締役社長に話を聞いた。(聞き手・昆梓紗)
コロナ禍から教訓を得る
―今年度のグッドデザイン賞では、コロナ禍の影響が出てくるとみられます。
昨年度募集開始時はまだコロナ禍の影響はなかったが、応募作品の中に関連するものは数多くあった。持続可能な開発目標(SDGs)に以前から取り組んでいる応募者が多かったことが背景にある。2021年度は直接的にウィズ、アフターコロナをテーマにしたものが出てくる予測をしている。
―以前からあったSDGsの流れが、コロナ禍によって表面化したのでしょうか。
SDGsで掲げているゴールは、資本主義経済を持って積極的に実行していくにはハードルが高い目標でもある。だからこそこれまで進められていなかった面がある。しかし、コロナで経済活動が制限される中で、SDGsに取り組まざるを得なくなったのではないか。これまで通りに生活できなくなった環境で、コロナ禍から教訓を得て次の時代へ歩んでいく時代になるのではとみている。
―経済活動が再開していくとSDGs的な考え方との軋轢が生じていく恐れがあります。
その中で注目されているのはサーキュラーエコノミー(循環経済)。資源を使い捨てるのではなく循環させていく経済活動で、20年度の受賞作品では、回収した古着から服を作り販売する日本環境設計(東京都千代田区)のビジネスモデル「BRING」がある。このような新しい仕組みづくりにはデザインの力が不可欠だ。
―仕組みづくりでは、従来デザインに関わりの無かった人が参加する可能性が増えてきますが、その際の問題とは。
今までの経済活動では、専門分化することが効率的な生産に結びついていた。そうなると専門用語が増え、異なる領域の人と協働する際に弊害となってしまう。
―その問題解決のためデザインに期待されることは。
デザインの良いところは、誰もが持っている『好き・嫌い』や『美しい』という感覚を入り口にしてコミュニケーションできることだ。デザインは良い『姿形』をつくる行為だと誤解されてきたが、そもそもデザインは色々な分野や領域を結びつける行為。デザイナーは専門知識や技術の壁を越えてさまざまな領域の橋渡しになる力をもっている。オーケストラの指揮者や映画監督のような存在だと思う
―企業経営にも通ずる考え方ですね。
経営者はデザイナーでなければならない。そしてすべての工程の人を適切に動かし、一つの目標に向けて皆をまとめていく人がデザイナー。すべての部署に精通して理解し、企業を動かすことができていれば、その経営者はデザイナーだ。
安次富 隆
プロダクトデザイナー|有限会社ザートデザイン 取締役社長
グッドデザイン賞2021年度審査委員長
85年多摩美術大学卒。ソニーデザインセンター入社。91年ザートデザイン設立取締役社長。2000年よりグッドデザイン賞審査委員。02年多摩美術大学助教授、08年教授。沖縄県出身、61歳。
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