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日産、17年目のゴーン離れ

社長・CEO退任。ゴーン氏は何を残しこれから何をするのか

「日産」と「NISSAN」の折り合いに苦労


 今春。カルロス・ゴーンは記者団を前に「近いうちにインドへの進出計画を披露できるでしょう」とほほ笑んだ。ところが計画には隠し球があった。スズキへの接近だ。
 
 「こちらから提携拡大をお願いした」―。6月2日に行われたスズキとの共同会見。いつも慎重な言い回しが多い最高執行責任者(COO)の志賀俊之は、率直に質問に答えた。スズキとの交渉では志賀の役割は実に大きい。

 つい先日もスズキ会長の鈴木修がインドで発言した内容が、日産の経営戦略に踏み込むものだったためメディアで大騒ぎになった。すぐに現地の鈴木から志賀へ電話があり、ことの経緯の説明があったという。特に日本メーカーとの協業では、日本人同士の方が意思疎通が図りやすい。

 直系販売会社のある幹部は、日産自動車の経営の“変節点”を「ゴーン氏がルノーのCEO(最高経営責任者)を兼務するようになった時」と指摘する。単にゴーンが時間的な制約を受けるようになっただけではない。

 中期計画「日産バリューアップ」での最大のコミットメントが、08年に世界販売台数420万台の達成。過去の中計では公表していた地域別の内訳を明らかにしていないが、日産にとって増販の稼ぎ役は新興市場。

 ところがルノーも成長に向け新興市場への攻勢を強めている。以前から1人のCEOが仕切る両社への利益相反リスクを指摘する声は多い。

 「営業利益率10%はコミットメントなのか?」―。03年秋。ソニーの社外取締役を務めていたゴーンは取締役会で、ソニー会長の出井伸之(当時)ら経営陣に詰め寄った。昨年実行されたソニーの経営刷新。同社の幹部は「ゴーンさんら社外取締役の圧力がなかったといえばうそになる」と証言する。

 現在、日産には9人の取締役がいるが、事実上の社外役員はいない。ゴーンはもともと社外からの登用に否定的とみられるが、米ゼネラル・モーターズ(GM)との提携交渉では、GMの大株主であるカーク・カーコリアンやその側近であるGMの社外取締役をテコにしたのは何とも皮肉だ。

 社外取締役の有無より、今の日産にゴーンの手法に対し時には苦言を呈したり、ブレーキ作動する企業統治の仕組みがあるのかが不透明。結局、GMとの提携構想は破談したが、その過程で良くも悪くもゴーンの存在感の大きさだけがあらためて浮き彫りになった。

 「フォードとマツダの関係は非常に安定している。日本で仕事ができたことをうれしく思う」。フォードのアジア担当副社長に栄転したマツダ副会長のジョン・パーカー。この3年、二人三脚でマツダ再建にあたってきた社長の井巻久一は、彼の別れのあいさつを感慨深げに聞いていた。同じ外資の傘下にありながら、マツダと日産の企業統治のあり様は異なる。

 ゴーンと因縁が深いソニーも、外国人CEOに再建を託した。ハワード・ストリンガーは月に一、二度来日するだけで、電機部門は社長の中鉢良治が指揮しているが、複合企業ゆえソニーもまた「SONY」との折り合いに苦労している。

 ルノーのルイ・シュバイツァーがゴーンを日本に送り込むと決めた時点で、「日産」と「NISSAN」が生み出されるのは必然だったのかもしれない。二つの「ニッサン」がハーモニーを奏で、成長に向け再びドライブする次の必然は何になるのだろうか―。(敬称略)
(おわり)
今年1月、日刊工業新聞の単独インタビューを受けるゴーン社長

※内容・肩書は当時のもの

日刊工業新聞2006年10月2―6日の連載を元に一部加筆・修正



明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
2つの連載から、日産とルノーの軌跡を考えるきっかけになれば。 すぐに大きな権力移行はないだろうが、大きな節目であることは間違いない。ルノー、日産、三菱自の意思決定を1人で迅速に行うのは事実上不可能。ルノー・日産の2社アライアンスでさえ、度々ノッキングを起こしていた。日産とルノーの資本関係は変わることなく、三菱自がその中に入ったことで一体化がさらに進むだろう。ルノーのポストが保証されるなら、ゴーン氏はより自動車業界の大きな変革をとらえた動きをするのではないか。まだまだサプライズはありそう。

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