#3
【開拓者に聞く】クラウドファンディングだから実現できる本当の不動産投資市場
興亡・不動産-テックの衝動(2)
新たな投資市場を作りたい-。二人の言葉には熱がこもる。インターネットを通じて個人が不動産事業に気軽に投資できる「不動産クラウドファンディング(CF)」サービスを運営するクラウドリアルティ(東京都千代田区)の鬼頭武嗣代表取締役と、ロードスターキャピタルの岩野達志社長だ。
鬼頭代表取締役は京町家を宿泊施設に再生する事業や保育園建設事業などのCFを手がけた。CFを通じて「不動産事業が持つ利回り以外の価値も含めて投資家に示し、資金調達できる市場を目指す」(鬼頭代表取締役)考えだ。一方、岩野社長は個人が1口1万円から不動産に投資できる仕組みを構築し、投資家の裾野を広げている。「機関投資家と同じ環境で個人が不動産に投資できる市場の構築」(岩野社長)を目標に掲げる。
二人に開拓を目指す市場の意義を聞いた。
-京町家を宿泊施設に再生する事業の資金としてCFを実施し、約4週間で110人の個人投資家から7200万円を集めました。宿泊施設を運営するトマルバ(京都市)から資金調達の相談を受け、融資する形になりました。
「想定した期間内に投資家が集まり、安心した。3月から宿泊施設として運営が始まっており、CFの運用期間が終わる2020年にはその施設による利益などを元手に投資家に出資金を返す。トマルバの運営を見守りながら進めていきたい」
-京町家の再生事業の投資家の中にはそれまで投資経験がまったくない人が3割もいると聞きました。
「投資商品としての利回りだけでなく(町家の再生という)プロジェクト自体の魅力に惹きつけられて参加した人がいたということだろう。実際に投資家からは『(金銭的なリターンだけではなく)京町家が宿泊施設に再生する過程に興味を持った』という声を聞いた。目標とする市場の構築に向けて手応えが得られた」
-目標とする市場とはどんなものですか。
「事業者が利回り以外も含めて事業が持つ価値を直接、投資家に訴えることで資金調達できる市場だ。現在は国内の不動産資産のうち1-2%しか証券化できていない。それはお金が儲かるという一つの価値観で投資対象を判断しているからだ。(地域の活性化などの)お金以外の多様な価値観を伝え、それに意義を感じて投資する人が入ってくれば市場は大きくなる」
-空き家の再生など既存の金融機関からは融資を受けにくい事業の資金調達手法として行政の期待は大きいです。
「地方創生事業への融資は積極的に手がけたい。資金調達で苦労しているという相談が全国から届いており、解決したい。一方で金融機関として(投資家に出資金が返せなくなるといった)失敗は避けなくてはいけない。成功により、不動産市場でお金が循環する正のサイクルを回し続けることが我々の役割だ。そのため事業を見極めて融資し、成功するように事業者と密にコミュニケーションしていく」
-トマルバによる京町家の再生事業に融資を決めた理由は。
「宿泊施設としての集客見通しや競合の稼働状況、単価などを踏まえた事業計画はもちろん、トマルバの熱意が強かった。彼らは実際に京都に生まれて町屋に住んでおり、京町家再生の価値を伝える説明に説得力があった」
-事業者の熱意によって投資家の動きも変わりますか。
「(投資を募るページに掲載する)事業のPR文章の濃淡によって差が出る。事業者と投資家の距離が近いため、熱意が伝わりやすいからだろう」
-2014年に国内初の不動産特化型CFサービス「オーナーズブック(OB)」を始めました。不動産を担保に企業に出資し、その企業が得た利益を基に利回りが得られる「貸付型」のスキームです。気軽に不動産投資ができる商品として30-40代の会社員を中心に人気を集めていますね。
「不動産CFや我々の認知度が徐々に上がり、16年10月頃から会員が増えた。今では1億円規模の案件なら募集を始めてから5分程度で満額を達成するほどだ。銀行預金の利息との比較で(我々の商品の)5%程度の利回りに魅力を感じてもらっている」
-「OB」が取り入れた「1口1万円から」という仕組みも注目を集める要因になっています。
「新しい投資商品だったため、お試しでも投資できる仕組みとして導入した。資金の流れや投資するプロセスを経験してもらうことで心理のハードルを下げる狙いがあった」
-不動産CFサービスを始めた背景は。
「社会を変えられるテーマだと思ったからだ。従前は個人が不動産に投資する機会はなかなかなかった。現物マンションや不動産投資信託(Jリート)くらいだった。株や債券における個人と機関投資家の投資環境は公平なのに不動産は圧倒的に機関投資家が恵まれていた。不動産を軸に資金調達する企業と個人投資家を結び付ける市場を構築できれば、不動産の流通も活性化する」
-投資商品として事故を起こさない「10戦10勝」にこだわっていますね。
「会社の信用を増していく上で(安定した利回りを出す)実績を積み重ねることが大事だ。投資商品なので当然リスクはある。将来にわたって絶対に事故が起こらないとは言えない。それでも個人の投資家を相手に事故が起きると機関投資家の相手をする以上に影響が大きい。このため小さなリスクでも極力排除したい」
-一方で国土交通省は空き家再生などのリスクが高い事業の資金調達手法としてCFに期待しています。
「CFは魔法の杖ではない。国交省は資金がない市場にCFで資金を集めたいということだろうが、(事業で収益を得て投資家に戻す)出口は誰が面倒を見るのか。民間資金だけで人が居なくなった地域を活性化させるのは難しい。本来は地元の行政と一緒に解決する話だと思う。一部は行政の補助を入れるなどリスクを制御する仕組みが必要だろう」
-17年にマザーズに上場した理由は。
「CF事業をしっかり育てるということは上場を目指すと同義だと考えていた。仮にCFを運営する事業者が破綻し、整理される場合、分別管理していた投資家の資金がどこまで担保されるかはわからない。だからこそ個人からお金を集めるCF事業者は上場して東京証券取引所や証券会社などあらゆる第三者にチェックしてもらって企業の健全性を証明する必要がある」
【01】お金だけじゃない動機も…若年層が注目する新たな不動産投資のかたち
【02】開拓者に聞く クラウドファンディングだから実現できる本当の不動産投資市場
【03】ソニー不動産の挑戦が示したこと 業界に“メルカリ”は生まれないのか
【04】売り上げがたたない…不動産業界でテック企業が生き残るための必須条件
【05】ブロックチェーンが賃貸住宅をホテルに変える?
【06】“不動産テック1.0”の立役者が描く未来【井上高志ライフル社長インタビュー】
【07】不動産仲介大手が火花散らす、“ICT競争時代”に入った
【08】「ソサエティ5.0」実現へ、国土交通省は不動産業の情報化を加速する
鬼頭代表取締役は京町家を宿泊施設に再生する事業や保育園建設事業などのCFを手がけた。CFを通じて「不動産事業が持つ利回り以外の価値も含めて投資家に示し、資金調達できる市場を目指す」(鬼頭代表取締役)考えだ。一方、岩野社長は個人が1口1万円から不動産に投資できる仕組みを構築し、投資家の裾野を広げている。「機関投資家と同じ環境で個人が不動産に投資できる市場の構築」(岩野社長)を目標に掲げる。
二人に開拓を目指す市場の意義を聞いた。
「〝儲かる〟以外の価値観を取り入れる」(鬼頭武嗣代表取締役)
-京町家を宿泊施設に再生する事業の資金としてCFを実施し、約4週間で110人の個人投資家から7200万円を集めました。宿泊施設を運営するトマルバ(京都市)から資金調達の相談を受け、融資する形になりました。
「想定した期間内に投資家が集まり、安心した。3月から宿泊施設として運営が始まっており、CFの運用期間が終わる2020年にはその施設による利益などを元手に投資家に出資金を返す。トマルバの運営を見守りながら進めていきたい」
-京町家の再生事業の投資家の中にはそれまで投資経験がまったくない人が3割もいると聞きました。
「投資商品としての利回りだけでなく(町家の再生という)プロジェクト自体の魅力に惹きつけられて参加した人がいたということだろう。実際に投資家からは『(金銭的なリターンだけではなく)京町家が宿泊施設に再生する過程に興味を持った』という声を聞いた。目標とする市場の構築に向けて手応えが得られた」
-目標とする市場とはどんなものですか。
「事業者が利回り以外も含めて事業が持つ価値を直接、投資家に訴えることで資金調達できる市場だ。現在は国内の不動産資産のうち1-2%しか証券化できていない。それはお金が儲かるという一つの価値観で投資対象を判断しているからだ。(地域の活性化などの)お金以外の多様な価値観を伝え、それに意義を感じて投資する人が入ってくれば市場は大きくなる」
-空き家の再生など既存の金融機関からは融資を受けにくい事業の資金調達手法として行政の期待は大きいです。
「地方創生事業への融資は積極的に手がけたい。資金調達で苦労しているという相談が全国から届いており、解決したい。一方で金融機関として(投資家に出資金が返せなくなるといった)失敗は避けなくてはいけない。成功により、不動産市場でお金が循環する正のサイクルを回し続けることが我々の役割だ。そのため事業を見極めて融資し、成功するように事業者と密にコミュニケーションしていく」
-トマルバによる京町家の再生事業に融資を決めた理由は。
「宿泊施設としての集客見通しや競合の稼働状況、単価などを踏まえた事業計画はもちろん、トマルバの熱意が強かった。彼らは実際に京都に生まれて町屋に住んでおり、京町家再生の価値を伝える説明に説得力があった」
-事業者の熱意によって投資家の動きも変わりますか。
「(投資を募るページに掲載する)事業のPR文章の濃淡によって差が出る。事業者と投資家の距離が近いため、熱意が伝わりやすいからだろう」
「クラウドファンディング事業の育成と上場は同義」(岩野達志社長)
-2014年に国内初の不動産特化型CFサービス「オーナーズブック(OB)」を始めました。不動産を担保に企業に出資し、その企業が得た利益を基に利回りが得られる「貸付型」のスキームです。気軽に不動産投資ができる商品として30-40代の会社員を中心に人気を集めていますね。
「不動産CFや我々の認知度が徐々に上がり、16年10月頃から会員が増えた。今では1億円規模の案件なら募集を始めてから5分程度で満額を達成するほどだ。銀行預金の利息との比較で(我々の商品の)5%程度の利回りに魅力を感じてもらっている」
-「OB」が取り入れた「1口1万円から」という仕組みも注目を集める要因になっています。
「新しい投資商品だったため、お試しでも投資できる仕組みとして導入した。資金の流れや投資するプロセスを経験してもらうことで心理のハードルを下げる狙いがあった」
-不動産CFサービスを始めた背景は。
「社会を変えられるテーマだと思ったからだ。従前は個人が不動産に投資する機会はなかなかなかった。現物マンションや不動産投資信託(Jリート)くらいだった。株や債券における個人と機関投資家の投資環境は公平なのに不動産は圧倒的に機関投資家が恵まれていた。不動産を軸に資金調達する企業と個人投資家を結び付ける市場を構築できれば、不動産の流通も活性化する」
-投資商品として事故を起こさない「10戦10勝」にこだわっていますね。
「会社の信用を増していく上で(安定した利回りを出す)実績を積み重ねることが大事だ。投資商品なので当然リスクはある。将来にわたって絶対に事故が起こらないとは言えない。それでも個人の投資家を相手に事故が起きると機関投資家の相手をする以上に影響が大きい。このため小さなリスクでも極力排除したい」
-一方で国土交通省は空き家再生などのリスクが高い事業の資金調達手法としてCFに期待しています。
「CFは魔法の杖ではない。国交省は資金がない市場にCFで資金を集めたいということだろうが、(事業で収益を得て投資家に戻す)出口は誰が面倒を見るのか。民間資金だけで人が居なくなった地域を活性化させるのは難しい。本来は地元の行政と一緒に解決する話だと思う。一部は行政の補助を入れるなどリスクを制御する仕組みが必要だろう」
-17年にマザーズに上場した理由は。
「CF事業をしっかり育てるということは上場を目指すと同義だと考えていた。仮にCFを運営する事業者が破綻し、整理される場合、分別管理していた投資家の資金がどこまで担保されるかはわからない。だからこそ個人からお金を集めるCF事業者は上場して東京証券取引所や証券会社などあらゆる第三者にチェックしてもらって企業の健全性を証明する必要がある」
興亡・不動産 -テックの衝動
【01】お金だけじゃない動機も…若年層が注目する新たな不動産投資のかたち
【02】開拓者に聞く クラウドファンディングだから実現できる本当の不動産投資市場
【03】ソニー不動産の挑戦が示したこと 業界に“メルカリ”は生まれないのか
【04】売り上げがたたない…不動産業界でテック企業が生き残るための必須条件
【05】ブロックチェーンが賃貸住宅をホテルに変える?
【06】“不動産テック1.0”の立役者が描く未来【井上高志ライフル社長インタビュー】
【07】不動産仲介大手が火花散らす、“ICT競争時代”に入った
【08】「ソサエティ5.0」実現へ、国土交通省は不動産業の情報化を加速する
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