特急「ひのとり」、後ろを気にせずリクライニングができる座席の秘密

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近畿日本鉄道は3月から大阪難波と近鉄名古屋間で、特急「ひのとり」を運行している。コンセプトは「くつろぎのアップグレード」。後部座席を気にすることなくリクライニングができるバックシェルを、日本の列車で初めて、すべての座席に導入した。車両のデザインを手がけたのはGKデザイングループで、「品格を大切にする」という同社の伝統が反映された格好だ。

品格の大切さは、世界デザイン機構の会長などを歴任した、創設者の榮久庵(えくあん)憲司氏がこだわっていた。ものづくりに携わる立場として、「物自体に品格がなければ、品のある行動や思考につながることはない」といった考えが、社内で受け継がれている。

品格あるデザインの一つの切り口が、機能など数値で表せる定量的な側面と、経験や美しさといった数値にできない定性的な部分を両立させ、融合させることだ。

GKインダストリアルデザインの朝倉重徳社長は「工学などと同じく、人の美意識も自然の摂理。秩序に対し正しくあり、定量的なものと定性的なものが深いところで一致したときに、共振反応のようなことが起こる。そこを目指すのが本質的なデザイン」と指摘した上で、「数値化できない部分があることを経営者が理解し、その上で判断をしていくことが、デザイン経営の肝ではないか」と話す。

ひのとりのバックシェルは、8割のユーザーがリクライニングシートを利用する際、後ろの人に気を使うというデータに基づき、解決策として採用された。

ただ、固定のバックシェルを導入すれば、座席の前後の長さが伸びることになる。必然的に座席数は減り、売り上げは減少する。定量的な観点だけを踏まえれば、全席の導入は難しい。

新たに開発したデザインの場合、後ろの乗客に気を使わず座席を倒すことができる。席数は減少するものの、ストレスなしに旅を楽しめるため、乗車率は向上し、結果として売り上げが増える可能性がある。

数値化できない定性的な価値を含めて総合的に判断することが、デザイン経営の本質といえる。(松田雅史・デロイトトーマツベンチャーサポートMorningPitch・新規事業開発ユニット)

日刊工業新聞2020年7月31日

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