ロボット活用に関する自社の知見を同業者と共有 新規事業としてSIを開始

雑誌『機械技術:特集・成功事例に学ぶ ロボットを活用した金属加工現場の高度化技術』

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旋盤への加工物の着脱と切粉除去をロボットで行う

減速機部品の加工を手掛ける田口鉄工所(岐阜県大垣市)は、従来の量産型の自動化システムを変種変量生産の形態に合致する仕様に再構築した。旋盤やマシニングセンタ(MC)に加工物を着脱する工程でロボットを活用し、作業者の負荷を軽減。効率的なモノづくりを進める。こうした取組みで得た知見をもとに、システムインテグレーター事業に参入。SIとして、中小金属加工業のロボット活用と自動化システム構築の支援も本格的に始める。

製造効率の向上を急ぐ

田口鉄工所は大手減速機メーカーや建機、鉄道車両関連部品メーカーの協力工場として、減速機ケースやシャフトなどの部品を加工する。減速機市場は近年、これまでの需要に加え、産業用ロボット市場の成長も追い風に拡大傾向が続く。関連する部品を手掛けるメーカーも好調を維持している。
 現在、同社が加工を手掛ける品目数は250種類ほど。ロット数は多いもので月に数百個、少ない場合は月に1個程度であり、変種変量のモノづくりの効率化に取り組んでいる。業務効率を向上させるため2016年に、部品の形状を整える旋削工程で、多関節ロボットを3台導入。旋盤に材料を着脱する自動化システムを構築し、切くず除去と加工後の材料の積載も行う。

変種変量生産がロボットの活用効果を下げる

田口鉄工所の祖業は真空ポンプ部品の加工。その後、時代の変遷とともに、織機、自動車の部品加工を手掛け、現在に至る。量産型のモノづくりを得意としてきた経緯があり、工作機械への材料の着脱を30年前からロボットを活用し、行ってきた。
 しかし、受注の形態が変種変量になると、ロボット活用の効果が薄れていった。
「材料の形状が変化すると、ロボットは材料をうまくつかむことができない場合があります。そうすると、旋盤のチャック部分にうまく取り付けることができません。また、エアブローが適切に加工部分に当たらず、切粉がうまく排出できずに材料に傷が付き、不良品となってしまうことが問題になってしまったのです」と田口頼之取締役は説明する。

これまでロボットを使い、自動化していた作業を次第に人が行うようになってしまっていた。加工品目が切り替わり、材料の形状や加工条件が変わっても、人が行う作業であれば、柔軟に対応しやすい。しかし、大きくて重い材料の場合、人が手で持ち上げて工作機械へ取り付け、切粉を除去し、材料を取り外して台車などへ積載する一連の工程は身体的な負荷が大きい。小ロットとは言え、繰返し作業は精神的な負荷もかかる。旋削加工の工程以外にも人手を必要とする工程があるため、人員配置を適切に行う必要性もあった。

立形マシニングセンタでロボット活用するために、仕様を検討する若手社員
 改めて、加工工程全体を見渡したとき、ほかの工程に比べて自動化が容易だったのは、やはり旋削工程での材料の工作機械への着脱作業だった。そのため、旋削工程で再度、ロボットを効果的に活用できるように、運用の仕組みを見直すことを決めた。

無駄が多かった30年前のシステム

ロボットシステムの再構築に取り組み始めた田口取締役だったが、大きな問題があった。それは同社のシステムを構築した業者がなくなっていたこと。そこで、自らシステムを再構築するため、現状の状態を確認することから始めた。しかし、30年前に組んだシステムに関する記録も残っていなければ、当時のことを知る社員もいない。
 そんなとき、金属加工の自動化でさまざまな経験を持つSIと知り合い、状況が変わり始める。
「中小製造業向けの自動化に関する講演会を聴講したことがきっかけで、金属加工の現場の自動化の経験を持つSIの協力を受け、システムの再構築に取り組み始めました」(田口取締役)。
 その企業は金属部品の搬送や溶接、バリ取りの工程などで自動化の経験を有しており、材料の着脱、切粉処理など、金属加工現場と類似する課題に対して、効果的な提案ができる企業だった。

さまざまな観点から検証を実施

SIに協力してもらいながら、配線やセンサの位置、工作機械とロボットのレイアウトなどを検討した。すると、配線が複雑だったり、必要以上の数のセンサが取り付けられている、など無駄な点が多いことが判明した。
 「当時は今のような変種変量型のモノづくりを想定していなかったので、SIに任せきりになってしまったのでしょう。今回は現状で最適な形態を組みつつ、状況が変わったときにも対応できるシステムを目指しました」(田口取締役)。

田口取締役
 ロボットの作業性が高まるように、加工前の材料を配置する場所、旋盤とロボットの距離、取り外した材料を積載する場所を決めた。ロボットハンドの先端の形状は、材料の形状や重量が変わっても対応が容易なものを検討し、選定した。
 また、ロボットの活用に関し、ネックになることとして、切粉がある。ロボットが確実に切粉を除去できる機器を選定し、効果的に排出できるように動作のプログラミングを細かく行った。
 こうした検証を自分たちで行うことで、ロボットとその運用に関する知識を蓄積することにつながった。

学んだことを共有する

SIの協力を得ながら材料の着脱工程でのロボット活用の仕組みを再構築した田口鉄工所。田口取締役は学んだことを活かし、シャフト部品のバリ取りをロボットで行う実験を行い、実際の工程でも使える目途を付けた。学んだことをなるべく早くアウトプットし、知識と経験を積み上げている。
 もともと田口取締役は、中小金属加工現場の作業者の業務効率に改善の余地があること、ロボットを含めた自動化機器を効率的に活用すれば、生産性を高められることには気が付いていた。ただ、そのための知識を学ぶ機会は多くなく、自動化のシステムを構築する際、SI任せにならざるを得ない事情があることも自社の自動化がつまずいた経験から知っていた。
「中小企業では、自力ですべて行うことはなかなか難しいのが現状です。でも、自分たちの要望をSIに正しく伝えることができれば効果的な自動化ができます。SIやロボットメーカーと対等にコミュニケーションができる知識が必要です。そのための人材を育成する場が必要だと再認識しました」と田口取締役は説明する。

RTC東海では近隣の製造業関係者やSI事業者などが学ぶ

ロボットのユーザーである製造現場の担当者たちがセンサや制御の知識を学び、その運用方法を知る必要性を強く感じた田口取締役は、自社が中心となり、ロボット活用に興味・関心を持つ企業を対象にした、勉強会を開催し、知見を蓄積してきた。また、ロボットスクール「RTC東海」を運営し、SIを手掛ける企業から講師として人材を派遣してもらい、産業用ロボットを活用したシステムの設計や導入、運用、メンテナンスなど、ユーザー側が知っておくべきことを体系的に学ぶ。現在では自社講師を育成し、定期的に開催するようになった。
 「私たちは無知なことでつまずきました。中小金属加工業はどこも課題を抱えながら懸命にモノづくりを行っているので、少しでも自分たちの経験を知ってもらい業務の効率化に活かしてもらいたいのです」(田口取締役)。

ロボットや自動化の導入の評価

また、田口鉄工所はこうした取組みで得た知見をもとに自らもSI事業を始めた。
 本格的な受注はこれからだが、加工現場で自動化の取組みによる人員の最適化を進め、SI事業に携わる人員を創出し、新たな事業として軌道に載せることを急ぐ。
 部品加工事業では立形MCへの加工物の着脱でロボットを活用した自動化をさらに高度化する。
 田口鉄工所では自らがロボットの部品を加工する金属加工業であることに加え、ロボットを活用したモノづくりに取り組んでいることを意識的に発信し、若い人材を惹き付けることにつなげている。 「ロボット導入の費用対効果を数字で厳密に求めるよりも、社員の意識改革や新規事業・高付加価業務への人員配置、社員採用での関心度などの副次的な効果を考慮し、評価する視点が必要だと考えています」(田口取締役)。
 社員の採用で苦労している中小金属加工業は多い。そうしたなか、田口鉄工所では数年前から毎年新入社員が入社。大卒・短大卒に加えて女性の入社希望者も増えた。多様な人材が集まり、社内の活性化につながっていることを、田口取締役はロボットを活用したモノづくりに取り組んだ成果として評価している。
(雑誌 『機械技術:特集・成功事例に学ぶ ロボットを活用した金属加工現場の高度化技術』より抜粋)

会社概要
会社名:(株)田口鉄工所
所在地:〒503-0986 岐阜県大垣市中曽根町319-1
設立:1988年
代表者:代表取締役田口泰夫
従業員数:45名
事業内容:精密機械部品加工
ホームページ:http://taguchi-mw.com/index.html

雑誌紹介

雑誌名:機械技術 2020年5月号
判型:B5判
税込み価格:1,540円

内容紹介
機械技術 2020年5月号  Vol.68 No.6
【特集】成功事例に学ぶ ロボットを活用した金属加工現場の高度化技術

人手不足の解消や生産性向上、作業安全を目的とした、ロボットと工作機械の連携によるモノづくりに金属加工現場の関心が高まっている。多品種少量生産や高品質への要求が一段と進む中、生産形態や製品の要求仕様を考慮した戦略的な自動化によるモノづくりの構築が急務になっている。
 特集では、金属加工現場でのロボットを活用した加工・搬送などの自動化に取り組み、成果を上げ始めた現場の事例を取り上げる。

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