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【アイシン精機】規模3年で倍に、成長性を確信する事業の正体

【連載・企業研究(7)アイシン精機】
【アイシン精機】規模3年で倍に、成長性を確信する事業の正体

主力顧客であるトヨタ自動車は、配車サービスやシェアカーを見据えた高効率保守サービスに乗り出している

「あすの会見で、事業規模を3年で倍にすると宣言してもいいか?」。アイシン精機社長就任直後の伊勢清貴に声を掛けられた、専務役員でアフターマーケットバーチャルカンパニー(VC)プレジデントの立松敬朗は、自信を含んだ声でこう答えた。「どうぞ!」。事業の成長性に対する確信と「大手競合メーカーと同規模の事業にしたい」という強い思いが込められていた。

手を出せない


 2018年8月、アイシンは新たなVCを設立した。補修部品や市販品の販売を手がけるアフターマーケットVCだ。同社は多数のグループ会社を抱えるが、実はアフター事業を手がけるのは主にアイシンとアドヴィックス(愛知県刈谷市)、アート金属工業(長野県上田市)の3社。新規商材の拡充でグループ会社と連携したくても、担当者を探す所から始めなければならなかった。シェア首位を誇るアイシン・エィ・ダブリュの自動変速機などに需要があることは分かっていたが、手を出せない。立松は「機会損失が多い」と感じていた。

 グループをまとめる同VCの効果は抜群だった。「この製品は売れないか」「あの部品も検討してほしい」―。各社から活発な提案が上がってきた。「グループ会社に認知できたことはとても大きい」。立松はアフター事業に対する期待を実感する。現在はパワートレーンやブレーキなど事業領域ごとにワーキンググループを作り、担当者を決めている。「VC前は人選だけで何週間もかかっていた。スピードは何倍にも上がっている」(立松)。アイシンとアドヴィックスの商品企画や販路の統合も検討している。

動ける体制も


 拠点整備も進む。フィリピンやミャンマー、パキスタンなどで拠点を新設。22日にはタイの車部品販売会社と資本業務提携を結んだ。「これまで1年たってもできなかったようなことが、2―3カ月でできる」(立松)。今後は南米の東方地域の強化が大きなテーマの一つ。立松は「商品や地域の課題が明確になり、すぐに動ける体制もできている」と、地域攻略の加速に力を込める。

 今や部品やサービス販売で継続的に収益を稼ぐビジネスモデルが主流になりつつある。立松は「大手競合は後から収益を回収する考え方を前提に、幅広い品ぞろえやサービス、各地域に根付いた販路を持つ。早く追いつきたい」と意気込む。シェアリングが普及した世界でのアフターサービスのあり方や商品開発、販売方法の検討も課題だ。アイシングループで新たなビジネスの柱が動き始めた。(敬称略)

「認知度向上で事業スピードを大幅加速」/立松敬朗専務役員に聞く


 ―アフターマーケットバーチャルカンパニー(VC)の事業領域は。
 「修理工場などに商品を供給する『補修事業』と、カー用品を扱う『用品事業』で構成する。従来は時期が来れば部品を交換する保守向けが主だったが、走る、曲がる、止まるの機能に関係する商品を扱う用品事業を3-4年前から強化している。品質や耐久性といった強みでアイシンブランドを成長させるのが狙いだ。特に東南アジア諸国連合(ASEAN)など、これから自動車の普及が始まる市場ではブランドの知名度を上げるのに効果があるとみている」

 ―VC創設のきっかけは。
 「グループ企業が多数ある中で、アフター機能のある会社は限られていた。一方でアイシン・エィ・ダブリュの自動変速機(AT)などシェアの高い商品もあり、北米や中国では既販車へのAT修理や部品供給を生業にしている事業者が多い。我々が修理業者のニーズに合った商品を提供し、これまでアフター事業を手がけていない会社の製品を発掘することで、事業成長につなげられる。グループに横串を刺せるVCが最適だった」

 ―拠点の整備を進めています。
 「大きな所では北米、ASEAN、中国、欧州に販売会社がある。最近ではドバイに拠点を設けてケニア市場をカバーしたり、ミャンマーやパキスタンなどにも拠点を作った。実際の市場の状況は現地でなければ見えてこない。市場調査を含め、業務の現地化を強化したい」

 ―商品展開の課題は。
 「これまでは内製志向が強く、純正部品と同等品質のモノを必要とする顧客に提供すればいい、という考えだった。しかし比較的安価な所から純正品まで、幅広いラインアップが必要だ。またそういった商品の販売には、地域に根ざした販路が重要になる。課題は明確になってきた。迅速に対処したい」

 ―シェアカーが普及すると、アフターマーケットのあり方も変化しそうです。
 「例えば車の稼働率が大幅に高まった場合、交換しやすい部品がいいのか、通常より少し高い価格でも壊れにくい部品の方がいいのか、一般のシェアカーとタクシー事業者でもニーズは異なるだろう。そこに向けて我々がどんな商品を開発し、供給するか検討が必要だ。ただ、シェアリングがどういう形になるか、まだ納得できていない部分もある」

 ―3年後に売上高を800億円にする目標を掲げています。
 「VCになってグループでのアフター事業の認知が広まり、一体で動ける体制ができた。これは大きい。我々が修理や交換といったサービス事業をどこまで広げるかの検討も含め、商品開発や販路強化、製品拡充などを行い事業を広げる。ゆくゆくは独ボッシュなどの大手競合と同規模にしたい」
(文=政年 佐貴惠)
アイシン精機専務役員(アフターマーケットVCプレジデント)の立松敬朗氏

連載・企業研究 アイシン精機


【01】CASE時代へ、東京事務所の“壁”を壊したアイシン精機の危機感(2019年4月1日配信)
【02】経営改革を断行する“連結の申し子”のビジョン(2019年4月2日配信)
【03】グループ企業の経営統合へ突き動かしたドイツの脅威(2019年4月3日配信)
【04】「絶対に負けられない」電動化対応ブレーキの戦い(2019年4月4日配信)
【05】競合相手と統合して得たモノ、得ていないモノ(2019年4月5日配信)
【06】シートやドアを自動制御、コンセプトカーが現実になる日(2019年4月6日配信)
【07】規模3年で倍に、成長性を確信する事業の正体(2019年4月7日配信)
【08】CASE対応へ社長が考える選択と集中の軸(2019年4月8日配信)
日刊工業新聞2019年3月27日記事に加筆
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
アイシングループの新たな収益の柱として期待されるアフターマーケット事業。正直『言われてみれば、なぜこれまで注力していなかったのか・・・』とも感じたが、個社間の見えない壁がその理由の一つ。壁が取り払われつつある今、事業可能性は大きく広がった。シェアリング時代になれば部品交換の需要は高まる。それまでにアイシンのブランド力を高め、対応する製品や販路を構築することが欠かせない。

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