カギは「発酵」、東北の駅を駆けるスタートアップの技術

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将来ビジョンを語る酒井さん

2019年夏。八戸駅(青森県)-久慈駅(岩手県)間を運行するJR東日本のレストラン鉄道「TOHOKU EMOTION」の乗客は、車窓に広がる風景だけでなく、味や香り、まさに五感を通じて地域の魅力を堪能した。

ランチのオードブル「雫石産ジャー黒牛」は、車内で提供されるシードル(アルコール飲料)の製造過程で生まれるリンゴの搾りかすからエタノールを抽出する際の残りかすを飼料として育まれたもの。もちろん、このエタノールを配合したアロマは車内の香りの演出に一役買った。

JR東日本のレストラン列車「TOHOKU EMOTION」

このプランを演出したのが「ファーメンステーション」。岩手県奥州市の休耕田で栽培した無農薬オーガニック米から高純度のエタノールを製造し、化粧品の原料や雑貨などの最終商品に仕上げているスタートアップ企業。「fermentation(発酵)」と「station(駅)」を掛け合わせた社名通り、その技術が東北の駅を駆け巡ったのである。

未利用資源が価値を生む

エタノールの製造過程で生まれる副産物は地域の鶏や牛の飼料として、鶏ふんは水田や畑の肥料に再利用するなど、未利用資源が地域で循環するビジネスモデルを展開する同社。エタノール原料は米にとどまらない。食品や飲料の製造工程で排出される資源を活用するケースもある。前述のレストラン列車での取り組みは、そんな同社のビジネスの一面を端的に象徴する。

「社会に存在する未利用資源を活用し、エタノールや発酵粕を製造することで究極の循環モデルを生み出したい」と語る代表取締役の酒井里奈さんだが、東北や一次産業とのゆかりがもともと深かったわけではない。

青森リンゴの搾りかすで育ったジャー黒牛は肉の旨みと甘みがたっぷり。今回のメニューを監修したホテルメトロポリタン盛岡・総料理長の高橋均さんの目に留まった

出身は東京。金融の世界の最前線で活躍していたが、生ごみを燃料に変える技術との出会いがその後の人生を大きく変える。発酵技術を学ぶため、30代で入り直した東京農業大学の恩師が岩手県奥州市との共同研究を手がけていたことから、足しげくこの地を訪れるようになったことがビジネスの原点だ。

米から高純度のエタノールを抽出する技術開発には成功したものの、燃料としての商用化は採算面からあえなく断念。思い入れのあるこの技術を何とか社会に普及させたいと、米エタノールを化粧品などの原料として利用することで事業を引き継ぐ形で2009年に起業した。根底にはいずれ循環型社会が到来するとの確信があった。

社会の変化を見越して

それから11年。資源循環に対する社会の受け止めは大きく変わった。原料由来や生産履歴が明らかな商品を積極的に選択したいという消費者側の意識変化はもとより、欧州では、「サーキュラーエコノミー」の概念の下、これを競争戦略と位置づける企業の動きが加速する。

こうした世界的な潮流も追い風に、同社が提供する米エタノールは付加価値の高い原材料として化粧品メーカーや大手セレクトショップ向けに引く手あまた。蒸留残さである米もろみかすを使ったコスメや雑貨も展開している。原料や発酵技術、ノウハウを一貫して提供することで、新規事業の立ち上げやブランド展開を支援する協業機会も広がっている。その裏には商品の成り立ち、作り手の思いといった「ストーリーへの共感」が消費者の支持獲得や既存商品との差別化につながるとの企業側の期待がある。

ファーメンステーションのオリジナル商品はインターネットでも購入できる

サステナブルグローバル企業目指して

「目指すはサステナブルグローバル企業」。酒井さんはこう語る。地域や社会の課題に向き合うソーシャルビジネスは、グローバルな成長志向と一見相いれない印象もあるが、そうではないと断言する。「社会的なインパクトを生み出し続けることと、企業としてのスケールアップ、双方を追求していきたいのです」。

こうした思いを体現するかのように、年内には海外のスタートアップイベントへの参加を計画。その後、欧州市場への本格進出も検討する。サーキュラーエコノミーの「お膝元」で打ち出す新たな戦略が、ビジネス展開に拍車をかけそうだ。

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