スポーツビジネスの舞台がベンチャー支援に適しているワケ

突破せよ・スポーツ×ベンチャー(2) デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリーの里﨑慎シニアヴァイスプレジデントに聞く

 スポーツビジネスを拡大する機運が高まっている。政府はスポーツ産業について2025年に12年比2.7倍の15兆円に拡大する目標を掲げており、プロスポーツチームはベンチャー企業との協業による新事業を模索するケースが増えてきた。こうした機運を実際の市場拡大につなげるために何が必要か。2017年にJリーグと経営戦略などに関わるアライアンス契約を結び、今夏からは埼玉県内のプロスポーツチームが参画してスポーツビジネスによる創業を支援する「埼玉スポーツスタートアップ(※1)」の運営に携わるデロイト トーマツファイナンシャルアドバイザリー(東京都千代田区)の里﨑慎シニアヴァイスプレジデントに聞いた。

※1 埼玉スポーツスタートアップ(SSS):埼玉県内のプロスポーツチーム(サッカーJリーグの浦和レッズ、大宮アルディージャ、プロ野球の埼玉西武ライオンズ)が抱える課題などの解決につながるビジネスプランを持つベンチャー企業や創業希望者を募集・選抜して創業や事業の成長を支援するプログラム。メンターなどの支援を経て磨きがかかったビジネスプランについては、ベンチャーキャピタルや地銀、大企業などの前でプレゼンテーションできる機会を提供し、マッチングを支援する。



スポーツは“ハブ”になる


 ―「埼玉スポーツスタートアップ(SSS)」はベンチャー企業を盛り上げ、それによって地域の活性化を目指す埼玉県の意向を踏まえ、プロスポーツチームを活用するアイデアを御社が提案し、採択されたと伺いました。ベンチャー企業の活性化とスポーツがなぜ結びついたのでしょうか。
 スポーツというコンテンツには“ハブ機能”という価値があるからだ。スポーツはまったく接点のなかった企業同士などが(同じチームを応援するなどの)共通項を作りやすい。成熟した大企業は人やお金をそれなりに持っているが、イノベーションは起きにくく外部環境の変化にもついていきにくい現状がある。一方、ベンチャーはアイデアは豊かで外部環境の変化にも敏感だが、人やお金がない。この両者を結びつけてイノベーションを起こす“ハブ”としてスポーツは適していると考えている。

 ―スポーツビジネスの舞台でベンチャー企業に期待することは何ですか。
 新しい発想やアイデアだ。人口減少などを背景に先行きが明るいとはいえない日本経済においてスポーツはカンフル剤となり、新しい市場を生み出せるコンテンツと考えている。ベンチャーの発想などによって新たなビジネスが誕生すればスポーツビジネスだけでなく、日本経済を活性化する力になる。

 ―日本はスポーツの試合を行うスタジアムやアリーナのほとんどを自治体が所有しています。そう考えるとスポーツビジネスを拡大していく上で自治体との連携も重要になりそうです。
 自治体は避けられないステークホルダーだ。(自治体所有の施設を活用してビジネスを推進する場合)企業と自治体の相互理解は重要になるが、難しい領域でもある。ビジネスだけを旗印に掲げれば、自治体は乗りにくいだろうし、地域活性化だけでは企業が難しくなる。その点でも、スポーツの“ハブ機能”が生かせる。自治体も企業も地元のチームを応援する思いが共通だとすれば新しい挑戦は始めやすいはずだ。スポーツがハブになって行政と企業が互いを知る機会が生まれ、別の分野でも協力していくといった起爆剤にもできるのではないか。

埼玉スポーツスタートアップのキックオフイベントが8月に開かれた

 ―SSSが成功し、それを横展開できれば、多様な地域で地方創生が実現できるかもしれませんね。
 たとえばJリーグは多くの地方にクラブがあり、それぞれが“ハブ”機能を持っている。もちろん(SSSのような)プロジェクトにはマンパワーが必要だが、その方法がわかっており、足りない部分は企業や行政が手当てできれば、小さなクラブだとしてもそれを“ハブ”に地域を活性化させられる可能性はある。

ビジネス感覚を持つ人材が欠かせない


 ―スポーツビジネスを盛り上げる機運が高まっていますが、欧米などに比べると遅れも指摘されています。その背景をどのように見ていますか。
 突き詰めると人の問題に行きつく。スポーツチームを運営する企業や団体にビジネス感覚を持つ人材を一定期間コミットする環境が作られていない。そのため持続的に成長してこなかったのだろう。

 ―人材をコミットする環境がないのはなぜでしょうか。
 日本ではこれまで「スポーツは“体育という教育”」として捉えられていたからか、スポーツというコンテンツを(試合興行以外の)ビジネスに活用することがタブー視されてきた。そのため必要な人材に対して適切に投資されていない。それに、これは最大の障壁だと思うのだが、「スポーツが好きだから」という理由で報酬なしでも“奉仕の精神”でやるという人がごまんといて、雇う側もそれに慣れてしまっている。ただ、それを10年間続けられるかといったら大概の人は続かない。そしてまた新しい人が来て盛り上がるが、いずれいなくなる。誰かが何かを始めては、その人が辞めてなくなり、また新しい人が始めては、という“ゼロイチ”の繰り返しで積み上げがなく、いつまでもスケールしない。

 ―どう改善すればよいと考えますか。
 ビジネスパートナーとしてお互いが成長できる関係を構築しないといけない。ただ、それは今から始めればよいと思う。スポーツ市場はビジネス化に正面から取り組めば確実に伸びしろがある。国内は余暇消費財があふれており、普通のコンテンツは他のコンテンツと顧客の奪い合いになる。一方、スポーツは他の余暇消費財とも共存できる。例えば遊園地で遊んだついでにプロ野球を観戦するとか。別の領域から顧客を奪わなくてはパイが広がらないコンテンツではないという点は大きい。

経営状況を可視化する


 ―御社は17年にJリーグと経営戦略などに関するアライアンス契約を結ばれています。なぜチームではなくリーグだったのですか。
 個々のクラブはお金も人もない。ビジネスのニーズはあっても我々が持続的に伴走できるだけの予算の確保が難しそうだった。それこそ我々も“ゼロイチ”のひとつになりかねないと思った。そこで一つレイヤーを上げ、リーグを見ると、継続的なビジネス関係が継続できそうだった。また、業界全体を俯瞰できる人たちを支援した方が全体を活性化しやすいと考えた。

 ―Jリーグの各クラブの経営効率などを見える化した冊子「Jリーグマネジメントカップ(※2)」を毎年発行していますね。
 スポーツは裏側の経営に関する話はなかなか日の目を見ない。情報を開示していないケースも多いし、開示していても閲覧場所がわかりにくいケースもある。数多の人たちにスポーツのビジネス的な側面を知ってもらわなければ、新たな市場の創出につながらない。14年シーズンから刊行を続けて企業から「スポーツコンテンツをどう使えば自分たちのメリットになるか」といった問い合わせが増えている。注目度が高まっていると実感している。

※2 Jリーグマネジメントカップ:Jリーグクラブの財務情報などを基に「マーケティング」「経営効率」「経営戦略」「財務状況」の4つの視点からビジネス・マネジメントを数値化したレポート。2014年シーズンの情報から発行している。



                

連載「突破せよ・スポーツ×ベンチャー」


【01】プロ野球・Jリーグチームのベンチャー協業、相次ぐ挑戦の理由と壁(11月27日公開)
【02】スポーツビジネスの舞台がベンチャー支援に適しているワケ(11月28日公開)
【03】Bリーグ集客トップチーム支える、マーケベンチャーの力の源泉(11月29日公開)
【04】若手起業家たちの挑戦はマイナー・アマチュアスポーツを変えるか(11月30日公開)

ニュースイッチオリジナル

葭本 隆太

葭本 隆太
11月28日
この記事のファシリテーター

余談ですが、国内のほとんどのスタジアムやアリーナの所有者が自治体であることが、新たなビジネスに挑戦する上でネックになるとはよく聞きます。このため、スポーツビジネスにおいて自治体をどう巻き込むかは課題になりそうです。17年にベルギーのサッカーチーム「シント=トロイデン」を買収したDMMは、本拠地スタジアムを中心に街ごと電子通貨構想に取り組んでいます。担当者によると、スタジアムが民間である前オーナーの所有であることによって、計画がスムーズに進行している面があるようです。

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