リコーが開発した“常識外れ”の水車の挑戦
【連載#7】「脱炭素経営 パリ協定時代の成長戦略」
静岡県御殿場市の山あいに水力発電の小屋がある。斜面と小川との間の狭い場所に立ち、内部には配管が走る。水車と発電機も配管内にあり、大がかりな設備は見当たらない。リコーが実証中のマイクロ水力発電だ。
出力は1キロワットほど。家庭の太陽光パネルにすると3―5枚分だ。大きな電気を生み出せないが、農業用水など身近な水路に設置できる。天候任せの太陽光や風力発電と違い、24時間安定した発電ができる。
だが、従来のマイクロ水力発電は普及はしていない。課題の一つがゴミだ。流れ込んだ落ち葉などが羽根をふさぐと水車が回らなくなる。水車の中心部に軸があり、落ち葉が付着しやすい構造になっているからだ。除去装置を併設すると解決できるが、場所もコストもかかる。
リコーの水車は中心部を空洞にしたため、落ち葉は詰まらずに抜けていくので除去装置は不要だ。また、樹脂であることも従来品との違いだ。同社事業開発本部マイクロ水力事業推進グループの齊藤達郎グループリーダーは「樹脂は非常識と言われた」という。耐久性を考慮し、金属で製作するのが常識とされているからだ。しかし金属だと一品一品つくるので高価になる。同創エネルギー事業推進グループの上原賢一氏は「樹脂なら量産できてコストが下がる。耐久性も問題ない」と自信をみせる。
常識にとらわれないマイクロ水力はリコーOBで、ベンチャー企業のインターフェイスラボ代表を務める井手由紀雄氏が開発した。2011年の東日本大震災後、エネルギー問題解決に役立てようと研究に着手。新エネルギー・産業技術総合開発機構の支援を受け、井手氏は熱海市で実証を始めていた。
リコーも新しい環境事業を模索していた。複写機を省エネ化しても、ビル全体でみるとエネルギー削減はわずか。事業領域のオフィスに限定せず、大きな環境貢献もしようと16年、御殿場に環境事業開発センターを開設した。電気自動車、木質バイオマス利用、廃樹脂の油化などの研究を始めた。その中で井手氏と連携したマイクロ水力の開発も始まった。
完成に近づいており、今の課題は売り物にすること。「社会貢献だけでは使ってもらえない。お客さまの利益をどう生み出せるのか。19年は1年かけて市場調査をする」(齊藤リーダー)と語る。
リコーは17年4月、二酸化炭素(CO2)ゼロを目指すと宣言した。事業領域にとらわれない新事業で社会の脱炭素にも貢献する。
【1】日本企業のCO2排出ゼロ宣言が増加、環境先進企業の新たな条件に
【2】CO2ゼロ宣言する欧米企業との差、日本の地位低下に危機感
【番外編】ソニー・平井会長、脱炭素への決意語る
【3】「再生エネ買えない」で、外資企業が日本から撤退
【4】アップルが社名公表、再生エネ利用が取引条件になる日
【5】国内電力の1%、イオンとNTTが再生エネ市場を刺激する!
【6】世界1位のゼロエネ住宅「政府より先に」で商機
出力は1キロワットほど。家庭の太陽光パネルにすると3―5枚分だ。大きな電気を生み出せないが、農業用水など身近な水路に設置できる。天候任せの太陽光や風力発電と違い、24時間安定した発電ができる。
だが、従来のマイクロ水力発電は普及はしていない。課題の一つがゴミだ。流れ込んだ落ち葉などが羽根をふさぐと水車が回らなくなる。水車の中心部に軸があり、落ち葉が付着しやすい構造になっているからだ。除去装置を併設すると解決できるが、場所もコストもかかる。
リコーの水車は中心部を空洞にしたため、落ち葉は詰まらずに抜けていくので除去装置は不要だ。また、樹脂であることも従来品との違いだ。同社事業開発本部マイクロ水力事業推進グループの齊藤達郎グループリーダーは「樹脂は非常識と言われた」という。耐久性を考慮し、金属で製作するのが常識とされているからだ。しかし金属だと一品一品つくるので高価になる。同創エネルギー事業推進グループの上原賢一氏は「樹脂なら量産できてコストが下がる。耐久性も問題ない」と自信をみせる。
常識にとらわれないマイクロ水力はリコーOBで、ベンチャー企業のインターフェイスラボ代表を務める井手由紀雄氏が開発した。2011年の東日本大震災後、エネルギー問題解決に役立てようと研究に着手。新エネルギー・産業技術総合開発機構の支援を受け、井手氏は熱海市で実証を始めていた。
リコーも新しい環境事業を模索していた。複写機を省エネ化しても、ビル全体でみるとエネルギー削減はわずか。事業領域のオフィスに限定せず、大きな環境貢献もしようと16年、御殿場に環境事業開発センターを開設した。電気自動車、木質バイオマス利用、廃樹脂の油化などの研究を始めた。その中で井手氏と連携したマイクロ水力の開発も始まった。
完成に近づいており、今の課題は売り物にすること。「社会貢献だけでは使ってもらえない。お客さまの利益をどう生み出せるのか。19年は1年かけて市場調査をする」(齊藤リーダー)と語る。
リコーは17年4月、二酸化炭素(CO2)ゼロを目指すと宣言した。事業領域にとらわれない新事業で社会の脱炭素にも貢献する。
連載「脱炭素経営 パリ協定時代の成長戦略」
【1】日本企業のCO2排出ゼロ宣言が増加、環境先進企業の新たな条件に
【2】CO2ゼロ宣言する欧米企業との差、日本の地位低下に危機感
【番外編】ソニー・平井会長、脱炭素への決意語る
【3】「再生エネ買えない」で、外資企業が日本から撤退
【4】アップルが社名公表、再生エネ利用が取引条件になる日
【5】国内電力の1%、イオンとNTTが再生エネ市場を刺激する!
【6】世界1位のゼロエネ住宅「政府より先に」で商機
日刊工業新聞 2018年11月20日