世界に挑む日本発の「陸上養殖」、英国王室の昼食会でも振る舞われた味

多彩な経歴を持つ4人のメンバーが集結

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ブランドプロデュースの一例。宮崎大学発ベンチャーと共同開発した「つきみいくら」

「日本の陸上養殖を世界で戦える産業に」。こんなミッションを掲げるスタートアップが2020年に誕生した。「さかなファーム」(東京都大田区)。IT大手やコンサルティング企業出身など多彩な経歴を持つ4人のメンバーが集結し、養殖魚の生産者と消費者をつなぐ「プラットフォームカンパニー」を標榜(ひょうぼう)する。

そのビジネスモデルは、最新技術、データを駆使した生産管理や市場ニーズに基づく商品企画、さらには養殖魚ならではの魅力を発信するブランド戦略まで総合的に手がける。一見すると水産業とは無縁の面々がなぜ、「養殖の産業化」という新たな価値創造に挑むのか。

ビジネスの源流、着想は、経営陣のひとりでもある金子智樹さんの家業、「金子コード」が手がけるキャビアの養殖事業にある。古くは電話交換機用のプラグコード、現在では医療用カテーテルなどの製造を手がける金子コードが、新たな収益源として着目したのが高級食材であるキャビアの養殖。全く畑違いの参入ながらも5年あまりで世界をうならせる味に育て上げた。2019年には英国のエリザベス女王ら王室が世界の著名人を招待した昼食会でも振る舞われたほどだ。

「日本人が持ち合わせている食文化や感性、さらにはカイゼンを追求するモノづくり力を生かすことができれば、養殖産業の成長余地は大きいとみています。金子さんの挑戦がそれを証明しています」。さかなファーム社長の原和也さんはこう語る。

世界の潮流は「育てる漁業」

実際、世界に目を転じれば、人口増や経済成長に伴い、魚介類の需要は右肩上がりに拡大。アジアを中心に生食の需要も増える一方、その多くを供給してきた海上養殖は適した漁場が限られ、欧州などの環境規制で、今後の増産も厳しい状況にある。「獲る漁業(漁船漁業)」から「育てる漁業(養殖)」への転換が進むなか、計画的で環境負荷の少ない陸上養殖は、とりわけ注目されつつある。

産業として有望視されるにもかかわらず、国内の養殖生産量は横ばいで推移。背景には生産効率化が進みにくい実情やエネルギーコストなどがあるが、原さんが構造的な課題と指摘するのは「養殖魚のサプライチェーンを構築する上で、必要な機能を横断的に提供する枠組みがない」点だ。

生産者は消費ニーズや市場の変化に触れる機会が限られるなか、勘と経験に依存した生産手法から脱却できず他方、消費者は「養殖は天然モノには劣る」とのイメージを払拭(ふっしょく)できないでいる。「養殖生産物の魅力を多面的な角度から伝えることで、価値観を変え、新たな食文化を創り出すことができる」(原さん)と考えている。

同社が目指すのは、サプライチェーンの局面に応じたノウハウ提供。例えば生産工程では、市場性や事業性を反映した魚種の選定や、ITを活用した効率的な生産支援を実施。加工段階では「ユーザー」である料理人が求める品質やニーズに関する情報を生産者と共有すること新たな商品開発や品質改良につなげる。

既存の生産者に対する支援はもとより、新規参入の促進や有名料理店のシェフと連携した商品開発やブランド、マーケティング戦略も手がける。

連携による初の商品化となったのは、宮崎大学発ベンチャー「Smolt」と共同開発した「つきみいくら」。黄金色に輝く美しいイクラである。希少魚であるサクラマスを完全養殖する「Smolt」の技術と、さかなファームが持つ一流シェフとの人脈が独特の美しさや風味、食感を併せ持つ新たな食材を生み出した。

陸上養殖をめぐっては、地域の名産品とすることを狙った小規模な生産が多かったが、ここへきて市場の将来性に着目した大手企業や異業種からの参入が相次ぐ。プレーヤーが増えれば増えるほど、それぞれのビジネスをつなぐ中核的な存在として、同社の先見性や機動力に対する期待は大きい。

さかなファームの原和也社長

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