日清×東大も培養肉で参入!「フードテック」の進化が止まらない

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DAIZの植物肉を原料に用いたトルティーヤ(DAIZ提供)

食の分野で最新技術を活用し、食料不足などさまざまな課題解決につなげる「フードテック」の取り組みが加速している。人口増加による食料不足や畜産の環境負荷低減などを目的に代替肉の開発が進む。産学官による官民協議会も発足。技術開発やルール形成、市場開拓などに取り組みグローバルで主導権を握りたい考えだ。フードテックが社会課題解決の切り札となるか。(高屋優理、九州中央・勝谷聡)

官民協議会、技術開発・投資後押し

「日本は海外に比べフードテックの投資額が小さい。協議会での取り組みを通じて、海外に劣らない市場を作りたい」―。農林水産省大臣官房政策課の大曲英男企画官はこう意気込みを語る。

農水省は10月、今後の食料問題などを踏まえ官民で社会的課題の解決や業界の取り組みを促進する「フードテック官民協議会」を設立した。「スマート育種産業化」「ヘルス・フードテック」「宇宙食」「細胞農業」「昆虫ビジネス」など七つのワーキングチームを中心に活動を展開する計画だ。

世界でフードテックへの投資が活発化している。だがベンチャーキャピタルの米AgFunderの調査ではフードテック分野への日本の投資額は約97億円。米国(9574億円)や中国(3522億円)、インド(1431億円)などに比べ大きく劣る。

この状況を受けて、農水省は4月に同協議会の前身となる「フードテック研究会」を発足。100以上の企業・団体が参加し、フードテックに関する活動の実態や技術開発の動向、投資環境などを調査。今後、議論すべき課題として「戦略的なルール形成」「研究開発環境の整備」「投資環境の整備」の3点を挙げた。同協議会はこの提起を“たたき台”に活動を進める。

大曲企画官は「民間主導で議論を進めないと意識が高まらない」と指摘する。将来の市場形成は民間が担うことを見越し、基盤作りから自主的な活動を促し、グローバルでの競争力を高める考えだ。

DAIZ、発芽大豆で肉の食感再現

DAIZ(熊本市中央区、井出剛社長)は、発芽大豆を使った独自技術による機能性植物肉「ミラクルミート」を開発して製造販売するスタートアップ。ミラクルミートは丸大豆が原料で、味や機能性を自在にコントロールし、うま味や栄養価を増大させる。肉同様の食感も再現できる、として注目される。

商品開発と販売力の強化を推進。ハンバーガーショップ「フレッシュネスバーガー」を展開するフレッシュネス(横浜市西区)や、ホテルオークラ福岡(福岡市博多区)、エイアンドダブリュ沖縄(沖縄県浦添市)の新メニューに採用。ローソンが展開する「ナチュラルローソン」の新商品「トルティーヤ」の原料にも採用された。

1月にニチレイフーズ(東京都中央区)、10月にきちりホールディングス(HD)、11月に日鉄物産と資本業務提携を結び、資金調達を実施。累計調達額を13億3000万円とした。2021年秋には熊本県内に国内最大級の植物肉工場を新設する。「ミラクルミートの年間生産量は現在の10倍の1万トンに引き上げる」(広報担当)という。

植物肉の原料となる大豆の発芽タンク(DAIZ提供)

日清食品×東大、培養肉で塊状ステーキ開発

日清食品HDは、17年から東京大学生産技術研究所の竹内昌治教授と培養肉を共同で研究している。両者が目指すのは塊状のステーキ肉の開発だ。

代替肉は世界で開発が進むが、大豆などを使った植物肉や、培養肉でも比較的作製しやすいミンチ状が多い。塊状の培養肉は筋組織を立体構造にする技術的なハードルが高い。

日清食品グループグローバルイノベーション研究センター健康科学研究部の古橋麻衣さんは「ステーキ肉は食感を出すために配向筋組織を作り、それをさらに大きくしなければならず、非常に難しい」と話す。

両者は19年に牛の筋細胞から1センチメートル角の培養肉の作製に成功した。繊維状の筋組織を同一方向に並べて培養するためのモジュールを作製。この筋細胞モジュールを42枚重ね、7日間培養して、肉塊の作製にこぎ着けた。

25年3月をめどに縦7センチ×横7センチ×厚さ2センチメートルに肉塊を大型化することを目指している。日清はこの大きさの肉塊の開発を、培養肉の基礎技術確立と位置付けている。

現状、培養肉はシャーレに入っているが、同研究センター新規事業推進室の仲村太志課長は「時期は明示できないが、なるべく早く口に入れることができるようにしたい」と意気込む。日清は協議会の「細胞農業」ワーキングチームにも参画している。技術開発と合わせて、ルール形成を先行することで培養ステーキ肉の市場展開をリードしていきたい考えだ。

日清食品HDと東大は共同で研究開発を進める

多摩大ルール形成戦略研、国際ルール先行作成

七つのワーキングチームのうち、すでに活動が始まっているのが「細胞農業」のワーキングチームだ。事務局を務める多摩大学ルール形成戦略研究所(CRS)が1月に設立した「細胞農業研究会」が母体となっている。

同研究会は、市場が未形成の細胞培養肉の国際的ルールを先行して作ることで、市場をリードすることを目的に活動を推進。官民協議会の設立を受け、ワーキングチームに合流した。ワーキングチームの活動も同研究会の取り組みを踏襲する。

CRSの福田峰之客員教授は「技術開発を国際ルールの形成とセットで考えることはリスクヘッジになる」と話す。これまで市場にないものを提供するには、商品の名称や表示、販売ルートなど、細かなルール設定が必要になる。ワーキングチームでは、細胞培養肉の定義や名称、食品としての安全性の確保、食品表示の方法などを関係省庁と一体となって検討を進めている。まず、ルール形成の素案となる提言書を21年初頭にまとめる計画だ。

福田客員教授は「日本は技術で勝ってもビジネスで負けている」と話す。ワーキングチームでは今後、会員に細胞培養肉をベースにした事業の立ち上げを促す考えだ。「活動はあくまでビジネスを作るためのものだ。細胞培養肉のようなブルーオーシャン(競争相手のいない未開拓市場)は他ではあまりない。実効的な活動を目指している」(同)と意気込む。

日刊工業新聞2020年11月27日

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