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【2075年】CO2排出量ゼロ実現に必要な日本の3つの技術

いくつもの技術の合わせ技で欠点を補う/連載・脱炭素経営 番外編
【2075年】CO2排出量ゼロ実現に必要な日本の3つの技術

大面積化で変換効率11.7%を達成したペロブスカイト太陽電池

 産業革命前からの平均気温の上昇を2度C未満に抑えるには、2075年前後に二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロにする「脱炭素」が必要―。そう危機感を訴える報告書を国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が10月にまとめた。温暖化対策の国際ルール「パリ協定」が目標に掲げる脱炭素の時期を初めて示した。脱炭素を実現可能にする技術の研究が進む日本への注目度がさらに高まりそうだ。

人工光合成 水素+CO2=プラ原料


 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の人工光合成開発プロジェクトは18年度、太陽光エネルギーによって水から水素を作り出す効率で、12・5%をたたき出した。非単結晶光触媒を使う水素生成の効率としては世界最高記録だ。

 太陽光の働きでCO2と水からでんぷんと酸素を作る植物の光合成を模し、太陽光エネルギーでCO2を資源化するのが人工光合成の定義の一つ。

 NEDOと人工光合成化学プロセス技術研究組合(三菱ケミカルなど)が開発を目指す人工光合成は、まず水中の光触媒に太陽光を照射し、発生した酸化力によって水を水素と酸素に分解する。次に水素を取り出し、CO2と合成してプラスチックの原料となるオレフィンをつくる。

 30年ごろの稼働をイメージする商業プラントでは、降り注ぐ太陽光で水素を生成し、火力発電所や工場の排気から回収したCO2と合成してオレフィンを製造、化学メーカーに供給する。温暖化を招くCO2放出を防ぎ、プラスチック生産の化石資源の使用量も減らす脱炭素プラントだ。

 実用化には効率向上が欠かせない。今回の12・5%は銅・インジウム・ガリウム・セレン系の光触媒による成果だ。当初から同じ材料だが、NEDOの小川宗成プロジェクトマネージャーは「微妙に組成比を変えた」と工夫の一端を披露する。

 水素の発生で12・5%だが、酸素発生も含めたトータル効率は3・7%にとどまる。酸素発生用の光触媒も高効率化しないと実用化目安の10%に届かない。それでも12年度の研究開始当初の1%以下からは大幅に向上した。

 「酸素側の光触媒となる材料も相当、探索した」(小川マネージャー)といい、トータルで10%の効率を射程に入れる研究を加速する。NEDOの人工光合成は世界的にも先頭を走る。日本発の脱炭素技術になり得る。
効率12・5%の光触媒(NEDO・人工光合成化学プロセス技術研究組合提供)

ペロブスカイト太陽電池 高い変換効率・低コスト


 次世代太陽電池として本命視される「ペロブスカイト太陽電池」の研究成果が相次ぐ。中でも東芝とNEDOは6月、703平方センチメートルのフィルム型電池を製作し、光を電気に変えるエネルギー変換効率で11・7%を記録した。このサイズでは世界最高だ。

 ペロブスカイトは結晶構造の名称。材料費が安く、シリコン系太陽電池よりも低コストだ。変換効率の世界最高値は現在、22・7%。シリコン系に迫るものの、手のひらに収まるほどの小サイズの記録だ。実用化には大面積化が避けられないが、大型化すると効率が減る。材料を塗るとすぐに膜ができるため、面積が広がるほど品質の均一化が難しい。

 東芝は2回に分けて材料を塗布する方法を採用。1回目は反応を抑え、2回目の塗布後に反応を進める。膜ができる速度を制御でき、たわみやすいフィルムでも均質な大面積化のペロブスカイト太陽電池を作った。

 東芝は25年の製品化を目指す。同社研究開発センターの天野昌朗主任研究員は、「シリコン系と競合しない、ペロブスカイト太陽電池ならではの用途で普及させたい」と話す。ガラス板を使うシリコン系は重く、設置場所が屋根や地面などに限られる。軽く柔軟なフィルム型ペロブスカイト太陽電池なら壁や窓、室内にも太陽電池の用途が広がり、脱炭素化社会が見えてくる。

蓄熱発電 電力ムダなく使い切る


 

 脱炭素社会の実現には再生可能エネルギー活用が欠かせない。ただし、天候任せの太陽光や風力発電が大量導入されると、電力供給の過剰や不足が起きやすい。蓄電池の充放電で安定化する解決策が考えられるが、コストの高さがネックだ。

 そこでエネルギー総合工学研究所(東京都港区)は蓄熱発電を提案する。環境省の事業に採択されており、開発に着手した。

 蓄熱発電は再生エネがつくりすぎた余剰電力でヒーターを稼働させ、高熱を生み出す。その熱を貯蔵し、必要な時に放熱して水蒸気を生成してタービンで発電する。蓄電池で例えると蓄熱は充電、放熱は放電だ。

 蓄熱には溶融塩を使う。高熱で塩が溶けて液体になると蓄熱、液体が塩に戻ると放熱だ。海外では太陽光の熱をため、夜間に蒸気タービンで発電する太陽熱発電所に溶融塩が使用されており、技術的に確立されている。

 熱は逃げやすく効率は悪いが、溶融塩は安価。同研究所プロジェクト試験研究部の岡崎徹主管研究員によれば、蓄熱発電の1回の充放電コストは1キロワット時当たり0・2円、対して蓄電池は同20円。蓄熱発電は初期費用が同2000円と安い。蓄熱・放熱を1万回以上繰り返せて長寿命なため、低コストになる(蓄電池は初期費用を同6万円、寿命を3000回で計算)。

 岡崎主管研究員は「効率とコスト、どちらがもったいないと考えるのか」と問いを投げかけ、実用性を訴える。しかも放熱は発電だけでなく、熱のまま生産工程に投入すればコージェネレーション(熱電併給)となって総合効率が高まる。

 再生エネの余剰電力が発生したタイミングで高熱をつくり蓄熱。放熱でつくった電気、熱とも生産現場で使えば工場も脱炭素化に近づける。

 海外では独シーメンス、米グーグルの親会社アルファベットも蓄熱発電開発に乗りだした。国家プロジェクトとして開発する日本が先行するか注目だ。

連載「脱炭素経営 パリ協定時代の成長戦略」


【1】日本企業のCO2排出ゼロ宣言が増加、環境先進企業の新たな条件に
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【8】サプライヤーに省エネ“勘所”伝授、自社の成長近道に
【番外編】《2075年》CO2排出量ゼロ実現に必要な日本の3つの技術
【9】環境事業のお金を回す債券「グリーンボンド」とは?
日刊工業新聞2018年12月3日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
先日、ある場で日本はFAXの技術を磨いているようなものだと聞きました。石炭火力の高効率化への指摘です。世の中、通信はスマホですよね。既存の事業領域から踏み出さないと、新しい技術獲得のチャンスが失われます。再生エネはダメというのは、再生エネしか見ていないから。一つですべてを解決するのではなく、いくつもの技術の合わせ技で欠点を補いながら。最近、業界横断ということでセクターカップリングがキーワードとして登場します。

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