スマホ用スピーカーの振動板を年間6億個供給!米島フエルト産業の付加価値戦略

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「コンポジットハイウエイ・アワード」素材部門で準グランプリに輝いた新技術「ミルフィーユコンポジット・コアフレーク」

発泡体をブロック材から0.06-0.3ミリメートルの厚みに極薄にスライスし、極薄アルミ箔(はく)と貼り合わせた複合材をスマートフォン用スピーカーの振動板として年間約6億個供給している米島フエルト産業。年間約6億個に上るその規模は世界のスマホ用振動板の2割以上を手がけているとみられ、まさにグローバルニッチトップ企業である。

祖業は羊毛プレスフエルト

近年は同技術を生かし、60マイクロ-3000マイクロメートルの厚みにスライスした極薄硬質発泡体と炭素繊維プリプレグの硬質層を貼り合わせ、薄く多層な構造のプレス成形用シート材「ミルフィーユコンポジット」を提案。ドローンや人工衛星、航空機部材など多様な引き合いが寄せられている。これだけの極薄スライス加工技術を持つ企業は珍しい。

創業は1946年。今年75年目を迎える。初代が1952年に羊毛プレスフエルトの卸売りで本格的に商いをスタートしたことが社名からも伺える。国産初のマーカーペンの芯となるインク含浸材に採用されたことを機に、素材メーカー、加工メーカーと連携して独創的製品を生み出す新たなビジネスモデルを確立した。芳香剤や忌避剤などにも展開し、関西圏の文具、生活用品メーカーの商品開発に貢献してきた。

80年代から90年代にかけて転機が訪れる。ラジカセなど音響機器、携帯電話、ゲーム機の普及に伴い、マイクやスピーカー部分などへのゴミの侵入を防ぐ、防塵不織布部品の需要が盛り上がってきた。そこでフェルト技術を生かし、同分野で世界スタンダードともいえる高性能部品を開発。電子部品メーカーに採用され、時代の流れに乗った。2001年には中国に製造子会社を立ち上げ、海外事業拡大に向けた礎を築いた。

時を経てコピー商品が出回るようになると、新興国メーカーに需要を奪われる。そこへ現れたのがスマートフォン向け振動板という新たなニーズだった。この事業化に成功したのが、4代目で現代表取締役社長である米島智哉氏だ。大学で機械航空工学を学び、卒業後に入社。中国工場などで仕事を学び、父である先代の後を継いでトップに就いた。

4代目となる米島智哉社長。「独創的なアイデアと技術革新を重ねたい」と語る

創業者、二代目が築き上げたオープンイノベーションの事業モデルを承継。「関西には先端素材を扱う企業や超精密加工にたけた企業など素晴らしい技術を持った会社が多い。細かいニーズへの対応力は抜群」と米島社長が語るように、創業以来の協力関係を生かしてスマホ用振動板を開発し、「当社の製品が品質、性能ともに一番良いという評価が定まった」という。

一躍脚光の新素材

現在、米島社長が力を入れているのが先述の「ミルフィーユコンポジット」だ。ポリメタクリルイミド(PMI)などの硬質発泡体と炭素繊維を多層に重ね合わせ、プレス成型したものだ。2017年、経済産業省による中堅・中小企業の炭素繊維複合材料(CFRP)に関する優れた技術・製品の表彰制度「コンポジットハイウェイ・アワード2017」で複合素材部門準グランプリを受賞。これを機に注目が集まり、「一気に協力者が増えた」(米島社長)。

ミルフィーユコンポジットの基本技術については特許出願を完了している。同技術を活用するとカーボン部品をさらに20-50%程度軽量化することが可能だ。素材の軽さと曲がりにくさの関係を示す指標「比曲げ剛性」はCFRPの1.7倍と軽くて堅い。これがスマホのレシーバースピーカー用振動板に採用され、ヒットを飛ばす。スマホの音質改善に大きく貢献し、世界のスマホメーカーから高い評価を受けた。

そして2020年、「コンポジットハイウェイ・アワード」素材部門で再び準グランプリに輝く新技術「ミルフィーユコンポジット・コアフレーク」を発案する。高精度スライスした極薄硬質発泡体を平面方向に独立した六角形の島状に打ち抜き加工し、片面粘着フィルム上に配列した上で転写シート化するものだ。この転写シートは柔軟性と粘着性を持つフィルムを基材としており、型に張り込まれたカーボンプリプレグへの転写作業性が良い。

従来、ミルフィーユ(サンドイッチ)構造が難しかった球面体や複雑な立体形状に対して芯材としての硬質発泡体の積層を実現する。レース用二輪車用のカウルを試作したところ、軽いドライカーボンCFRP製カウルをさらに40-50%軽量化できた上に、曲げ剛性が2.5倍になった。同社は「これまでにない全く新しい構造体。究極の軽量化技術だ」としている。

二輪車用の超軽量カウル
重量は新聞およそ4部分に相当するわずか600 グラム

同社は今後、超軽量構造材「ミルフィーユコンポジット」シリーズをスポーツ用品やドローン、ロボット、二輪車、自動車、福祉機器などに展開し、新市場創出を目指している。関西圏のメーカーを中心に連携先も増やしており、研究開発も加速する。

抗ウイルスフィルムでコロナ対策にも貢献

一方、新型コロナウイルス感染拡大が収束を見ない中、フィルムメーカーと連携し、抗ウイルス・抗菌フィルムの販売にも乗り出した。フィルムに付着したウイルスや菌を最短5分で99.99%以上減少させることができるという。平面用、液晶・アクリル用、曲面用と3種類を用意。顧客の要望に合わせてカット販売することも可能だ。

フィルムメーカーと連携し販売に乗り出した抗ウイルス・抗菌フィルム

同社の経営理念には「独立自尊の精神を持ち、皆と共に働く誇りと喜びを分かち合います」との一文がある。オープンイノベーション経営を進化させ、老舗企業として地域に根ざした素材、加工技術と最先端複合材技術を融合し、世界に類のない超軽量構造材を開発する。米島社長は「研究開発型企業であり続けたい。独創的なアイデアと技術革新を重ね、生み出した付加価値を商売にしていく会社にしたい」と次代を見据える。

【企業情報】
▽所在地=大阪市都島区網島町7の10▽社長=米島智哉氏▽創業=1946年6月▽売上高=14億円(2020年3月期単体)

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