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ダイキン井上会長激白!「有事こそリーダーは好奇心働かせろ!」

with コロナ時代の特別ロングインタビュー

日本全体の生産性高める

-働き方の価値観も変化がありそうです。

「世界中の人が自分自身を見つめ、家族の命や健康を考えるようになった。外出自粛を要請されて家族と過ごす時間やプライベートの時間も増えたと思う。ワークライフバランスの中の、ワークとライフの境界が変化して、ライフの比重が増えるのではないか。働き方の意識も大きく変わるかもしれない。多くの企業がテレワークやビデオ会議をやってみて、在宅勤務の良さや満員電車の通勤に対する疑問を感じた人も多い。これは素晴らしいことだ。テレワークが市民権を持ったことが、業務を指示する管理職の側でも業務の見える化やプロジェクトの進捗管理などの方法を見直す良い契機になった。日本全体の生産性を高めるのにもつながる」

「また企業もコロナから従業員を守る姿勢が評価されている。事業基盤を支える従業員を大切にする企業こそがエクセレントカンパニーだという考えが広がってきて、ステークホルダーにおける従業員のウェートが変化している。利益を上げることと社会に貢献することの両方が相まって初めて企業を評価するように、投資家や世の中も変わってくるだろう。国連の持続可能な開発目標(SDGs)やソサエティ5・0の考えにつながることであり、これができない企業はいくら利益を上げても沈んでいくということが、今回のコロナでも分かった」 

ダイキンの米ヒューストン工場(テキ サス州、同社提供)

「企業内のコミュニケーションでは便利なサービスやツールによって大抵のことが可能になるだろうが、だからこそ、フェース・ツー・フェースが大事になるということも忘れてはいけない。暗黙知、帰属意識、社風形成、企業文化とか、熱意、本気度など企業にとって大切なことはフェース・ツー・フェースでやる方がいい。デジタル化が進む程、その価値の重要さは見直される。人を基軸としてきた当社の経営は、案外、この機会に光り輝くのではないかとも思う。毎年、海外拠点でマネージャーミーティングを開いているが、ここで行う現地情報の伝達などはビデオ会議ですべてできる。ただ、現地に行って仲間の苦労を一日かけて聞くというのはビデオ会議ではできない。特定の人間が持つリーダーシップなども現地に行かなければ伝わらない。こういうコミュニケーションはやはりフェース・ツー・フェースであり、現地、現場、現物でなければいけない。当社でも波打ち際に行って、そこで判断し、答えを出せと言ってきた。これらは引き続き、より重要になる」

-働き方の価値観が変化するのに合わせて人事制度を見直す考えは。

「仕事の成果で管理するウェートを増やすべきと思うが、高学歴の若手が、長年苦労した50代の部長より高い給料を得るのが日本で受け入れられるだろうか。時間管理、成果管理、職務給、年功序列などのバランスを見直す時期だ。成果主義は正社員よりもむしろデータサイエンティストのような優秀な人材と、期間や仕事に応じて契約するほうがいいかもしれない。東大発ベンチャーに出資して仕事してもらうのも、人を採用するのに近い。こうした勤務形態の多様化と雇用の多様化、それに勤務時間や裁量労働などをミックスした人事制度を作ろうと考えている」

自前主義にこだわらず

-空気質への関心の高まりなど、これまでにない新しいビジネスが生まれる期待もあります。

「当社には換気、空気清浄、機器洗浄、医療機関向けフィルターなど優れた空気関連の固有技術がある。こうした技術を生かし、新たなものをスピードを持って生み出すため、自前主義にこだわらず、パートナーと連携し、オープンイノベーションの考えで事業を展開したい。スタートアップは新しい技術や製品を社会実装するのが非常に早い。さまざまなスタートアップと提携するため、2019年にコーポレートベンチャーキャピタル室という組織も作った。SDGsの達成や地球環境に貢献して利益を上げる製造業として売って出るのには絶好のチャンスかもしれない」

井上会長

■記者の目/強いリーダーシップ健在

井上会長はかねて「経営者は危機をチャンスとすることを常に考えなければいけない」と言い、経済危機や不況の度に改革を実行し、ダイキンを成長させてきた。新型コロナはまだ先行きが見通せないが、「答えのないところに答えを出すのがトップの役割」と言い切る。不安定な時にこそ、こうした強いリーダーシップが求められる。

日刊工業新聞2020年6月26日を大幅加筆

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