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シャープ、米国・液晶工場表明もテレビブランド奪還難航

中国・ハイセンスとの交渉停滞か。サプライヤーの協力も不透明
シャープ、米国・液晶工場表明もテレビブランド奪還難航

成長に向けて反転攻勢に出る戴シャープ社長(昨年11月)

 シャープが米国の液晶工場建設に向けて動きだした。8日、シャープ首脳が記者団に「米国で液晶(工場への)の出資を検討している。できれば今年前半までに着工したい」と明かした。シャープが主導して顧客やサプライヤーなど外部の出資を募る考えだ。トランプ米大統領は製造業の国内投資を重視する姿勢を鮮明にしている。シャープがこのタイミングで米国投資の意志を示す背景には、日本政府やサプライヤーなどの支援を取り付けたい思惑がある。トランプ大統領在任中の2020年までに新工場を稼働し、テレビ事業で撤退した米国市場でふたたび事業拡大するための足場を築く狙いだ。

 元々、米国での液晶工場建設はシャープの親会社である台湾・鴻海精密工業が検討していた。鴻海の郭台銘会長と親しいソフトバンクグループの孫正義社長が、昨年末にトランプ大統領と会談し投資の計画を伝えている。郭会長自身も1月に台湾で、約8000億円を投じて米国に液晶工場を作る考えを明らかにした。

 すでに鴻海はシャープと共同運営する大型液晶子会社「堺ディスプレイプロダクト(SDP、堺市堺区)」を通じ、中国広州市で10・5世代という大型液晶工場を19年に稼働する計画を発表済み。総投資額は約1兆円で、広州市からの支援を得て投資負担を減らす計画だ。

 今回の米国工場についても大型液晶を生産する可能性が高いが、シャープ首脳は「シャープかSDPで行くが、できればシャープでやりたい」との考え。シャープが主導すれば鴻海グループ内の投資負担を分散できる。

 ただ問題は、大型ガラス基板などの材料メーカーに工場周辺で供給体制を作ってもらう必要があることだ。サプライヤーの投資計画が前提となるため、ある意味、液晶工場建設のハードルは高い。

 そこでシャープは米国の投資計画をトランプ政権への「おみやげ」として差し出す代わりに、日本政府に働きかけて支援を引き出し、サプライヤーなどを巻き込んだ投資計画として進める狙いだ。

 しかし問題はまだある。シャープは16年に米国テレビ事業を中国ハイセンスに譲渡して市場から撤退。米国で自社ブランドのテレビが販売できなければ液晶パネル工場を建てる意味も薄らぐ。シャープの戴正呉社長は就任後、ブランドを取り戻すと宣言し、欧州で譲渡していたテレビ事業を買い戻したが、米国の交渉はうまくいっていないようだ。

 業界関係者によればハイセンスは米国で自社ブランド拡大に注力しており、シャープ製テレビのプロモーションに力を入れていない。1月に米国で開催された家電見本市「CES2017」でもハイセンスによるシャープブランドの展示は影を潜めた。米国液晶工場の実現にはテレビ事業の復活が不可欠だ。
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(文=大阪・錦織承平、同・川合良典)
日刊工業新聞2017年2月9日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
鴻海も基本的にEMSで自社ブランドを持たないできた。逆にブランドの大切さを分かっているのだろう。当時としては仕方なかったと思うが、安易にブランドは安売りするものではない。政治的な意味合いを抜きにすれば米国に液晶工場を作るメリットを感じない。4年後に政権が変わり、政策の揺り戻しがあったら取り返しがつかない。

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