世界で愛されるHARIOのシンプルなデザインと機能性はどのようにして生まれるか
海外の有名バリスタが愛用していることから逆輸入的に日本でも人気に火が付いた、コーヒードリッパー「HARIO V60」。多くのプロが支持するこの製品だが、一番安価なものでは350円という低価格で、一般家庭でも広く使われている。2007年にはグッドデザイン賞を受賞した。
これを開発したのはコーヒー用品や耐熱ガラス食器類を手掛けるHARIO(ハリオ)だ。安価ながら機能と美しさを兼ね備えたシンプルなデザインの商品の数々は、国内外で広く愛用され、多くのデザイン賞を受賞してきた。優れた製品を生み出す秘訣の一つは、コンセプトづくりから設計、プロモーションまで一貫して「商品開発部」が担う体制にある。見た目の美しさだけでなく、素材や品質、機能、コストなどさまざまな要素をバランス良く組み合わせ作り上げている。
バランスの上に成り立つデザイン
ごはんの炊きあがる様子が見える「フタがガラスのご飯釜」、茶こしが内蔵されているのにスタイリッシュな「フィルターインボトル」―定番をベースに新たなアイデアを追加した商品や、機能をミニマムなデザインに集約した商品が多いことが同社の特徴だ。
商品開発は「どう使ってもらうか」を意識したコンセプトづくりからスタートする。そして、すべての商品の軸になっているのが「おいしさの追求」。例えば、V60にはコーヒーペーパーフィルターとドリッパーの間に空気の層を作るため、内部のリブを立てた。「おいしいコーヒーが淹れられる最適な高さに調整するため、手作りで検証を重ねました」(商品開発部の坂本敦子氏)。
同社は食品関係の商品が多いこともあり、安全性への配慮は不可欠だ。もともと創業時は耐熱ガラスを使った理化学用品の製造を行っており、そこから家庭用分野に進出。「耐熱ガラスは急激な温度変化に強く、熱いものを入れても割れません。綺麗に洗え、熱湯消毒ができることから、コロナ禍でも安心安全に使ってもらえることも強みとして打ち出していきたいと考えています」(坂本氏)。
機能、安全、コストなど、各方面でのすり合わせにより、発売時には初めのデザインから大きく変化するものも少なくない。全体の工程を商品開発部が一貫してみることにより、すべてのバランスを取りながら機能美を実現したデザインに結実している。
プロダクトデザインだけでなく、素材や機能など幅広い知識が求められる同社の商品開発部。坂本氏は、「いろいろなモノの構造に興味を持ち、知ることが重要。さらに自分自身が一ユーザーとしてどういったものを使いたいか、という目線を常に持つことが大切です」と話す。
どう使ってもらうか
ただ、良いものを作っても、その使用方法や機能が顧客に伝わらなければ意味がない。同社では「伝え方」も重視している。
「機能があっての商品ですが、一見すると使い方が分からないものも多く、消費者に伝わるような工夫が必要です」(坂本氏)。10年ほど前より、商品開発部と企画広報部が共同で写真や動画を使い製品の使い方や良さを伝えるコンテンツをホームページやSNSなどで充実させる取組みを行っている。
また、リアルの場で直接商品の良さを伝える「HARIO CAFE」を東京と名古屋に開設。総合的に家庭用調理器具類を開発・販売している強みを生かし、同社の器具を使ってコーヒーや紅茶を提供。器具の販売も行う。また、講師を呼んでセミナーを行うなどイベントも開催している。今後海外展開も予定しているという。
従来の商品とは違った形で顧客との接点を増やしているのが、耐熱ガラスを使った手作りアクセサリー「HARIO Lampwork Factory」だ。「東日本大震災で停電が起こった際にガラスの原材料を熱し続ける窯の火を止めなければならず、大きなガラスの塊ができてしまったのです。これを何とか使えないかという社長の思いからスタートしました」(マーケティング本部企画広報部の辻本真理氏)。
2015年に東京・日本橋に工房兼販売店をオープン。現在は7箇所で生産する。これも、素材、技術、機能とデザインを融合させた取組みの1つと言えるだろう。
創業時からの加工技術、家庭用調理器具にみられるような機能美、SNSやカフェ、アクセサリーなどの新たな伝え方までを一体的に捉え、どのように価値を提供していくかをデザインする姿勢が、HARIOの事業の可能性を広げている。
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