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今年は本当に有機ELテレビ元年なの?

プラズマの買い替えサイクル。それでも「シェアは2―3割程度にとどまる」
今年は本当に有機ELテレビ元年なの?

ソニーが今年のCESで披露した有機ELテレビ(平井社長)

 2017年は有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)テレビ元年になりそうだ。パナソニックやソニーといった日本メーカーが相次いで日本市場への参入を計画。先行する韓国LGエレクトロニクスもデザインや性能を高めて迎え撃つ。09―11年の「エコポイント制度」に伴う特需以降、市場は冷え込んでいたが、徐々に買い替え需要が回復しつつある。今までにない映像美で消費者に“驚き”を与え、購買意欲を喚起する。

 「強みである自発光パネルの性能を引き出すノウハウで、世界に打って出る」―。パナソニックの浦川裕喜テレビ事業部経営企画課長は、こう力を込める。まず、同社は15年に欧州で有機ELテレビ市場に参入。そこで画質などが評価され「予想を超える販売」(浦川課長)を達成した。日本への参入は10日にも発表するとみられ、市場をアジアや中南米、カナダなど全世界に広げる考えだ。
パナソニックの有機ELテレビ「TH―65EZ1000」は65型

 新製品の「TX―65EZ1000」は、フルハイビジョンの4倍の解像度を持つ「4K」対応の65型有機ELテレビ。幅広い色表現ができるカラーパレットを搭載したほか、映し出すコンテンツを解析して的確な色を出し、1画素ごとに制御する新開発の高画質エンジンを採用した。米ハリウッドの研究拠点も活用し「黒色の深さと、忠実な色再現にこだわった」(同)という。

 有機ELの特徴の一つが、自発光だ。精細度が高く、発光させないことで、くっきりとした黒色を表現できる。バックライトを使う液晶とは制御方法などが異なり、技術の難易度は上がるが、パナソニックは同じく自発光のプラズマテレビを手がけていた経験がある。浦川課長は「自発光は我々の得意分野だ」と自信を見せる。

 一方、ソニーは3月の中国市場を皮切りに、米国と欧州で4K有機ELテレビ「A1Eシリーズ」を発売し市場に参入した。8日には日本市場向けモデルを発表した。画素をより細かく制御できる高画質処理エンジン「X1エクストリーム」を搭載。明るさの階調や深い黒色をより細かく表現でき、臨場感を高めた。

 大きな特徴は、スピーカーがない点だ。画面の後ろにアクチュエーターを搭載し、パネル全体を振動させて音を出す仕組みを取り入れた。背面のスタンドは重低音をカバーするサブウーハーを内蔵。画面全体から音を出すことで、映像と音の一体感を高めた。また縁や、画面下のスタンドもなくした。画面だけが浮かび上がって見えるようなデザインだ。
ソニーの「A1シリーズ」公式ページより

 3月、東芝は日本メーカーとしては最初に4K有機ELテレビを日本市場に投入した。新開発の有機EL用画像処理エンジンを採用しており、映像の暗部と明部を検出して滑らかに表現する。また映像のコントラストや精度をより高い状態に復元する機械学習技術などを搭載した。

 これら日本メーカーを迎え撃つのが、15年に有機ELテレビで日本市場に参入したLGエレクトロニクス。日本法人のマーケティングチームに所属する金敬花課長は「グループにパネルメーカーを抱える強みを打ち出す」と意気込む。

 新製品の65型4K有機ELテレビ「W7P」は、薄さが約3・9ミリメートル。まるで壁紙や窓のように薄い壁掛け型を提案する。スピーカーや回路は画面から独立させて、コードでつなぐ。パネルはグループ企業の韓国LGディスプレーの最新モデルを採用。輝度を従来比25%向上し、明るい照明の下でも見やすくした。

 合わせて色彩能力を向上させる技術を導入し、色再現性を従来品の約6倍に高めた。金課長は「『製品の品質が高い』と評価する人も増え、LGに対する意識は変わってきた」と笑顔を見せる。今後も性能や付加価値を追求し、まずは約30万円以上の価格帯でシェア10%の獲得を目指す。将来は普及価格帯までのラインアップ拡充も視野に入れ、有機ELテレビの普及に攻勢をかける。
LGエレクトロニクスが発売した、薄さ3.9mmの壁掛け型有機ELテレビ「W7P」

 日本市場で“仁義なき戦い”が始まろうとしているが、そんな各社がこれまで以上に力を入れるのが音質だ。パナソニックは自社の高級オーディオブランド「テクニクス」と連携し、高度な技術を吸収。ソニーも自社のオーディオ部隊と連携して高音質を実現した。LGエレクトロニクスは立体音響技術の規格「ドルビーアトモス」を採用している。

 従来は薄さや狭額縁といったデザイン性を優先してきた。だがパナソニックの浦川課長とLGの金課長は「音質が犠牲にされていた点は否めない」と口をそろえる。しかし最近は「特に日本を中心に、音質へのニーズが高まっている」(金課長)という。各社は画質に加え、音響技術でもしのぎを削ろうとしている。

 日本のテレビ市場はエコポイント特需の反動を受け、12年以降は冷え込んでいた。しかし最近になって回復傾向がみられ、東京五輪・パラリンピックが開かれる20年に向けて緩やかに伸びると期待されている。回復しつつある市場の中、各社が狙うのがプラズマテレビからの置き換えだ。17年は、08―09年に販売したプラズマテレビの買い替えサイクルに当たる。各社は同じ自発光である有機ELテレビの投入で、この需要の取り込みを狙う。

 各社が有機EL市場への参入を決めた大きな理由には、パネル性能が向上してきたことがある。高画質を実現できるようになり、パナソニックやソニーも有機ELテレビのさらなるラインアップ拡充を示唆する。4K技術や、輝度を拡大する「HDR」技術に続き、有機ELは次の高付加価値製品の主役になりそうだ。
                  

(文=政年佐貴恵)
日刊工業新聞2017年5月9日
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
では有機ELテレビ市場は、どこまで広がるのか。19―20年頃に成長が加速すると期待されるものの「市場シェアは2―3割程度にとどまるのでは」(関係筋)との見方が大勢を占める。課題の一つは価格だ。有機ELパネルのコストは、液晶に比べれば割高だ。特に日本メーカーの有機ELテレビは約80万―100万円で庶民には高根の花。シェアよりも、収益性を重視する各社の懐事情もあり、ボリュームゾーンを攻めるというより、新たな高付加価値軸として打ち出す考えだ。

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