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【連載#4】アップルが社名公表、再生エネ利用が取引条件になる日

連載「脱炭素経営 パリ協定時代の成長戦略」
 「うちのグループもできるんじゃないか」。2017年3月、太陽グリーンエナジー(埼玉県嵐山町)の荒神文彦社長は記事を読み、思わず膝を打った。そのニュースはイビデンが米アップル向け電子部品の製造に使う電気を再生可能エネルギーにしたという内容だった。

 当時のアップルの再生エネ比率は93%。自らが100%化を目指しつつ、調達先にも再生エネの利用を求めていた。その要請に日本企業で最初に応えたのがイビデンだった。

 太陽グリーンエナジーは太陽ホールディングス(HD)子会社として再生エネ事業を展開する。グループの太陽インキ製造はイビデンに電子部品材料を納め、イビデン経由でアップル製品に搭載されている。太陽インキ製造の工場(埼玉県嵐山町)の隣接地には太陽光発電所が2基あり、1基は自家発電用だ。荒神社長はイビデンのようにアップル向け生産分を再生エネにしようと考えた。

 早速イビデンに相談すると、アップルの担当者に話がつながった。18年5月、アップルが再生エネを推進する世界の調達先23社の1社として太陽インキを公表した。

 再生エネの活用はアップルとの継続的な取引だけでなく「投資家へのPRにもなる」(荒神社長)と期待する。通常、材料メーカーが採用先を明かすことはない。今はアップルの公表によって太陽インキ製造が「アップルの調達先」と公言できるようになった。投資家にも技術力を分かりやすく伝えられる。荒神社長は「常識の変化は速い。再生エネが取引ルールになる時代が来ると思った」と実感を持って語る。

 脱炭素の波へ乗ることにビジネス機会を感じる日本企業が増えている。アミタHDは兵庫県、北九州市、茨城県のリサイクル拠点とオフィスの電力契約先を、固定価格買い取り制度(FIT)の再生エネ電気を供給するみんな電力(東京都世田谷区)に切り替えた。

 また、社員の再生エネ利用を支援する制度も導入した。社員の家庭がFIT電気を扱う電力会社と契約すると1世帯に月200円を手当てする。

 資源循環を手がけるアミタHDは“環境の会社”のイメージが定着している。「総務や経理など部署によっては直接環境に携われない社員もビジョンを共有できる」(アミタHDの西島有紀さん)ことから手当てを制度化した。持続可能性が調達先の選定基準になる将来を意識し、再生エネ推進が取引先との「信頼の証しになる」(同)と期待している。

太陽インキ製造の隣接地のため池に設置した太陽光発電所


連載「脱炭素経営 パリ協定時代の成長戦略」


【1】日本企業のCO2排出ゼロ宣言が増加、環境先進企業の新たな条件に
【2】CO2ゼロ宣言する欧米企業との差、日本の地位低下に危機感
【番外編】ソニー・平井会長、脱炭素への決意語る
【3】「再生エネ買えない」で、外資企業が日本から撤退
【4】アップルが社名公表、再生エネ利用が取引条件になる日
【5】国内電力の1%、イオンとNTTが再生エネ市場を刺激する!
【6】世界1位のゼロエネ住宅「政府より先に」で商機(11月7日公開予定)
日刊工業新聞 2018年10月23日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
中堅企業や黒子の黒子のような企業でも、再生エネを使っているとアップルに社名を公表してもらえる。これって再生エネ利用のインセンティブになりませんか?太陽HDの事例は、脱炭素経営のわかりやすいメリット。識者、コンサルでなく、当事者の「再生エネ利用が取引ルールになる日が来る」とのコメントが印象的でした。

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