“不動産テック1.0”の立役者が描く未来 【井上高志ライフル社長インタビュー】

興亡・不動産―テックの衝動(6)

 住宅を買ったり借りたりする場合、まず何を調べるだろう。多くの人がインターネットを検索するのではないか。特に多数の物件情報が掲載される不動産情報ポータルサイトはその名の通り、物件検索の『玄関』になっている。情報通信技術(ICT)の活用の遅れが指摘される不動産業界だが、物件紹介の面ではICTがすでに浸透している。不動産業界における今後のテクノロジー活用が「不動産テック2.0」とするなら、不動産情報ポータルサイトは「不動産テック1.0」の世界を実現したと言えるだろう。

 そこで、1997年に「ホームズ(現ライフルホームズ)」として、不動産情報ポータルサイトをいち早く開設したライフルの井上高志社長に、今後のICT活用の展望を聞いた。「不動産テック1.0」の立役者は、進化を続けるICTを活用してどんな未来を創造しようとしているのか―。

世界の投資用物件の流通プラットフォーマーになる


 ―「ホームズ」では掲載物件数の拡大だけでなく、不動産関連情報の可視化にも注力されていますね。2015年には地図上でマンションの参考価格がわかる「プライスマップ」の運営を始めました。
 「プライスマップは、ホームズに掲載された物件のデータやオープンデータを重ね合わせ、分析することで参考価格を算出している。売り出したり、貸し出したりした際の価格が分かる。不動産会社が勘や経験ではじき出していた従前の価格よりも、合理的に算出できる仕組みだ。これは消費者だけでなく、不動産業者にとっても有用だと思う。売り手や大家と売却価格や賃料を決める際の仕事が効率化できるのでぜひ、使ってほしい」

 ―進化するICTを活用して、ホームズの不動産関連情報をどのように拡充していきますか。
 「今後の可能性として、住宅の未来の価格推移を人工知能(AI)が予測する価格推計プログラムを整備したいと考えている。街の人口構成や世帯年収の変化など、不動産に関連する多様な要素を重ね合わせて10―20年後の価格を分析して表示できるようにする。実現すれば不動産の流動性は一層高まる」

ライフルホームズ・井上高志社長

 ―ホームズの将来像は。
 「投資用物件が流通するプラットフォーマーを目指す。オンライン上で投資用物件の申し込みから契約までが完結する仕組みを構築したい。国内だけでなく、世界中の物件を網羅したデータベース(DB)を構築し、日本に居ながら全世界の物件にオンラインで投資できるようにしたい。スマートフォンで世界中の不動産に投資できる環境が整えば、自宅を数千万円で購入するのではなく、その資金を世界中に分散投資して、その収益で賃料を支払い、いつでもどこでも自分のライフスタイルに合わせて住み替えられるといった世界が実現するかもしれない」

空き家の解消、全方位で促進


 ―「すべての不動産情報が公開される仕組みを構築する」という目標を掲げて創業されました。その達成に向けて、今は何合目にいますか。
 「5合目くらいだろう。ホームズでは過去に掲載した物件を名寄せしてアーカイブ化している。全国に約6000万件ある住宅のうち、現在は2500万件くらいが蓄積されたところだ。今後、頂上を目指す上では空き家情報の蓄積が課題だ。賃貸や売買の市場に出ていない用途不明の空き家が約300万件あるとされる。これをDB化したい」

 ―空き家は情報の収集が大変です。どのようにDB化しますか。
 「空き家を管理する全国の自治体と連携する形で、『空き家バンク』の運営を17年9月に始めた。すでに約900市区町村のうち、約450市区町村が参加を表明している。自治体には『空き家をどうにか解消しなくては』という切迫感がある。参加する自治体の数を増やすことで物件を増やす」

空き家解消に意欲を示す

 ―空き家は増加を続けています。それに対応するにはDB化は大前提ですが、その上でいかに解消するかも課題になります。
 「我々としてはDBの構築だけでなく、活用方法の提案も進めていく。具体的には地域と包括協定を結んで、空き家活用のための『ヒト・モノ・カネ・知恵』を流し込む。その施策の一つとして空き家を使ったカフェや民泊などの運営に意欲をもつ起業家を集めて教育し、地域に送り込む。また、事業資金の調達には(オンラインで個人から資金を集められる)クラウドファンディングの機能を用意する。成功事例の情報も発信していく。全方位の取り組みで空き家の解消を促したい」

 ―ブロックチェーン(BC)技術を活用して不動産情報を共有する実証実験を進めていますね。空き家の抑制につながると説明しています。
 「将来は登記簿謄本のBC化などを考えている。価格が二束三文の地方の物件の場合、相続を受ける際の移転登記のコストが重荷になり、相続を放棄してしまうケースがある。これが空き家の所有者不明問題につながる。現在の移転登記コストは、司法書士代などを踏まえると20万―30万円くらいだろう。BCによりオンラインで簡易に移転登記が実現すれば、数千円に抑えられる」

ICT活用は収益力の向上につながる


 ―ホームズを開設した97年当時、不動産業界のインターネット利用率は低かったと聞きます。ウェブサイトに物件情報を掲載する価値について、不動産会社に理解してもらうのは苦労があったのではないですか。
 「確かにデジタル化が遅れていた業界で、企業の会員を増やすには時間がかかった。その中で、ウェブサイトは住宅情報誌に比べて、掲載コストが圧倒的に安い媒体ということを伝えていった。伝道師のように全国を回ったことを覚えている。掲載が急速に伸びたのは03―04年頃だ。インターネット検索が一般化して消費者の利用が増えた。仲介会社も一気に掲載に動いた」

 ―現在の不動産業界について、ICT活用の意欲などをどのように感じていますか。
 「不動産業界の10年前と比較すると、『テクノロジーを取り入れないと』という意識に変わってきている。ただ、他の産業と横並びでみると、使いこなせているとは言えないだろう。我々はホームページを自前で作成するサービスや、スマートロックを活用して賃貸物件の内覧を円滑化するサービスを展開しているが、導入が多いサービスで1000-1500社程度にとどまっているのが現状だ。ただ、今後ICTを武器に収益性を高めていく不動産会社が少しずつでも増えていけば、それに追随して業界が変わっていくだろう。我々はその重要性を訴え、浸透させていきたい」

不動産業界のICT化に尽力する

興亡・不動産 -テックの衝動


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【04】売り上げがたたない…不動産業界でテック企業が生き残るための必須条件
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【06】“不動産テック1.0”の立役者が描く未来【井上高志ライフル社長インタビュー】
【07】不動産仲介大手が火花散らす、“ICT競争時代”に入った
【08】「ソサエティ5.0」実現へ、国土交通省は不動産業の情報化を加速する

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COMMENT

葭本隆太
デジタルメディア局
ニュースイッチ編集長

「最近の子はネット検索した物件が空いてるかを尋ねに来店して、すでに入居が決まっていたと知ったらすぐに帰ってしまう。我々は、その物件以外にも色々紹介してあげられるし、それが仕事なのに…」。こんな声を町の賃貸仲介会社さんに聞いたのはもう10年近く前。不動産情報ポータルサイトが実現した「テック1.0」も業界に結構なインパクトを与えたように思います。

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