トヨタにあってテスラにないものとは?自信の源は「1億台を超えるクルマの母体」
顧客基盤強みに
「彼らがやっていることは、我々にとって学べる点が多々ある」。6日の2020年4―9月期決算発表に登壇した豊田章男社長は、新進気鋭の自動車メーカーに対し最大限の賛辞を贈った。その相手とは電気自動車(EV)で世界を席巻する米テスラだ。
自動車産業の新たな潮流であるCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)の急先鋒(せんぽう)として、頭角を現したテスラ。ハード(車両)とともに、スマートフォンのように車載ソフトウエアを更新できるサービスなどで、存在感を高めてきた。
環境規制や顧客の生活様式の変化などを受け、CASEへの対応は各メーカー共通の課題だ。トヨタはテスラなど新興勢力の動きも注視しつつ、「3年間は(CASE向けの)先行投資を相当続けてきた」(豊田社長)。その中で電動車は30年に550万台以上としていた販売目標の5年前倒しを決定。本腰を入れ始めたEVは、20年代前半に10車種以上を投入する計画だ。
コネクテッドカー(つながる車)や自動運転車の競争力に直結するソフト開発では、専門の子会社を日米に設立し開発体制を整備。豊田社長は「ハードに加え、ソフトウエアファーストの考え方が浸透してきた」と自信を深める。テスラが力を入れるソフト分野でも、着実に間合いを詰めている。
もはやテスラに新興メーカーの面影は、みじんもない。株式時価総額ではトヨタなど日系自動車メーカーを大きく上回り、「現在の株式市場では完全に負けている」(豊田社長)状況だ。それでも豊田社長は「(トヨタはテスラの)一歩先を行っている」と断言。その理由を「我々にあってテスラにないのは、1億を超える(トヨタ車の)保有母体だ」と説く。
特に電動車ではEVや燃料電池車(FCV)、ハイブリッド車(HV)など、「電動車のフルラインアップを用意し、各国の規制やニーズに最適な車両を提供する」(寺師茂樹取締役)考え。これに世界で築いた顧客基盤を組み合わせ、新時代のライバルと対峙(たいじ)する。
折しも日本では菅義偉首相が、50年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標を掲げたばかり。中国や欧州など自動車の主要市場でも、環境規制は厳格化の一途をたどる。トヨタが電動車にこだわるのは、収益力の強化はもちろん、「人々を幸せにする」という創業時の精神を連綿と受け継ぐためだ。環境対応車で地球環境の保護と人々の移動の自由を両立させ、持続可能な社会基盤の構築を後押しする。(名古屋・政年佐貴恵、名古屋編集委員・長塚崇寛)