気持ち悪い、けど目が離せない…?グレーカラーの車が増えた理由とは

色が変えるビジネス #2 オートカラーアウォード

CMで、綺麗な景色の中を、街中を、美しく走る自動車。フォルムや色が印象に残るような演出がされていることも多い。機能や走りだけでなく形や色も、自動車の購買を左右する大きな要素だ。  毎年12月に開催される「オートカラーアウォード」は、自動車のカラーデザインの企画力や美しさを評価し表彰している。主催する日本流行色協会(東京都千代田区)で運営に携わる武田里美氏と、審査員を担当するジェネラルマネージャーの大澤かほる氏に近年の車のカラー傾向や、求められる価値について話を伺った。 ―オートカラーアウォードとは。 武田 色彩が購買意欲を掻き立て、人の感情を豊かにするという力を持っていることを伝えていくことが狙いです。また、賞が設立された当初は、自動車業界の中でカラーデザイナーの地位が低く、一般に認知されていない存在だったこともあり、その地位向上も目的の1つでした。  前回のアウォード終了からその年末までに国内で購入できる旨を発表している車両をエントリーしてもらい、カラーデザイナーのプレゼンテーションと実車審査で賞を決定します。今年で23年目になります。プレゼンテーションでは技術のかなり深い部分まで発表するので、デザイナー同士が切磋琢磨するような環境ができているのかなと思います。見ていて泣いてしまう人もいるくらいです。  日本は特に形状のデザイナーが強かったのですが、この22年で開発の段階からカラーデザイナーが関わる車種も増えました。内外装の色も良くなり、アウォードの功績もあるのかなと自負しています。 ―車にとってカラーが果たす役割は大きくなっているのでしょうか。 大澤 カラーが人の感情を動かすのに一番効果的です。目が見える人の場合、五感による知覚のうち8割の情報を視覚が占めるといわれています。また色は形や質感と関連しており、最近ではCMF(カラー、マテリアル、フィニッシュ)と言われています。市場全体に、機能を求めるよりも、体験価値、もっというと感情価値が重要視されるようになってきています。5年、10年後にはさらにその傾向は進んていくと思います。  またどういう人にどういうシーンで使ってもらうかを考えなければ、形も機能も決まらないというのは当然のことです。人の感情を動かす製品を考えたときに、色や質感を置き去りにすることはできません。22年間アウォードを通して業界を見てきて、ようやくこの状況にたどり着いたなと思っています。 ―2019年のアウォードではどのような車が注目されましたか。 大澤 一般審査で1位を獲得したダイハツ「Rocky」は、前述の感情価値の観点で非常に的を射た表現をしていました。練りに練った個性的な「赤」は、「楽しさ」を表し、この車を買うことで外に出かけたくなるという効果を狙いました。  同じ車の形状であっても、色と質感を変えることでターゲットを変えることができるということを示した、日産自動車「DAYZ」と三菱自動車「eK X」も象徴的でした。CMFの力と重要性を示し、さらに大きな意味ではエコにもつながっています。 また今回グランプリを受賞したマツダ「MAZDA 3 Fastback」は全く新しい質感を追求したもので、いままでと異なる価値観を提示したCMFになっています。  発想源が「塩ビ管」。樹脂特有のヌメリ感を表現したそうです。私自身、モーターショーで実車を初めて見た時の第一印象が「気持ちが悪い」でした。けれど目が離せない。そして見ているうちに魅力的になってくる。この違和感と魅力、新しさのバランスが評価されました。今後しばらくは“違和感”が重要なキーワードになってくると思っています。  今回のアウォードを通してみると、これまでになかったCMFの新しい美観、企画の面白さや社会へのメッセージ性が評価されたと感じています。 ―違和感と美しさは一見相反するようにも思えます。 大澤 CMFの概念がこれまでとは異なってきています。それは美意識の概念が変わってきているからです。例えば今までは「美人」といえば「目がぱっちりしていて細面」という画一的なイメージでしたが、現在では個性をどう出すかがポイントになってきています。  新しい価値観はまだバタバタと出はじめている段階ではありますが、「これまでの美意識を疑え」といった時期に差し掛かっています。 ―全体ではグレイッシュカラーが多くなっていることも特徴ですね。 大澤 1つの車をさまざまなシーンで使うことを想定した結果だと思います。シティとアウトドアどちらにも馴染む色を考え、さらにグレーを混ぜていくことで、誰に対しても違和感のない、穏やかな色になっていきます。これを2、3年前から私たちは「ニュー・ニュートラル」と呼んでいます。従来、ニュートラルというと、白、黒、グレーなどをイメージするのですが、それに加えて個性を出したいというニーズに応えていくとグレイッシュカラーが好まれるようになっていくのです。 ―求められる車の価値が変わってきている部分もあるのでしょうか。 大澤 かつては、車には走りを求め、存在を主張する人が多かったように思います。そうするとCMFも光が当たる強く反射するようにしたり、色が綺麗に見えるようにしたりという部分にしのぎを削ってきました。  しかし現在では落ち着いた色が多いですよね。自分自身が穏やかな状態になりつつ、どのシーンでもなじむという存在が、車に求められているのかもしれません。  また、車は先進技術が詰まっている製品なので、従来はそれを表現するようにシャープでハイライトを効かせるという方向にありました。ただこれからは先鋭的な技術はどちらかというと隠す方向になっていくと思います。「人間のための技術」という側面がクローズアップされ、もっと感情に優しく訴える丸い印象が好まれる時代がきています。 ―かつて淡い「マカロンカラー」やピンクなど、女性をイメージしたカラーバリエーションが多かった軽自動車ですが、最近では傾向が変わってきていますね。 大澤 まず軽自動車のターゲットが若い女性から若いファミリー層へと変わってきていることが挙げられると思います。  また、誤解を恐れずに言うと、「女性はかわいい=ピンクや淡い色」というイメージが広がっていた時代がありました。その当時はかわいい色の車が少なく、そこの穴を埋めるべく多数発売されたというのもあると思います。ただ、ここ3~4年でLGBTQなどが広く認知されてきたこともあり、多様性が出てきましたね。 ―カラーバリエーションも変化が見られますか。 大澤 2000年代前半に、カラーバリエーションがものすごく増え、内外装のカスタマイズが増加した時がありました。ちょうど携帯電話のカラーバリエーションが増えた時期です。  ただ最近では色を絞る傾向にあります。白、黒、青などの売れ筋色と、そうでないけれど目を引く色の組み合わせもカラーデザイナーの腕の見せ所です。基本的に売れ筋とそうでない色の割合は7:3と言われています。  経費の問題もありカラーバリエーションをたくさん作るのは難しくなってきていますが、屋根や部品の一部などの色を変えたり、モジュール化してバリエーションを出している企業もあります。 ―内装も重視される傾向にあります。 大澤 今回マツダの車が高く評価されたポイントの1つに、内装に無駄がなく、美しかったことが挙げられます。同社の考え方として、付け足すのではなく絞り込みながらも機能的、というのが特徴です。また、外と中の繋がりも重視されはじめています。建築でも外の風景を家の中に取り込むような動きが出てきていますが、それに果敢に挑戦しています。  日産は織りで複雑に色を組み合わせ高級感のある質感や雰囲気を表現しています。一方三菱自は印刷技術で表情を出すとともに低コストを実現しました。  自動運転になってくると、車内環境に求められることも変わってきます。インテリアのCMFはこれまで以上に豊かにしていく必要があるでしょうね。 ―車をとりまく製品開発の潮流が変わってきました。 大澤 電気自動車や自動運転が増え、家電メーカーなどが自動車業界に参入してきています。四輪ではない新しい「モビリティ」という形も出てきます。デザインや色も変化を求められていくでしょう。 【特集・色が変えるビジネス】  商品やサービスのイメージを伝え、消費者の心を直感的に掴む「色」。その背景には、トレンドを細かく分析したり、世界観を作りこんだりと各社の綿密な戦略がある。色が変えゆくさまざまなビジネスを取材した。

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