安い!うまい!食べやすい!「昆虫食」こそ人類の希望?

スタートアップの市場参入が相次ぐ

  • 0
  • 1
コオロギ粉末(右、BugMo提供)entomoのいもむしゴロゴロカレー(entomo提供)

昆虫食ビジネスがじわりと脚光を浴びている。国連の持続可能な開発目標(SDGs)の観点から食料問題を解決する“次世代たんぱく質”の一つとして注目され、国内ではスタートアップなどによる市場参入が相次ぐ。新型コロナウイルス感染拡大を受け、食料の安定調達が課題として浮き彫りになった。昆虫食や昆虫を用いた循環型社会の構築に向け、ビジネスの可能性や今後の課題を追う。(大阪・中野恵美子、同・大川藍)

BugMoが製造販売を手がけるコオロギ粉末(BugMo提供)

事業モデル、地域で完結

コオロギ粉末の生産販売を手がけるBugMo(京都市上京区)の松居佑典最高経営責任者(CEO)は昆虫食が「地域で完結するたんぱく源になりうる」と説く。牛や豚などの畜産業は飼料となる穀物を海外から輸入する。感染症の影響などで多くの国や都市が封鎖されれば穀物のサプライチェーン(供給網)が寸断される恐れがある。

一方、昆虫の餌には大豆かすや米ぬかなど国内産業における副産物を利用できる。同社は現在ベトナムでコオロギを養殖するが、国内での量産に向けて生産の機械化に乗り出した。20フィートコンテナ内にコオロギの餌やりから収穫まで自動で行うモジュールを開発し、今夏の実用化を目指す。

蚕を原料とした食品開発を手がけるエリー(東京都中野区)の梶栗隆弘社長は「養蚕は日本の気候に適し、国内なら生産場所を選ばない」と話す。一方、課題は昆虫食の認知度向上だ。「感染症などの影響で海外からの食料輸入が滞っても、昆虫食を食べようという意識は働かない」(梶栗社長)。消費者の受容性が低い段階では直ちに代替食品としては選ばれないとみる。

同社は味や健康の観点で昆虫食を選んでもらえるよう工夫を凝らす。現在は一時的に閉鎖しているが、1月から東京・南青山に蚕を味わえる期間限定店舗(ポップアップストア)を展開。ハンバーガーやスープに蚕の粉末を利用し、おいしさを前面に打ち出した。来訪客の9割以上から好評を得たという。

たんぱく質など栄養素に焦点が当たることが多い昆虫食だが蚕の機能性をエリーと共同研究する京都大学農学研究科の高橋春弥助教は「栄養のみならず『健康機能性』に着目すると面白い」と指摘する。体の調子を整える健康機能性について蚕でのエビデンス(科学的根拠)はほとんどないが、細胞実験レベルでは数千種類の成分が含まれるという。「単なるたんぱく質の代替ではない昆虫食の可能性が示せれば非常に夢がある」(高橋助教)と話す。

コオロギ粉末は大豆かすや米ぬかなど国内産業の副産物を餌にしたコオロギから生産する(BugMo提供)

循環型社会の構築に一役

「慣れた人には、昆虫の味や食感そのものを好きになってほしい」と呼びかけるのは、昆虫食のentomo(大阪府和泉市)の松井崇社長だ。シアバターのもとになる、シアの木に生息する幼虫を用いた「いもむしゴロゴロカレー」を開発した。シアの葉の香りが広がり、エビと似てプリプリとかみ応えがある。発売は今夏を予定している。

松井社長は「『安い、うまい、食べやすい』を追求し、食文化として広めたい」と熱を込める。東大阪大学短期大学部実践食物学科長の松井欣也教授と連携し、豊富なメニュー開発や災害用保存食としての可能性を探る。昆虫食は長期保存でき、たんぱく質や食物繊維を豊富に含むことから保存食との親和性が高い。食品としての安全性やおいしさ、手頃な価格が実現できれば市民権を得られる。

昆虫食のentomoはいもむしゴロゴロカレーを開発

昆虫は次世代型の飼料や肥料としても有効活用でき、循環型社会形成の一助となりそうだ。ムスカ(東京都港区)は、イエバエを使って有機廃棄物を資源化する。優良種化したイエバエの卵からふ化した幼虫が、家畜の排せつ物などを分解する。幼虫自体は乾燥処理して飼料となり、有機廃棄物は肥料として活用できる。

従来の微生物による発酵処理は数カ月以上を要するが、イエバエを用いると1週間で完了する。また、微生物の発酵過程では強い臭気が周辺地域への課題だったが、イエバエは密室空間で分解するほか、約3日で臭気がなくなるという。大学との共同研究で、飼料の耐病性効果や肥料の土壌改善効果も実証された。

これまで、生産した肥料で育った作物などを試食するイベントを百貨店で開き、好評を得た。先行する欧州に比べ、日本では養殖に関する制度設計や認知度アップに後れを取っているが、同社は近く工場の新設、自動化設備の導入を見据える。「行政と協力しながらサプライチェーンを構築したい」(流郷綾乃CEO)と意欲を燃やす。

ムスカは生産した肥料で育った作物の試食イベントを百貨店で開催した
【拡大版は日刊工業新聞電子版で】

日刊工業新聞2020年5月19日

COMMENT

小川淳
デジタルメディア局
編集部部長

日本では近代までは貴重な動物性たんぱく質として食べられていましたし、今でもイナゴや蜂の子の甘露煮などは地方の産品としてありますし、カイコのサナギもそうですよね。僕はタイに行ったとき、タガメを食べたことあります。味はともかく、感触がハードル高かったです!食文化って、要は慣れのところがあるので、頭では栄養があって地球環境に優しいとは分かっていても、昆虫食を積極的にチャレンジしようという風潮にはまだ早いかなという気がします。美容とか健康とか、あるいはビールのつまみに合うとか、昆虫食ならではのセールスポイントが浸透しないと、日本で市民権を獲得するのはまだ先ですかね。食糧危機の解決につながる人類の福音かもしれませんし、応援したいです。

関連する記事はこちら

特集