ゴーン逮捕で激震、3社連合の今後は?その成り立ちを振り返る
カルロス・ゴーン氏は、これまでその豪腕で日産・ルノー・三菱連合を舵取りし、トヨタ自動車を抜き世界2位のグループに押し上げた。同氏の逮捕によって、注目されるのはこの3社連合の今後だ。たびたびルノー経営への関与拡大を図ってきた仏政府との関係も懸念される。これまでの3社連合の動向を振り返る。
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両トップのホットラインで実現した三菱自の傘下入り
2017年ゴーン氏単独インタビュー【1/2】3社連合を大いに語る
2017年ゴーン氏単独インタビュー【2/2】「常にベストを目指すが、1位自体が目標ではない」
日産自動車と仏ルノーとの提携関係に変化の兆しが出てきた。日産会長とルノー最高経営責任者(CEO)を兼ねるカルロス・ゴーン氏が、相互出資の比率見直しなどを検討する姿勢を示した。“ポストゴーン”を見据えた企業統治の新体制を整え、提携を一層強固にする狙いがあると見られる。だがルノーに出資するフランス政府の意向も絡み、先行きは不透明だ。日産・ルノー連合のシナジー創出の源泉である「対等な関係」が維持されるのかが最大の焦点だ。
「仏政府保有のルノー株、日産が買い取りに向け協議」「日産とルノーが合併交渉」と海外通信社が3月に相次いで報道。さらに4月中旬には国内メディアとのインタビューで、ゴーン氏が提携関係のあり方について、両社の出資比率の見直しを含め「あらゆる選択肢についてオープンに検討する」との考えを示した。
ゴーン氏が提携関係の見直しに踏み込んで言及し始めたのは、ルノーが同氏のCEO続投を決めて発表した2月15日以降だ。この人事をめぐってはルノーに15%出資する仏政府が積極的に関与し、一時はゴーン氏の退任観測まで出た。
「不可逆な関係」
最終的に仏政府はルノー・日産の提携を後戻りできない「不可逆な関係」にすることを求め、これにゴーン氏が同意したことで、CEO続投が決まったとされる。
日産とルノーの関係は、自動車業界のグローバル提携の代表的な成功例だ。購買や開発、生産など、16年度のシナジーは前年度比16%増の50億ユーロ(約6650億円)に達した。提携の成功は、両社のトップを兼務し、仏政府にも目配りして連合を取り仕切ってきたゴーン氏個人の存在に寄るところが極めて大きい。
ルノーCEOに再任された後のゴーン氏の任期は22年まで。さらに連合には16年に三菱自動車も加わり、関係が複雑化した。自動運転や車両の電動化など事業環境も急変している。
現体制のままでは、4年後に次世代へバトンを引き継いだ後、提携が維持できないリスクもささやかれ始めた。このため、仏政府は“ポストゴーン”でも提携を「不可逆な関係」にするため、「企業統治の新体制」を求めたようだ。
ゴーン氏自身の心境にも変化がみられる。これまで言及しなかった出資構成の見直しに触れるようになったのは、「強いリーダーシップで連合を引っ張れる人材が周囲に見当たらない中、ゴーン氏自身も連合の将来に不安を感じたのではないか」(遠藤功治SBI証券企業調査部長マネージングディレクター)という意見もある。
日産の反発
では、両社の提携を不可逆的にする体制づくりは、どう進むのか。読み解くカギの一つは「対等な関係」だ。ルノーは日産に約43%出資し、資本の論理では強い立場にある。
しかし両社はそれぞれが独立性を維持しながら、研究開発や生産技術・物流、購買といった機能統合を実施。ウィン―ウィンでシナジーを創出してきた。例えば共同プロジェクトでは、両社にメリットがなければゴーサインを出さない仕組みを整えている。
こうした対等関係について、特に日産社内では「維持すべきだ」との声が大勢だ。新体制づくりでも、ルノーが日産を飲み込むような合併は容認できるものではない。日産幹部も「合併は議論したことがない。ゴーン氏も『あらゆる選択肢』とは言ったが、『(直接的に)合併もあり得る』とは言っていないだろう」と指摘する。
一方で、持ち株会社を新設し、傘下に両社をぶら下げる経営統合は検討の余地があるといえる。日仏以外の国に持ち株会社を置いてシナジー創出を主導しつつ、両社は独立性を維持して事業を展開する形が考えられる。遠藤部長は「持ち株会社の下にルノーと対等な形で入れば日産にとっても受け入れやすいだろう」と見る。
不透明なのは仏政府の動向だ。仏政府は15年春、株式を2年以上保有する株主の議決権が2倍になる「フロランジュ法」を盾に、ルノーを通じて日産の経営に関与する姿勢をみせた。失業率が高止まりする仏国内の雇用対策などのため、日産がフランスの利益になるような経営判断を下すように仕向けた。
この時は日産が、保有するルノー株の比率を15%から25%以上に引き上げるとルノーが持つ日産への議決権が消滅する日本の会社法をちらつかせ、仏政府を退けた。ただ現在も仏政府は「国益が最優先。ルノーを通じて日産を支配する考えだろう」と中西孝樹ナカニシ自動車産業リサーチ代表兼アナリストは分析する。
一方で15年の“失敗”を教訓に仏政府が関与を抑える可能性もある。99年はルノーが日産を救済したが、状況は様変わりした。現在の売上高は日産が11兆8000億円(17年度予想)に対し、ルノーは587億7000万ユーロ(約7兆8000億円、17年)、17年の世界販売台数は日産の581万台に対しルノーは376万台に留まる。
日産は中国や米国など成長市場で足場を築いている上、電気自動車技術にもたけており、実力値としては上にいる。現実的には日産が連合の成長をけん引する構図であり、遠藤部長は「『不可逆な関係』の体制づくりは、仏政府にとってはルノー救済プランという側面がある。日産の競争力低下を招くような強引なことはしない」と分析する。
ゴーン氏は任期が切れる22年までじっくり時間をかけ、新たな体制を整備する考えを示す。実現には日産、ルノーのほか日仏政府の調整も必要だ。
新体制づくりは「まだスタートしたばかり。ゴーン氏が言うようにあらゆる選択肢が考えられる」(中西アナリスト)というのが実態。4年後の日産・ルノー連合の形は、日本の自動車産業にも大きな影響を及ぼすだけに、目が離せない。
(文=後藤信之、日刊工業新聞2018年4月27日掲載)
※肩書き、内容は当時のもの
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両トップのホットラインで実現した三菱自の傘下入り
2017年ゴーン氏単独インタビュー【1/2】3社連合を大いに語る
2017年ゴーン氏単独インタビュー【2/2】「常にベストを目指すが、1位自体が目標ではない」
ルノーCEO続投、3社連合の総仕上げへ動く
日産自動車と仏ルノーとの提携関係に変化の兆しが出てきた。日産会長とルノー最高経営責任者(CEO)を兼ねるカルロス・ゴーン氏が、相互出資の比率見直しなどを検討する姿勢を示した。“ポストゴーン”を見据えた企業統治の新体制を整え、提携を一層強固にする狙いがあると見られる。だがルノーに出資するフランス政府の意向も絡み、先行きは不透明だ。日産・ルノー連合のシナジー創出の源泉である「対等な関係」が維持されるのかが最大の焦点だ。
「仏政府保有のルノー株、日産が買い取りに向け協議」「日産とルノーが合併交渉」と海外通信社が3月に相次いで報道。さらに4月中旬には国内メディアとのインタビューで、ゴーン氏が提携関係のあり方について、両社の出資比率の見直しを含め「あらゆる選択肢についてオープンに検討する」との考えを示した。
ゴーン氏が提携関係の見直しに踏み込んで言及し始めたのは、ルノーが同氏のCEO続投を決めて発表した2月15日以降だ。この人事をめぐってはルノーに15%出資する仏政府が積極的に関与し、一時はゴーン氏の退任観測まで出た。
「不可逆な関係」
最終的に仏政府はルノー・日産の提携を後戻りできない「不可逆な関係」にすることを求め、これにゴーン氏が同意したことで、CEO続投が決まったとされる。
日産とルノーの関係は、自動車業界のグローバル提携の代表的な成功例だ。購買や開発、生産など、16年度のシナジーは前年度比16%増の50億ユーロ(約6650億円)に達した。提携の成功は、両社のトップを兼務し、仏政府にも目配りして連合を取り仕切ってきたゴーン氏個人の存在に寄るところが極めて大きい。
ルノーCEOに再任された後のゴーン氏の任期は22年まで。さらに連合には16年に三菱自動車も加わり、関係が複雑化した。自動運転や車両の電動化など事業環境も急変している。
現体制のままでは、4年後に次世代へバトンを引き継いだ後、提携が維持できないリスクもささやかれ始めた。このため、仏政府は“ポストゴーン”でも提携を「不可逆な関係」にするため、「企業統治の新体制」を求めたようだ。
ゴーン氏自身の心境にも変化がみられる。これまで言及しなかった出資構成の見直しに触れるようになったのは、「強いリーダーシップで連合を引っ張れる人材が周囲に見当たらない中、ゴーン氏自身も連合の将来に不安を感じたのではないか」(遠藤功治SBI証券企業調査部長マネージングディレクター)という意見もある。
日産の反発
では、両社の提携を不可逆的にする体制づくりは、どう進むのか。読み解くカギの一つは「対等な関係」だ。ルノーは日産に約43%出資し、資本の論理では強い立場にある。
しかし両社はそれぞれが独立性を維持しながら、研究開発や生産技術・物流、購買といった機能統合を実施。ウィン―ウィンでシナジーを創出してきた。例えば共同プロジェクトでは、両社にメリットがなければゴーサインを出さない仕組みを整えている。
こうした対等関係について、特に日産社内では「維持すべきだ」との声が大勢だ。新体制づくりでも、ルノーが日産を飲み込むような合併は容認できるものではない。日産幹部も「合併は議論したことがない。ゴーン氏も『あらゆる選択肢』とは言ったが、『(直接的に)合併もあり得る』とは言っていないだろう」と指摘する。
一方で、持ち株会社を新設し、傘下に両社をぶら下げる経営統合は検討の余地があるといえる。日仏以外の国に持ち株会社を置いてシナジー創出を主導しつつ、両社は独立性を維持して事業を展開する形が考えられる。遠藤部長は「持ち株会社の下にルノーと対等な形で入れば日産にとっても受け入れやすいだろう」と見る。
仏政府の思惑
不透明なのは仏政府の動向だ。仏政府は15年春、株式を2年以上保有する株主の議決権が2倍になる「フロランジュ法」を盾に、ルノーを通じて日産の経営に関与する姿勢をみせた。失業率が高止まりする仏国内の雇用対策などのため、日産がフランスの利益になるような経営判断を下すように仕向けた。
この時は日産が、保有するルノー株の比率を15%から25%以上に引き上げるとルノーが持つ日産への議決権が消滅する日本の会社法をちらつかせ、仏政府を退けた。ただ現在も仏政府は「国益が最優先。ルノーを通じて日産を支配する考えだろう」と中西孝樹ナカニシ自動車産業リサーチ代表兼アナリストは分析する。
一方で15年の“失敗”を教訓に仏政府が関与を抑える可能性もある。99年はルノーが日産を救済したが、状況は様変わりした。現在の売上高は日産が11兆8000億円(17年度予想)に対し、ルノーは587億7000万ユーロ(約7兆8000億円、17年)、17年の世界販売台数は日産の581万台に対しルノーは376万台に留まる。
日産は中国や米国など成長市場で足場を築いている上、電気自動車技術にもたけており、実力値としては上にいる。現実的には日産が連合の成長をけん引する構図であり、遠藤部長は「『不可逆な関係』の体制づくりは、仏政府にとってはルノー救済プランという側面がある。日産の競争力低下を招くような強引なことはしない」と分析する。
ゴーン氏は任期が切れる22年までじっくり時間をかけ、新たな体制を整備する考えを示す。実現には日産、ルノーのほか日仏政府の調整も必要だ。
新体制づくりは「まだスタートしたばかり。ゴーン氏が言うようにあらゆる選択肢が考えられる」(中西アナリスト)というのが実態。4年後の日産・ルノー連合の形は、日本の自動車産業にも大きな影響を及ぼすだけに、目が離せない。
(文=後藤信之、日刊工業新聞2018年4月27日掲載)
※肩書き、内容は当時のもの
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