【新型コロナ】移動ニーズ縮小へ…JR東日本も変革なしでは生き残れない

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固定費割合が大きい鉄道事業は移動ニーズの縮小で急激に利益が圧迫されるリスクが高い(山手線車両「E235系」)

JR東日本をはじめ全国の公共交通機関は先の見えない新型コロナウイルス感染症との戦いの中、今日も輸送サービスを供給し、社会を支える役目を果たしている。長期に人々の移動が制限される経験によって、生活スタイルや企業活動を見直す動きは確実に進むだろう。収束後の未来が過去の延長線上に存在しないのならば、世界最大の鉄道会社であるJR東でさえも、変革を急がなければ生き残れない。(取材・小林広幸)

高輪ゲートウェイ “やってみよう”の駅に

3月14日に開業した山手線・京浜東北線の新駅、高輪ゲートウェイ駅。JR東日本の三輪美恵執行役員は、開業前に開いた報道公開で「“やってみよう”というコンセプトの駅だ」と紹介した。人工知能(AI)案内、警備・清掃ロボット、無人決済コンビニエンスストアなど、まだ実証実験レベルにある技術を営業駅に投入した。

警備、清掃、案内など高輪ゲートウェイ駅で実証する各種サービスロボット

AI駅案内は、首都圏の駅構内で2度に渡る実証実験を経て試行導入となったが、設置環境やユーザーインターフェースなど、改善が必要な課題が挙がった。警備・清掃ロボットは事前に、さいたま新都心駅で試験を実施して臨んだが、駅特有の段差や動線、通信環境など対応に苦戦する機種もあり、安定稼働にはまだ遠い状況だ。

すべてにおいて安全・安定を最重視するJR東はこれまで、輸送だけでなく各種サービスの実施も“石橋をたたいて渡る”ような慎重さで臨んできた。前例踏襲を是としてきた文化の中、高輪ゲートウェイ駅での大量の新技術展開は、JR東にとって異例のチャレンジだったとも言える。実際の駅での実証は、開発スピードを加速させることが可能だ。早期の実用化を目指せる点で大きなアドバンテージになる。

深沢祐二社長は以前から「未来の駅を想像できるような新しい技術」を新駅に盛り込むと説明してきたが、単にショーケースや実験の場としたかった訳でない。JR東のある幹部は「会社の変化の一端を社内外に示す意図がある」と解説する。

JR東は2018年7月に発表したグループ経営ビジョン「変革2027」で、鉄道起点からヒト起点のビジネスモデルへの転換を掲げた。高輪ゲートウェイ駅と国際交流拠点「グローバルゲートウェイ品川」をエキマチ一体で開発するプロジェクトは一つの象徴と位置づけられる。

ヒト起点のサービスを実現するには、これまで以上に利用客のニーズを把握することが重要だ。従来はJR東の“ものさし”で作り手側の論理に従ったサービス提供になりがちだった。輸送サービスでは、それが合理的だとしても、生活サービスは顧客からの期待を最優先しなければ満足度は高まらない。“やってみよう”の駅は、社内の意識を内向きから“顧客視点”の外向きへとシフトできるかの試金石でもある。

「変革2027」で予測 30年度輸送量4+α%減

変革2027は将来の社会環境を見据えたJR東の危機感から出発している。今年計画されていた東京五輪・パラリンピック後「鉄道による移動ニーズが縮小し、固定費割合が大きい鉄道事業は急激に利益が圧迫されるリスクが高い」と想定。輸送人キロは30年度に20年度比4+α%減、40年度に同9+α%減になると試算する。

人口減少分に加えて+αとして働き方の変化やネット社会の進展、自動運転技術の実用化が移動ニーズを押し下げる。これが人口減少分を上回る可能性があるとも分析する。テレワークやウェブ会議の普及のような、新型コロナ収束後に起こるであろう社会環境の変化は、この+α深化にドライブをかけることになりそうだ。

移動ニーズの縮小に備えていた変革2027のシナリオも、前倒しで実現しなければならなくなる。鉄道各分野における一層の生産性向上とともに、駅や鉄道を軸とした新たな生活関連サービスの創出が欠かせない。

鉄道運行では乗務員勤務制度の改定やワンマン運転の範囲拡大、自動運転技術の研究が進む。駅業務でも業務委託の拡大や自動化による遠隔対応、チケットレス化で必要人員を抑制。保線や車両整備も、状態基準保全(CBM)や営業車両による車上検査といったスマートメンテナンスにかじを切っている。

自動運転技術の研究が進む(山手線でのATO〈自動列車運転装置〉の実証)

生活関連サービスでもポイントプログラム「JREポイント」を中心とした情報基盤確立に取り組み、ビッグデータ(大量データ)を活用して個別ニーズに対応したサービス提供を準備する。

大きなパラダイムチェンジを発表して1年半。変革の担い手である現場社員とは課題意識を共有できているのか。19年末、深沢社長は「変革ストーリーの中で、自分がどういうことをやっていくか考える雰囲気が相当浸透してきた」と、手応えを明らかにした。一つの大きな目的に対して組織横断、グループ会社の垣根を越えたプロジェクトが各所で立ち上がってきたという。

一方、1月末、ある幹部は「(現場の)上が変わっていかないと進まない」とも、こぼした。変革の大きな流れはあるものの、旧来の価値観を持った層が変化に追いついていないと感じるようだ。

スタートアップと協業 “化学反応”起こす

変革を加速するカギを握るのが、異業種や研究機関、ベンチャーといった社外との協業だ。JR東は自社の課題に、車両や電機メーカーなど関係の深いサプライヤーと取り組み、自己完結型で専用のハードやソフトを構築してきた。新しく立ち上げるサービスも、その多くをグループ企業で展開してきた。

情報通信技術(ICT)革新のスピードはきわめて早く、優れた汎用技術を取り込まなければ、時代に取り残されてしまう。新規性のある応用ソフトやビジネスアイデアも“自前主義”を続けるのにも限界だ。社外に課題解決を求める“オープンイノベーション”活動は欠かせない。

中でもベンチャーとの連携をリードするのが、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)のJR東日本スタートアップだ。柴田裕社長は「JR東の出島」と称し、鉄道や駅といったグループの資産と、起業家のアイデアや技術、社会課題解決への思いを掛け合わせて“化学反応”を起こそうと取り組む。

公募で採択したベンチャーからの提案を、鉄道や生活サービスの現場を経験したスタッフがともに磨き上げ、社内調整の上、スピード感を持って、年度内に実証まで行うのが特徴だ。精力的な活動を背景に、設立から2年で、すでに駅や企業活動に実装したサービスも多い。

ベンチャーの経営者らがグループ幹部を前に講演した

JR東の潜在価値を引き出す事業共創の成功例は、社内の挑戦してみようという風土づくりにも影響を及ぼしている。

2月上旬、都内でグループの経営幹部を集めた定期講演会が開かれた。壇上に上がったのは、JR東日本スタートアップと協業を進めているベンチャーの経営者。「彼らの熱量に触れてみてほしい」と、柴田社長が仕掛けた。語られたのは独創的な発想や事業への思い、JR東に対する印象や期待など。聴衆に響いたのか結果は、今後の変革のスピードにも表れてくるはずだ。

日刊工業新聞2020年4月30日

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