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パナソニック、ダイキン、シャープ...コロナ禍で需要急増の換気設備。人間が「空気」の存在に気づく時

ダイキン国内生産、パナソニックは中国新工場

新型コロナウイルス感染拡大で空気清浄機や換気設備などの需要が急増し、メーカー各社が対応を急いでいる。パナソニックダイキン工業は住宅用空気清浄機の生産体制を増強。シャープは新製品の投入時期を早めて需要の取り込みを狙う。パナソニックとダイキンは業務用換気機器の販売も好調。ダイキンは従来の中国への生産委託に加え、堺製作所臨海工場(堺市西区)での生産も検討を始めた。

日本電機工業会(JEMA)によると国内の空気清浄機の出荷台数は2020年4―8月が前年比約7割増となり、需要が続けば通年で過去最高の298万台(12年度)を超える可能性がある。

ダイキンは住宅用空気清浄機のほぼ全量を中国で生産委託するが、12月からマレーシアの自社工場(セランゴール州)で年15万台規模の生産をはじめ、アジア・オセアニア向けに供給する。国内は滋賀製作所(滋賀県草津市)で年15万台規模の生産を始める方針だ。

欧州は例年1万台程度の販売だったが21年3月期は5万台程度に増える見通し。規模が広がれば現地生産も視野に入る。21年3月期の販売計画は前期比約2倍の78万台で国内向けが50万台を占める。十河政則社長は「(事業として)最低でも100万台は売りたい」との考えだ。

パナソニックは4月以降、国内の空気清浄機販売が前年比5割増となり、品切れに陥った。11月発売の新機種は愛知県春日井市の工場の稼働時間を増やし、前機種比15%増の生産を計画する。また、同工場で生産する空間除菌脱臭機も需要急増で4月に販売停止し、生産能力を増やして9月末に販売再開した。

空間除菌脱臭機は中国・広東省の工場でも8月に生産を始めており、中国でも販売を開始。同工場は21年中に33億円を投じて新工場棟を稼働する計画で、グローバルに向けた空気清浄機や換気機器などの増産に備える。

空気清浄機の国内販売シェア首位のシャープは市場動向に合わせて過去最高ペースの販売を継続。国内は前年より1カ月半早い9月頭に新製品を投入し、需要の取り込みを加速している。新型コロナ感染が拡大する欧米やインドネシアなどで販売が伸びており、タイと中国で増産している。

空調機器では、業務用が需要減少で苦戦するダイキンだが、家庭用では国内で同社のみラインアップする換気機能付きエアコンの販売が好調。現在、換気機能は上位機種のみの設定だが、近く中位機種にも設定する。21年3月末までに低位機種にも同機能を広げ、既設のエアコンに後付けする換気装置も市場投入する計画だ。新しい需要に合わせた製品でシェアを拡大し、パナソニックが持つ国内家庭用エアコン首位の地位を狙っている。

空気清浄機の生産を始めるダイキン工業滋賀製作所(滋賀県草津市)

空気の流れと室内の空気の質は密接に関連

海に住む魚を陸に揚げると死んでしまう。魚にとって水が不可欠なように、人間は空気がなければ生きていけいない。だが、空気は人間が日常生活を送っている上では、目に見えないため、その重要性に気付く機会はほとんどない。

人間は危機に直面すると、空気の存在に気付く。あなたが登山していて空気が薄くなって苦しくなれば、空気のありがたさを肌身で感じるだろうし、空気の移動で起こる風が強ければ、空気の恐ろしさを痛感するはずだ。

例えば、風速20メートルの台風は時速に換算すると72キロメートルになる。あなたが傘をさして外に出た場合、歩くのも困難なはずだ。

空気の重さを地球で生きていて認識する機会は少ないだろうが、1立方メートルの空気の重さは地上では1キログラムになる。仮に、あなたがさしている傘の表面積が1平方メートルとすれば、そこに重さ1キロの物体が、時速72キロで衝突することに相当する。建物が倒壊したり、駐車されていた車が横転するのも無理はないことがわかる。空気は軽く感じられるが重いのだ。大型ジェット飛行機が空を飛べるのも空気に重さがあるからだ。

空気の重さに日常で気付かないのと同じように、空気の流れも多くの人は最近まで深くは考えてこなかったはずだ。

例えばオフィスの室内の温度は誰もが気にするだろう。「25度が最適」「28度は暑すぎる」など誰もが一家言もっている。だが、気流については、女性などから「エアコンから出る冷風を直接浴びたくない」との声はあっても、最近まで大きな議論は生じなかった。

これはまさに空気を肉眼でなくても「見える化」できなかったからだ。室内の気流などの情報を可視化し、空調設計者や施工者などが共有するのは技術面で難しかった。最近になり、室内状況をきめ細かく正確につかむセンサー技術が高まったことで、気流を制御するエアコンも登場するなど「気流」に注目が集まり始めている。

 

電力分野では、消費電力の可視化が省エネを後押しした。特に企業は工場や事業所ごとに電力消費量をリアルタイムで把握できるようにして削減につなげている。それと同じように、今後は室内環境の「見える化」が進むだろう。室内環境を数値化して、空気の状態や流れを一目でわかるようにできれば、室内の空気の状況や換気の必要性が分かり行動につなげる動きが一般化するはずだ。

可視化することで、室内の有害物質の分布や空気清浄機の効果もこれまで以上に明らかにもなるだろう。もちろん、空気の過剰な流れは室内の人が不快に感じるとの報告もある。だが、寒暖の調整に関しては、空気を動かさないでも可能だが、空気が動かないと汚染された物質は対流したままだ。

すでに、ゴーグル式の複合現実端末を装着することで、空調から吹き出す気流や温度をAR拡張現実で「見える化」する仕組みなども開発されている。

空気の流れと室内の空気の質は密接に関連している。気流や換気の制御はこれまで以上に住空間の大きなトレンドになるだろう。

日刊工業新聞2020年10月14日の記事に加筆

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