三井住友銀行が求めたユーザー目線、実現させたデザインの力とは

【特集】歩み寄るデザインとビジネス #3 三井住友銀行

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写真提供:三井住友銀行

インターネットバンキングや決済アプリなど、銀行におけるユーザーとの接点がリアルからオンラインへと大きく舵を切りつつある。そこでのコミュニケーションにはデザインが大きな力を発揮する。
 三井住友銀行(SMBC)がデザインチームを立ち上げてから約5年。デザイナーならではの「ユーザー目線」を生かし、今ではサービスの使い勝手を高めるだけでなく、企画段階からサービスを生み出す役割も担い、行内で存在感を高めている。(鈴木奏絵)

「面接に半年かかった」

SMBCは2019年にスマートフォン用の「三井住友銀行アプリ」でグッドデザイン賞を受賞した。アプリならではの操作性とサービスにおける「ユーザー目線に立つ」デザインの追求が評価につながった。

三井住友銀行アプリ

SMBCがデザインチームをリテールIT戦略部に立ち上げたのは2016年。インターネットバンキングや決済アプリの登場によって銀行のwebサービスのニーズが増した時期だ。しかし、「ユーザー目線」を持つためには銀行員だけの発想では難しい。デザインの力を取り込むことでSMBCらしさをより追求することを目指した。外部のデザイナーに依頼することも可能だが、それではイメージの共有がスムーズに行えず、完成に時間を要する。インハウスのデザイナーを採用することで、SMBCの軸や「らしさ」をデザイナー自身が吸収し制作にあたることを可能にした。
 また、銀行の企画担当者はビジネスの目線、デザイナーはユーザー目線と、互いの長所を活かし合うことでスピードだけではなくクオリティーも向上した。

1人目のインハウスデザイナーとして採用されたリテールIT戦略部の金澤洋氏は、「面接に半年かかった」と振り返る。SMBC側も金澤氏も互いに手探り状態であったため、何度も面談を重ね信頼関係を築いた上で採用された。
 これまで行内に専属のデザイナーはおらず何もないところからの立ち上げとなったため、「制作に必要なMacを調達するまで4か月もかかった」と金澤氏は笑う。

デザインを浸透させる

入行当初は常駐している制作会社と同じ仕事を割り振られ、彼らと何が違うのかを問われることもあった。そのような状況でも、依頼された仕事は断らず、少しずつ実績を証明することで様々な人と仕事をするようになった。
 しかし、デザイナーとの関わり方がわからない行員も多く、大半の業務は「(制作物の)見た目を整える」という仕事だった。この状況を変えるべく、「(行内に向けて)『デザインとは何か』の説明など、土壌を作るところから始めた」(金澤氏)。インハウスデザイナーとしての役割や意味を明確化させるため、依頼される仕事と並行して「デザインガイダンス」を行員向けに開始。デザインの重要性やインハウスデザイナーと外部のデザイナーとの役割の違いを説明した。
 デザインシステム(サービスとして統一した文字や色のルール)も確立し、協力会社を含め誰に頼んでもSMBCらしさや品質を保てるようにした。デザインシステムを作ったことでビジュアルやUI設計の効率が上がり、毎回一から議論する要素が減った。UXの検証にも時間をかけられるようになった。また、デザインツールのフィグマやXDなどを利用しフィードバックできる環境を作り上げることで、デザイナー以外の企画担当やエンジニアからも意見を言える状況になっている。

デザインシステムを説明する金澤氏

一度仕事をともにすることで行内でのデザイナーへの理解が深まり、リピーターが続出。入行から1年ほどして、本来金澤氏が得意としているコンセプト作りの段階から参画してほしいという声が増加した。銀行の中だけではなく、グループ会社の三井住友カードや証券などからも「デザインを教えてほしい、相談したい」と声が上がっている。

ビジネスに貢献する醍醐味

デザインチームの立ち上げから5年経った現在では、5人のデザイナーがリテールIT戦略部に所属している。仕事のニーズは増える一方だ。組織の中でデザインを理解している行員も増加し、デザイナー以外でもデザインのプロセスに取り組む様子も見られるようになった。デザイナーがプロジェクトの上流から入ることで理解に繋がり、デザイナーに近い思考ができるようになる。
 「企画段階でお客様目線やUIUXを意識したものになり、スピードもクオリティーも高まった。デザイナーとのやり取りもスムーズになっている」(リテールIT戦略部副部長高橋直人氏)。

また、ビジネスに入り込むことでデザイナーにとっても成長の機会になっている。インハウスデザイナー組織はデザインチームとして独立していることが多い。SMBCではビジネスユニットの中のデザイン部として存在しているため、ビジネスとの距離が近い。デザイナーの制作物はビジネスの要件を汲んだ上でのアウトプットが必須だ。デザイナーだけでは「かっこいい、センスがいい」など感覚的なところで分かり合えてしまうが、行員に対して「なぜいいのか」を言葉にして考え説明することで、デザイナーとして成長できる環境になっている。
 「ビジネスを俯瞰することでユーザーの立場を忘れないようにしている。全然違うバックボーンであることを学びながら、ビジネス側に行こうとするわけではなく、理解しようとする」(金澤氏)ことでお互いの強みを補完し合う関係となっている。

左より、リテールIT戦略部の高橋直人副部長、同部の金澤洋氏

金澤氏をはじめとしたSMBCのデザイナーたちはnoteでデザインに関する情報発信を行っている。デザインは使い勝手に注目されがちだが、それが浸透した先にはビジネスの考え方や会社のビジョンを訴えていくことを可能にする。「デザイナーがビジネスに入っていくのは醍醐味であり課題でもある。デザインはビジネスに貢献していかないと、デザインとしてのレベルは上がっていかない」と金澤氏は言う。

SMBCは来期、インハウスデザイナーが参画した複数の案件のリリースを控えている。今後、デザインをビジネスに浸透させ「ユーザー目線」を叶えるため、現在5人のデザイナーを15人に増加し、行内での認知度を上げていくことが目標。デザインチームを組織として拡大させ、必要な体制を整えることが重要だ。SMBCはデザインとビジネスの融合によって、使い勝手が浸透した先の「らしさ」を訴えていく。

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COMMENT

鈴木奏絵
デジタルメディア局

デザインというと「見た目を整える」印象を持つ人は多くいると思います。見栄えがいいだけではなく、使い勝手や「らしさ」を伝えていくためにもビジネスへデザインが浸透していくことが重要です。

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