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部下との対話で「相手を正そう」は厳禁!「イエス・バット」の代わりに意思疎通を図る手法とは?

#5 気持ちよく仕事ができるよう、自分の悪い癖を直す
部下との対話で「相手を正そう」は厳禁!「イエス・バット」の代わりに意思疎通を図る手法とは?

 

これまで、ついつい出てしまう自分の癖について、自分の考え方や判断がどう影響されているのか、どう対策をしていくのかについて取り上げました。今回は、無意識に反応していたり、認識していないけど相手に悪い印象を与えてしまうかもしれないということについて解説します。しっかり対策をとりましょう。

例えば、あなたの部下が転職を決め、あなたにその旨を伝えに来たとしましょう。ショックを受けたあなたは、ただ理由が知りたく、部下に「そもそもさ、なんで他に移ろうと思ったの?」と聞くかもしれません。しかし、部下からすると、「そもそもさ」と言われた時点で「あなたは否定前提で話している」と受け取るかもしれません。何気なく聞いたつもりでも、会話は否定的なニュアンスから始まっているのです。「なぜ?」と聞いても聞き方によっては、否定的に受け取られます。気づかないうちに、相手を否定するような会話になっていないでしょうか。

私たちは、「いや」や「でも」などの否定語を普段から使いがちです。承認欲求のためなのか、プライドが高いからなのか、とにかく「自分は正しい」を主張したいために「相手を正そう」とすることがあります。しかも、「自分が正しくて相手が間違っている」という決めつけが根底にあるため、否定的な言葉に対して、部下は黙ってしまいます。部下によっては、異論を唱えるかもしれませんが、どちらにせよ、勝ち負けの話になってしまいます。そのため、意思疎通がうまくとれない状況に陥ることがあります。

たとえ相手の感情を配慮し、相手を正そうとうまく表現しようとしても「あなたは間違っています。私の言っていることは正しいから聞いておきなさい」になってしまうのです。

例えば、社会人になって会話のテクニック「イエスバット法(Yes, but)」を学んだ人は多いと思います。イエスバット法とは、相手の意見をいったん「そうですね」と肯定し受け入れ、「しかし」と自分の意見を伝えるテクニックです。ですが、結局「しかし」と否定するので、相手を不快にさせてしまうこともあります。そのため、今では「イエスイフ(例:高いですよね。もし、割引があればいかがですか?)」「イエスハウ(例:高いですよね。では、どのようなサービスをご希望ですか)」「イエスソーザット(例:高いですよね。だからこそ、○○がおすすめなんです)」など他のテクニックも推奨されています。普段、「イエスバット」を使われている方は、これらを使ってみるのはいかがでしょうか?

「責任は自分、成果は部下」マインドが部下の本気に火を付ける

「成果は自分、責任は部下」と聞いたときに、直感的に「部下の成果を横取りするのはダメでしょう」「私は、そんなことをしない」と思う人は多いと思います。ですが、例えば、次のようなシチュエーションはいかがでしょうか?

チームでブレインストーミング中に出てきたアイデアを基につくった、企画やプロジェクトが採用されたとします。いろいろ話し合っているので、元々誰のアイデアだったのか覚えていなかったり、誰の手柄だったのかよくわからなかったりするときがあります。

時折、その仕事に直接関わっていない人たちと話すと、まるで自分がアイデアを出したかのような話になることがあります。そこで訂正できればいいのですが、状況や雰囲気的に正すのが難しいときもあります。そこで「まあいいか」と思い、そのまま流すと、まわりの人は、あなたがそのアイデアを出したと解釈します。この時点で、「横取りした」ことになります。つまりアイデアを出した部下から見ると、「横取りされた」ように写るのです。

さらに怖いのは、時間が経つにつれて、自分自身が都合よく解釈してしまうことです。つまり自分は関与していたので、自分がアイデアを出したかのように思うことです。すると、アイデアを出して企画をつくったと認知するようになり、手柄を奪ったという意識がなくなっていきます。

そうならないように、日頃から「責任は自分、成果は部下」と思って仕事をするといいでしょう。そう思っている上司と一緒に仕事をしている部下は、期待通りの結果を出そうと一生懸命にやってくれるものです。上司がその仕事の成果を出さなくても、部下が成果を出せれば、チームを引っ張る上司のリーダーシップ能力があると評価もされるのではないでしょうか。

そのためには、部下に対して謙虚で思いやりを持って、フェアに付き合いましょう。常にフェアで、会社にとって正しいと思う最適なことを実践することが重要です。

最後に、他人に迷惑を直接かけることはありませんが、多くの人が「自分らしさ」にこだわりすぎて、自分の可能性を狭めてしまう癖があると思います。「私はこういう性格だから仕方ない」と自分の欠点のせいにして、自分から諦め、やろうとしないというものです。

例えば、部下がやり遂げたことを認めたり、褒めたりすることは大変有効です。しかし、「褒めるのは自分らしくない」という理由で、一切褒めない人もいます。このようなとき、冷静に「なぜ自分らしくないのか?」「逆に、それをしたら何が問題なのか?」を考えてみてください。私たちは、自分の思い込みで、視野を狭め、考え方や行動の幅を狭めてしまいます。このように自問することで、新たな選択肢が広がることができるのです。自分と素直に向き合い、自分のことを知り、うまく付き合っていきましょう。

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令和の時代に必要な「上司の務め」を棚卸し。成果を出せない社員の扱いに苦悩する一方で自身も仕事変容に迫られる上司に、部下への仕事の授け方や距離の保ち方を詳述。チーム・個人双方で結果を残す鉄則を整理します。育てるプロセスから自身が成長できる勘所も示します。

<著者紹介>
飯田剛弘(いいだ よしひろ)

愛知県生まれ。2001年、南オレゴン大学卒業(全米大学優等生協会: Phi Kappa Phi 所属)後、インサイトテクノロジー入社。2004年よりインド企業とのソフトウェア共同開発プロジェクトに従事。その傍ら、プロジェクトマネジメント協会(PMI)の標準本の出版翻訳に携わる。マーケティングに特化後は、データベース監査市場にて2年連続シェア1位獲得に貢献。市場シェアを25.6%から47.9%に伸ばす(ミック経済研究所)。
 製造業の外資系企業FAROでは、日本、韓国、東南アジア、オセアニアのマーケティング責任者として、日本から海外にいるリモートチームをマネジメント。アジア太平洋地域でのマーケティングやプロジェクトに取り組む。人材育成や多様性のあるチーム作りにも力を入れ、1on1ミーティングは1,000回を超える。
 2020年、ビジネスファイターズ合同会社を設立。現在、多様なメンバーと協働し、グローバルビジネスで結果を出してきた経験を基に、経営やマーケティングの支援、グローバル人材の育成やリモートチームのマネジメント支援(研修・講習・執筆)など多方面で活動中。
 著書に『童話でわかるプロジェクトマネジメント』(秀和システム)、『仕事は「段取りとスケジュール」で9割決まる!』(明日香出版社)、『こじらせ仕事のトリセツ』(技術評論社)がある。
https://bizfighters.com/

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“令和上司”に必要な力とは?
“令和上司”に必要な力とは?
「令和」に元号が変わり、1年半を迎えようとしている。生活も社会も大きく変化させた新型コロナにより、働き方を見直す動きも多くの企業で見られた。「Withコロナ」とも言われるこの新しい時代に求められる上司像とは、どのようなものなのだろうか。
 書籍『令和上司のすすめ 「部下の力を引き出す」は最高の仕事』の発売を記念し、特集「”令和上司”に必要な力とは?」を連載する。第1回では、著者・飯田剛弘さんに「令和の上司」の役目を解説してもらう。

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