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VR映画の道のりは険しいが…仕掛け人が語る東映の勝算

連載・映画館 新時代(2)
VR映画の道のりは険しいが…仕掛け人が語る東映の勝算

VR映画の視聴イメージ(画像は東映提供)

 東映はVAIO(長野県安曇野市)やクラフター(東京都港区)と共同で「VR映画」の上映に乗り出した。7月に短編のVRアニメを先行上映し、今後はホラー映画「呪怨VR」などの公開を控える。映像に合わせて座席が動いたり風が吹いたりする「4D」などに次ぐ、新たな「体験型映画」のフォーマットとして興行会社の注目を集めている。一方、大スクリーンを備えた映画館においてヘッドマウントディスプレイ(HMD)をかけながら視聴するという仕組みの普及には、懐疑的な声もある。VR映画の仕掛け人である東映企画調整部兼映画興行部の紀伊宗之次長にその勝算を聞いた。

挑戦者こそ権益を掴む


 ―VR映画の提供を決めた狙いは。
「二つある。一つは映画館には特別な映像体験ができる場所としての期待があり、そのためのコンテンツになり得ると考えたこと。もう一つは(VR映像)ビジネスの商流を生み出せると思ったことだ。映画館は映像コンテンツの『ファーストウィンドウ』の役割を果たしている。一方、VR作品の制作者は無数にいる。その人たちが目指す場所を提供し、映画館がVR作品の見本市となった上で消費者向けの配信サービスなどに落ちていく流れを生み出せるのではないかと考えた」

 ―VR映画の上映システムは他の興行会社にも提案する方針を示しています。これは商流を作るための戦略ですね。
 「『VR映画』の市場を大きくして先行者利益を取る狙いがある。新しい仕組みで挑戦し、仮に商流が作れれば、その商流にはプレイヤーがいないところがたくさん出てくる。そこは挑戦者の権益になる。もっと言えば、いずれVRは一般の生活にも入っていく可能性がある。その時にVR映画に挑戦したことで得た知見がまったく別のビジネスで生かせるかもしれない」

 ―上映システムに対する興行会社の反応はいかかですか。
 「ものすごい問い合わせがきている。特別な映像体験を提供するためのシステムとしてVR映画は期待されている。我々も市場を創出する上で導入する劇場数はなるべく増やしたいと考えており、システムの導入費用を安価にした。『4D』などに比べて5分の1程度で設置できる」

映像演出のひな形は見つかっていない


 ―一方、VR映画の価値は現時点でどこにあると考えていますか。
 「VR映画だからこその価値はこれから模索していくというのが率直な考えだ。3年ほど前にVR技術に着目したが『映画館とVRはミスマッチ』というのが私自身の最初の印象だった。(家庭などでVR映像を視聴する場合などに比べて)音響設備のアドバンテージはあるが、現時点でも(映画ならではの特別な価値を提供する)道のりは険しいと思っている。観客の視点の誘導方法など感動が大きくなる映像演出のひな形は見つかっていない。ただ、この模索の先にVRでしかできない映画作品があるはずだ。それが見つかれば、映画館ビジネスにとっては最高のコンテンツになる」

 ―VRは特有の制約がかかります。例えば目の疲れなどを考えると、通常の映画のような2時間の作品は到底難しいように思います。
 「時間の制約は解決すると思っている。個人的には30分一本で勝負したい。まず、映画館でVRを上映すると決めたことで30分程度の長さが限界ということや椅子に座って360度を見渡せるといった作品を作る上での要件が定義された。挑戦すると決めて要件が定義されたからこそ、解決策を探ることができる」

15分で1800円を払ってもらえる作品が勝つ


 ―映画は2時間が一般的となっている中で、30分の作品は観客を呼べるでしょうか。
 「若年層はユーチューブなどで短時間の映像コンテンツを楽しんでおり、その長さに慣れている。彼らは映画にとって今後、主要顧客になってもらいたい層だ。そう考えると映画はむしろ短くないと駄目だと思う。2時間では長すぎる。これからは15分で1800円を払ってもらえるコンテンツを考え出した人が勝つとも言えるのではないか。VR映画はその候補の一つだと思う」

 ―7月の先行上映では「エヴァンゲリオン」や「おそ松さん」などのアニメ作品を扱いました。なぜですか。
 「VR映画に適したジャンルとしてアニメが可能性を秘めているからだ。VRアニメは絵本の世界に入ったような体験を提供できる。特にクラフターの『スマートCG』という技術により、日本人が好むセルアニメの世界に入ることができる」

 ―東映としては今後どのようなコンテンツを上映する考えですか。
 「『仮面ライダーVR』や『呪怨VR』は決定している。我々が持つコンテンツを活用してVR映画を盛り上げる呼び水を作りたい。また、市場が大きくなれば『ドラゴンボール』や『ワンピース』のVR作品も考えられる。音楽ライブも面白いだろう。将来は『4D』と連動し、世界のジェットコースターを疑似体験できるコンテンツなども考えられる」

東映の紀伊宗之さん

「映画館 新時代」5回連載


【01】映画館の“アトラクション化”その裏にあるシネコンの自負と危機(9月7日公開)
【02】VR映画の道のりは厳しいが…仕掛け人が語る東映の勝算(9月8日公開)
【03】シネコンが奪い合う“爆音映画祭”ファン拡大中(9月9日公開)
【04】“消滅可能性都市”で起きる映画館戦争、挑む男とその夢(9月10日公開)
【05】ライブ・ビューイング市場、成長のカギは“演歌”が握る(9月11日公開)
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葭本隆太
葭本隆太 Yoshimoto Ryuta デジタルメディア局DX編集部 ニュースイッチ編集長
トップ画像のようにヘッドマウントディスプレー(HMD)をかけての視聴は正直違和感があり、私自身は普及について懐疑的に見てしまう一人です。一方、実際に体験してみたところ、思っていた以上に音響の影響は大きく、今までのVR映像視聴では感じたことがない没入感がありました。紀伊さんが指摘するVRだからこそ感動が一層大きくなる映像演出や、作品の誕生を期待したいところです。

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