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【動画あり】未来を走りすぎてる!トラクターの進化が止まらない

【動画あり】未来を走りすぎてる!トラクターの進化が止まらない

30年の使用を想定した「コンセプトトラクタ」(クボタ提供)

古代より続く農耕や牧畜に代表される農業は、食料確保の観点などで世界中の人々の暮らしを支えてきた。人力や馬といった動物に頼っていた農業も、19世紀に登場したトラクターなどの農業機械により、農作業の省力化対応は大きく前進した。そこから100年以上が経過し、現在の農機は自動化やデータ活用が加速する。農業分野にも「スマート農業」や、デジタル変革(DX)など次代の波は確実に押し寄せている。

運転席のない農機

10年先見据え「進化」を形に

1月中旬、京都市伏見区の京都府総合見本市会館(京都パルスプラザ)。年始恒例の「クボタ新春の集い」が開かれた。2日間で計6000人の農業関係者らが訪れた製品展示会場では、参加者が思わず足を止める機種がお披露目された。10年後の2030年に使われることを想定して開発した「コンセプトトラクタ」だ。

創業130周年を20年に迎えたクボタ。節目を機に開発したトラクターは人工知能(AI)や電動化技術などを搭載する。キャビン(運転席)もない完全無人化対応の自動運転仕様で、4輪クローラーを採用し、でこぼこの不整地でも無人作業ができる。

もちろんコンセプトトラクタは現時点では実際に農作業や走行はできない。環境や自然との調和を意識し、滑らかな造形に仕上げられたデザインで、“未来の農業”のイメージの一端を具現化した製品でもある。

取締役専務執行役員の佐々木真治研究開発本部長は「今後、このコンセプトを形にしていきたい」と力を込めた。クボタが事業領域の核に据えるのは「食料・水・環境」。コンセプトトラクタはこの中核となる3領域を互いにカバーしながら貢献できる製品だ。

北尾裕一社長はイノベーションを成長のカギとみる。従来の開発スパンである2―3年先ではなく10年先を見据えた製品開発で、時代を先取りした開発力強化にもつなげる。

大阪で開催された1970年の日本万国博覧会。ここでクボタは当時の技術を結集した「夢のトラクタ」を展示している。そこから半世紀の時を経て登場した未来農機はスマート農業、DXなどのノウハウ活用で、さらに進化を遂げそうだ。

農業を省力・効率化

機器とサービス連動

足元ではスマート農業実現に向けた自動農機の開発が進む。情報通信技術(ICT)を活用したスマート農機で先陣を切るクボタは、16年9月に発売した直進キープ機能付き田植機を皮切りに各機種を投入している。

トラクターは17年6月と19年12月に、使用者の監視下による無人状態での自動運転を実現する「アグリロボ」シリーズをそれぞれ発売した。同シリーズで発売済みのコンバインに続き、アグリロボ田植機も10月に発売する予定で、国内の農業シーンで欠かせない3機種が出そろう。ICTを生かした自動運転農機のラインアップを充実し、農業の省力・効率化に貢献する狙いだ。

ヤンマーホールディングス(HD)も自動運転技術搭載の「スマートパイロット」シリーズを展開している。18年10月に自動直進などの機能を備えた有人機の「オートトラクター」と、有人機に乗車した作業者が同時に動かせる無人機「ロボットトラクター」をそれぞれ発売。同社トラクターの既存機種の仕様変更も可能で、新機種を購入しなくても自動運転仕様にできる。同シリーズは1月、直進アシスト田植機を発売するなど製品群を拡充している。

19年5月に新潟で開かれた主要20カ国・地域(G20)農業相らによるスマート農業の視察。世界もスマート農業に熱い視線を向ける

メーカー各社は、こうした農機と連動するソリューションの充実にも力を入れている。クボタは13年、農家向けに農機とICTを組み合わせて農業経営を効率化する営農支援サービス「クボタスマートアグリシステム(KSAS)」を開発した。ヤンマーHDもICTで自社農機などの状態や稼働状況を遠隔確認できるサービス「スマートアシスト」の運用を13年から始めている。

クボタの北尾裕一社長は「KSASは従来の農機の販売・サービスから脱却したものだが、さらに必要になるのはイノベーション」と強調する。そのイノベーションはDXにも当てはまる。クボタは3月、米マイクロソフト(MS)とDX推進に向けて戦略的提携を結んだ。クボタは基幹システムをMSのクラウドプラットフォームに移し、データ活用の拡大などにつなげる。

《KEYWORD》 営農支援サービス

国内農業は農業従事者の高齢化や過疎化による廃業など、人手不足が今後の大きな課題となる。「担い手」と呼ばれる大規模農地を持つ農業法人にとっても就農人口の減少の影響を受けるため、効率化経営が欠かせない。
 クボタやヤンマーHDなどが取り組む営農支援サービスは農地の状況や農機の稼働・位置情報など、農業従事者に欠かせないきめ細かい情報を伝えるものとなる。クボタの北尾社長は「入り口から出口まで農家をサポートする『アグリプラットフォーム』の構築を」と強調する。各社は農機供給を起点に幅広いサービスで農家を支える体制を敷く。

DATA スマート農機/30年に5割増

「スマート農業」関連への期待度は市場調査によるデータにも示されている。富士経済(東京都中央区)がまとめた農業や水産業、畜産業などにおけるスマート化につながる施設・プラント、機器・デバイス、サービスの国内市場調査によると、2030年のスマート農業関連市場は18年比53.9%増の1074億円に伸びる見込みだ。

スマート農業関連市場は農業用ロボットや飛行ロボット(ドローン)などがけん引するほか、完全人工光型植物工場、植物育成用光源、栽培環境モニタリングシステムなども好調とみられている。調査によると30年に18年比5.4倍の65億円に伸長するとみられる農業用ドローンも今後の注目となる。農業用ドローンについて富士経済は、農薬・肥料散布を目的とした導入が広がり、従来のラジコンヘリコプターより安価である点や小規模農地でも利用できることなどを拡大理由に挙げる。

将来的には適用の手続きなどで規制緩和も進む。農林水産省が策定する安全性確保のガイドライン(指針)が浸透すれば、ドローンを活用した農場管理や生育診断など関連する各種サービスの拡大にもつながる。スマート農業関連市場の拡大の後押しにもなると見込まれる。

新型コロナウイルス感染症拡大による影響は不透明だ。ただ日本の農業を維持していくには省力化による農家支援は欠かせない。

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