ゴーン逮捕で激震、3社連合の今後は?その成り立ちを振り返る


両トップのホットラインで実現した三菱自の傘下入り


 日産自動車が2016年10月20日、三菱自動車を事実上傘下に収めた。三菱自の会長に就くカルロス・ゴーン日産社長が三菱自の社長職を続投する益子修会長兼社長と連携。不正問題で信頼が失墜した三菱自の再建を目指す。社長人事はゴーン氏が辞意を固めていた益子氏を慰留する異例の事態となった。仏ルノー・日産連合のトップを兼務するゴーン氏の提携戦略と、かつて日産をV字回復させた手腕が注目される。

経験を踏まえ
 「益子さんには厳しいタスクが待っている。会長として支援し、助言する」。20日に開いた会見でゴーン氏は三菱自会長職の役割をこう説明した。1999年、ゴーン氏は経営危機に瀕していた日産に仏ルノーから送り込まれ、工場閉鎖や調達コストのカットといった改革を進め、業績のV字回復を果たした。「瀕死から抜け出した当時の経験を踏まえて三菱自の再生を支援する道を選んだ」(ゴーン氏)。

 不祥事を繰り返してきた三菱自の再建には組織改革は不可避だ。日産はすでに元副社長の山下光彦氏を三菱自に派遣し、不正の舞台となった開発部門の改革に着手している。ゴーン次期会長は「開発だけでなく組織全体の改革に目を光らせる」(日産幹部)。

シナジー追求
 一方でゴーン氏は日産の再建と同時に、共同購買や開発の分担でルノー日産連合のシナジーを追求してきた。15年の両社のシナジー効果は43億ユーロにのぼるという。10年には独ダイムラーと資本提携し、ロシア最大手アフトワズも傘下に収めて連合の勢力も拡大。外交手腕を巧みに発揮した連合のシナジー追求と勢力拡大はゴーン流経営の神髄と言える。

 「私は2社のトップも務める。連合内の連携を円滑化できる」。ゴーン氏は会見でこうも強調した。新たに三菱自を連合に迎え入れるのにあたって、ルノー、日産、三菱自の3社のトップを兼務するのは連合が享受できるシナジーを引き出す狙いもある。

 自動車業界は、これまでの環境や低コスト技術に加え、自動運転、つながる車、シェアリングといった新分野が急速に台頭している。ルノー・日産連合は三菱自への出資で、年販1000万台規模のトヨタ、米ゼネラルモーターズ、独フォルクスワーゲンの仲間入りをすることになるが、ITや通信、輸送サービスなど異業種も入り交じる競争環境は変化が速い。自らが会長として三菱自に乗り込むゴーン氏には、変革を迫られる自動車業界の力学が働いている。

再建へ意識改革徹底−益子氏留任、消費者反発も


信頼寄せる
 「ゴーン氏が益子氏留任に固執する気持ちは分かる」(三菱自幹部)、「不正発覚後の益子氏の功績は大きい。ゴーン氏は信頼を寄せている」(日産幹部)。ゴーン氏―益子氏のホットラインは両社内でも広く知られている。ゴーン氏の益子社長留任要請は両トップの親密さを物語る。

 日産と三菱自が急接近したのは2010年。共同会見に臨んだ両者は軽自動車の協業を柱とする提携拡大を発表、「ウイン―ウインの関係」を強調した。後に両社の提携関係は仏ルノーにも広がった。今回の燃費不正発覚後、わずか3週間で資本提携の合意にこぎ着けたのも日産ナンバー2の西川廣人副会長を含めゴーン氏と益子氏の連携プレーがあった。

 「ゴーンさんが再建に情熱を持って接してくれた。次期中期計画の道筋をつけることも経営責任の取り方と考え方を改めた」。益子氏は会見でこう話した。社長続投が決まった益子氏の胸中は複雑だった。益子氏が三菱商事から三菱自に送り込まれたのは04年。リコール隠し問題で経営危機に瀕していた三菱自の再建を託された。14年に経営の足かせとなっていた「優先株問題」を処理し、生え抜きの相川哲郎前社長による新体制で再建に道筋をつけた頃、同業他社首脳に辞意を漏らしている。だが「(三菱商事など主要株主の)三菱グループから慰留された」(同業他社首脳)といい、指揮を続けた。

 今回の不正発覚後も再発防止と日産との資本提携に道筋をつけ次第、辞任する意向を周囲に漏らしていた。だが、ゴーン氏としては「留任は重大な条件だった」。主要株主を代えての度重なる慰留となった。それを受け入れたからには、改めて経営者としての覚悟が求められている。

 「益子氏が留任したところで世間は納得してくれるのか」。三菱自幹部はこう吐露する。

 一連の不正行為は益子修会長兼社長が経営トップを務めていた時期に行われた。経営責任を明確にしないまま益子氏が続投することで消費者の反発を招く恐れもある。

世間の目
 三菱自は19日、17年3月期連結業績の見通しを下方修正し大幅な当期赤字を発表した。「下期は営業損益を黒字転換するなど何とか反転させ、日産とのシナジーを取り込みながら17年春の発表を予定する次期中期経営計画につなげたい」。池谷光司三菱自副社長はこう強調する。経営責任を問う声が根強く残る益子氏を慰留したゴーン氏が、失墜した信頼を取り戻しつつ、かつての日産のようなV字回復を再現できるか。世間から厳しい視線が注がれるなかで難しい舵取りが求められている。

《会見要旨/益子氏続投、実績で証明−ゴーン氏》


 会見でのやりとりは次の通り。

 ―益子会長兼社長を続投させる理由は。

 ゴーン氏 益子さんは何度も退任したいと言った。ただ私が残ってほしいと要望した。益子さんとは長年にわたり協力し、信頼している。

 益子氏 燃費不正問題の経営責任については報酬を自主返納し、新体制発足後に退任したいと話してきた。ゴーンさんからは信頼回復に向けた継続的な取り組みなどを考えた場合、残ってほしいという要請を再三受けた。6カ月間、気持ちの整理がつかず、前向きに受け入れることができなかった。4月21日に支援を要請して以降、一貫してゴーンさんからは三菱自の再建に情熱を持って接してもらった。次期中計の道筋をつけることも経営責任の取り方と考え方を整理した。

 ―益子氏は経営責任を取り退任すべきだとの意見がある。

 ゴーン氏 企業には株主がおり、私は株主の期待に応えなければならない。あくまでビジネスの利益となる決断を下したいと思っており、三菱自の株主のためには益子さんは残るべきだ。そしてこの決断が良い決断であったことを実績を残すことで証明することが私の仕事だ。

(文=編集委員・池田勝敏、西沢亮、日刊工業新聞2016年10月21日掲載)

※肩書き、内容は当時のもの

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