X線分析装置世界大手の中小企業、米カーライルの出資を受け入れ「同族企業」から公開企業に至るまで

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リガクは志村社長(左)の就任50年、創業70周年の節目に大きな転機を迎える

米ファンドの出資受け入れ 「同族」から公開企業に

カーライルと志村氏はM&A手法の一つLBOを実施する(リガク山梨工場=山梨県北杜市)

リガク(東京都昭島市)は、プライベート・エクイティ(未公開株、PE)ファンドの米カーライル・グループから8割の出資を受け入れる。創業家出身の志村晶社長は6月の株主総会で退任し、後任はカーライルの人脈で外部から招く方向で調整する。リガクはX線分析装置の世界大手で売上高441億円、営業利益率約15%、無借金の優良企業だ。決断の背景には親族が経営に関与する「同族企業」から公開企業に転換し、ポストコロナに爆発的な成長を遂げたいという志村氏の思いがある。(編集委員・六笠友和)

材料分析装置、ヘルスケアに攻勢

「カーライルとのパートナーシップにより、グローバル展開を加速し、数年以内の上場を目指す」。年明け間もない1月上旬、リガクはそんな文書を公表し、業界を驚かせた。

カーライルと志村氏はM&A(合併・買収)手法の一つ、レバレッジド・バイアウト(LBO)を実施する。LBOは投資先の資産を担保に資金を借り入れ買収する手法で、投資効率を高められる。カーライルの投資額は1000億円強とみられ、半分ほどを金融機関から調達する。日本企業相手で最大級の投資案件となる。

両者が出資する特別目的会社(SPC)を通じ、3月末までに親族などからリガクの全株式取得を目指す。出資比率はカーライルが8割、志村氏は2割とし大株主としてとどまる。

材料分析などのX線分析装置で世界でも高いシェアを持つ

SPCは全株を取得し株主総会を経て、現リガクを吸収。持ち株会社となる。そして傘下に国内事業会社、海外の統括会社などを収める計画だ。規株式公開(IPO)は3―4年後を視野に入れているようだ。IPOに先立ち、海外企業も候補に同業を買収し、企業価値を高める。

「新型コロナウイルスの影響が一番大きい」。志村氏は、今回の決断に至った経過を打ち明ける。

米マサチューセッツ工科大学(MIT)を卒業してすぐ、1971年に父で創業者の義博氏の跡を継いだ。大学3年生の時に、義博氏が鬼籍に入ったためだ。それから50年に及ぶ経営者人生で早い段階から経営権を譲る際は親族以外にすると固く決めていた。80年ごろに労務問題の対処に端を発した、会社乗っ取り未遂がきっかけだ。

自身に極めて近いその人物を入社させたのが志村氏で「私が世襲をしてこの状況を招いた」といまだに心に引っかかる。会社を引き継いだ後の労務管理体制も未熟だった。2人の子女には全く別の道を歩ませた。社内外に自身の後任となる人材は現れず、22歳から72歳の現在まで経営トップとして陣頭指揮を執り続けている。

経営者としては、材料解析などのX線分析装置で世界でも高いシェアを持つ研究開発型企業に育て上げた。海外売上高比率は65%とグローバルに展開。新素材の開発などに使われる材料分析装置をベースに、最近では半導体・電子部品向け、さらにはヘルスケア領域に攻勢をかけている。

“求心力”保つ選択肢

志村社長は50年に及ぶ経営者人生で早い段階から経営権を譲る際は親族以外にすると固く決めていた

そうした中、コロナ禍に見舞われた。新領域への進出に取り組む大事な時期ではあるが、感染拡大が長引けば社内に閉塞(へいそく)感が漂い、競争力を阻害する事態になると強い危機意識を持つ。そこで昨春、「経営として“求心力”をいかに保つかを検討し始めた」(志村氏)。熟慮の結果、三つの選択肢にたどり着く。IPO、身売り、同族経営の継続だ。

志村氏は真っ先に「同族経営の継続」を除外した。親族でリガク株の9割程を保有している。志村氏が退任して目の届くうちは良いが、その後に大株主である親族が経営に口を挟むことを危惧した。いわゆるお家騒動を恐れた。

次に「身売り」を選択肢から外した。実は10年ほど前に他社への会社売却を秘密裏に進めたことがある。売却後の従業員の処遇を懸念し、最終的に話を白紙に戻した。買収されたことで従業員離れや士気の低下が生じれば、リガクの競争力を毀損(きそん)する。最後に残ったのがIPOだ。

カーライル、対応力評価

富岡カーライル日本副代表はリガクには新常態に対応する力があると評価する

志村氏はライフサイエンス分野で自社の6―8割の規模の会社を買収し、企業価値を高めて上場する思いがある。コロナ禍が収束した時のペントアップ需要(繰り越し需要)が急激に盛り上がることを想定。スピード感を持って需要を一気に取り込むべく、今のうちに体制を整えようというのだ。

ただし、買収は高リスクであることもあり、銀行借り入れではなくカーライルからの追加投資で実施する。カーライルを相手に選んだのは、日本を含む複数のPEファンドと対話し、彼らが海外展開に資する豊富な情報を持っているからだという。両者は約10年前にカーライルからの呼び掛けで接点を持っていた。カーライル日本副代表の富岡隆臣氏は、「ニューノーマル(新常態)の時代に対応するイノベーション力がある」と同社を評価。X線分野で新しい製品を不断に提供してきた実績を根拠に述べる。

会社を今回の形で発展させることに「父も母も喜んでいるはず。家族も賛同してくれた」と志村氏は言う。同社幹部によれば社員の受け止めも好意的だ。協力会社には十分な説明をしていく。今年は志村氏の社長就任50周年、創業70周年の節目。大きな転機となった。

カーライルによるリガクへの投資は海外展開を軸にした事業支援、IPO支援と分類できる。リガクと同様の課題を抱える日本企業は多いだろう。他方では事業承継が社会課題だ。帝国データバンクによると、20年の企業の休廃業・解散件数は全国5万6000社で、うち約6割が黒字だという。コロナ禍で企業の構造改革が急務となった。外部資本を活用する事例が加速度的に増えそうだ。

日刊工業新聞2020年1月25日

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