映画館の“アトラクション化”その裏にあるシネコンの自負と危機

連載・映画館 新時代(1)

 映画館の“アトラクション化”が止まらない。映像に合わせて座席が動いたり風が吹いたりする「4D」の導入スクリーン数はこの4年で10倍に増えた。新たにヘッドマウントディスプレー(HMD)をかけて楽しむ「VR映画」も登場した。生活者の消費対象は「モノ」から「コト」に移ったとされる。その中で、シネマコンプレックスを運営する興行会社は技術革新が生み出した最新設備を導入し、特別な体験ができる場所としての価値を磨くことで収益力を高めている。

 一方、最新設備に頼った運営で集客力を維持するためには、常に新たな投資に挑む必要がある。興行会社からはその苦しさを吐露する声も漏れる。

新たな「体験型」に期待


 「映画館でVR!」―。7月、東映はVAIO(長野県安曇野市)やクラフター(東京都港区)と共同でVR映画の上映に乗り出した。VR映画は映画館の音響設備により家庭などでのVR映像視聴では味わえない高い没入感を体験できる。これに強く反応したのがシネコンを運営する興行会社だ。東映などはVR映画の上映システムを外部のシネコンに開放する方針を示しており、複数の興行会社は「上映システムの導入に関心がある」と明かす。

 大きなスクリーンを備えた映画館においてHMDを装着しながら視聴するという仕組みにはやや懐疑の目を向けつつも、映画館でしか味わえない映像体験ができる「体験型映画」の次世代フォーマットに対する期待はそれを上回る。

 興行会社が新たな「体験型映画」の誕生に期待する理由は、彼らが特別な体験を提供するシステムを整えることで生活者を呼び込む「装置産業」だからだ。そもそも映画館ビジネスは水物。ヒット作に恵まれた年は興行収入が大幅に伸び、恵まれなければ落ち込む。それでもここ5年の興行収入はおおむね右肩で成長しており、興行会社には「装置産業としての設備投資などの効果が興行収入の成長を下支えした」という自負がある。だからこそ、新たな「体験型映画」によって集客力を高めたい思惑がある。

 VR映画を仕掛けた東映企画調整部兼映画興行部の紀伊宗之次長は「映画作品は映画館にとって王様。ただ、すべてではない。興行会社は『今年はこの映画がヒットしたから儲かった』と考えていては駄目。映画館はデジタル化によって装置産業に変わり、(集客施策に)主体性が持てるようになった。自らどう発展していくかを考える必要がある」と力を込める。

「『もっと楽しいこと』に喜んでお金を払う人はいる」


 体験型映画や映画館のデジタル化は3D映画をきっかけに広がった。2009年に公開された「アバター」が火付け役となり、3Dを上映する劇場は全国に普及した。直近では13年に登場した「4D」対応のスクリーンが急増中。高品質な映像や音響を楽しめる「IMAX」の導入数も右肩上がりだ。

 体験型映画の視聴には数百―千数百円程度の追加料金が発生するが、それでも生活者に受け入れられているようだ。映画館の平均入場料は1246円だった13年から17年には1310円に上昇した。映画業界に詳しいGEM Partners(ジェムパートナーズ、東京都港区)の梅津文CEOは「4D上映は高単価ながら高い稼働率を誇っている。『もっと楽しいこと』に対し追加でお金を喜んで払う人はいる」と分析する。

 シネコン「109シネマズ」を運営する東急レクリエーション(東京都渋谷区)の山下喜光取締役は「シネコンは高齢者や学生向けなどの割り引きを順次拡充しており、通常の映画を視聴する単価はここ数年下がっているはず。その中での単価上昇は(4Dなどの)特別な体験の価値が生活者に認められている証拠だ」と推察する。

 

動画配信サービスの影


 一方、装置産業にとって設備投資に終わりはない。「リニューアルしない遊園地は客が減ることと同じ」(興行会社幹部)と指摘される。最新設備もいずれは陳腐化するというわけだ。実際に一世を風靡した3Dの導入スクリーン数はすでに頭打ちとなり、興行会社の間では「下火」との認識が広がりつつある。

 最新の映像・音響設備の投資額は巨額だ。例えば「IMAX」の投資額は数億円程度に上ると言う。そして投資は成功が約束されていない。ある興行会社の社長は「最新の立体音響システムを国内で初めて導入した映画館があったが、その価値がなかなか認められず集客力は高められなかった」と過去の失敗を打ち明ける。このため、興行会社からは「投資し続けなければならない苦しさは当然ある」とため息も漏れる。

 今後の映画館の趨勢を考える上では、スマートフォンや動画配信サービスの普及などにより映像コンテンツを手軽に視聴できる環境になった影響も見逃せない。興行会社からは「映像作品に触れる機会が増えたことは、より良い特別な環境で映像を視聴できる映画館の需要の拡大にもつながる」と好影響を見込む声が上がる。

 ただ、「若年層の中には映画館に行く必要がないと思う人が出て来るのではないか」という危機感も聞こえる。将来の主要顧客を確保する上でも設備投資などによって映画館で映画を見る意味、つまり特別な体験を提供する場を作り続けることは興行会社の宿命になっている。

ブランド作りに生かす


 映画館ビジネスにとって最新設備に対する投資は欠かせない。その中で、設備投資を自社のブランド作りに生かす動きもある。東急レクリエーションは「IMAX=(イコール)109シネマズ」のイメージ作りを推進する。09年に川崎市の「109シネマズ川崎」など3カ所で日本初の「IMAXデジタルシアター」を開設。それ以来、IMAXを中心に導入してきた。同社の山下取締役は「IMAXは非常に良質な映像と音楽を提供できる。他の設備も常に研究しているが、ブランド戦略としてもIMAXを中心に今後も導入する」と意気込む。

 また、装置産業としての投資対象は映像・音響設備に限らない。シネコンの「イオンシネマ」を運営するイオンエンターテイメント(同港区)は主に3―8歳を対象に遊具や低い座席を設置した「げんきッズシアター」を17年に愛知県常滑市の「イオンシネマ常滑」に設置した。この背景は「常滑は商圏の地元人口が少なく近隣に競合劇場が2館あった。その環境下で存在感を出すため。将来の映画ファンを育成する狙いもある」(担当者)という。

 


「映画館 新時代」今日から5回連載


 映画館ビジネスが進化しています。4DやIMAXといった最新設備の導入だけでなく、登場人物に声援を送る「応援上映」という新たな鑑賞スタイルによって集客する手段も生まれています。また、歌手のライブなどを中継する「ライブビューイング」は一つの市場を作り出しました。そんな映画館ビジネスの今を本日より5回の連載でお届けします。

【01】映画館の“アトラクション化”その裏にあるシネコンの自負と危機(9月7日公開)
【02】VR映画の道のりは厳しいが…仕掛け人が語る東映の勝算(9月8日公開)
【03】シネコンが奪い合う「爆音映画祭」ファン拡大中(9月9日公開)
【04】“消滅可能性都市”で起きる映画館戦争、挑む男とその夢(9月10日公開)
【05】ライブ・ビューイング市場、成長のカギは“演歌”が握る(9月11日公開予定)

ニュースイッチオリジナル

葭本 隆太

葭本 隆太
09月07日
この記事のファシリテーター

取材をしていて東映の紀伊さんの「映画作品は映画館にとって王様。ただ、すべてではない。」というコメントがとても印象的でした。彼は東映系のシネコン運営会社であるティ・ジョイで長く働かれ、今は配給会社である東映に戻り映画のプロデュースもされています。そうした経歴を持つ方がおっしゃったのでインパクトが大きかったです。次回はその紀伊さんのインタビューをお届けします。

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