進化し続ける「H3ロケット」、JAXA・三菱重工の技術開発を追う
積み荷に合わせ形態自在
宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業が開発した新型の大型基幹ロケット「H3」3号機が打ち上がり、H3で初の大型衛星の輸送に成功した。H3は積み荷によって形態をカスタマイズできる特徴があり、さまざまな条件に対応できるよう技術をアップデートしている。積み荷を宇宙に輸送する機会を活用し、サブミッションとしてさまざまな技術を実証する。打ち上げのたびに進化するH3の技術開発を追った。(飯田真美子)
H3には積み荷の大きさや投入する軌道などに応じて、メーンエンジンや補助ロケットの個数、積み荷を搭載する先端部分のフェアリングの大きさなどを選んで組み合わせて作れる特徴がある。これまで打ち上げた3機のH3はメーンエンジン2基と補助ロケット2基、短いタイプのフェアリングを採用した。これ以外に、H3での宇宙輸送が従来機「H2A」の半額となる約50億円で打ち上げ可能なメーンエンジン3基で補助ロケットを搭載しない「3―0形態」が注目されている。また、遠くの軌道などに運ぶためのメーンエンジン2基と補助ロケット4基で構成する形態は2024年度中に打ち上がる予定だ。
こうしたH3の形態の確立には新たな技術が必要であり、ロケットに搭載した積み荷を予定の軌道に搭載する以外にサブミッションとして技術実証を行っている。7月に打ち上げたH3ロケット3号機では、意図的にシステムの性能を下げる「スロットリング」を実施。1段目エンジンが燃焼を終える直前に約5秒間かけて推力を100%から66%に絞り、その状態で20秒間維持するかを検証した。JAXAの岡田匡史理事は「打ち上げ後のデータを見ると、ノズルが絞られて推力が低下する様子が捉えられた」と評価。技術実証に成功した。この技術は3―0形態を確立するために必要な技術で、今後の打ち上げに向けて生かされるデータが得られた。
H3ロケット4号機の打ち上げも24年度中に予定されており、防衛省の「Xバンド防衛通信衛星」3号機を輸送する。同衛星を地上からの高度3万6000キロメートルの静止軌道に投入するため、少し長い時間、ロケットが宇宙空間で飛行する。そこでロケットの飛行を地上局で追尾し、宇宙空間での状態変化を捉えるサブミッションを実施する。その目的は、今後打ち上げるJAXAや総務省などが開発する技術試験衛星9号機(ETS―9)に関わる。JAXAの有田誠H3プロジェクトマネージャは「ETS―9は、予定の軌道に投入するのにエンジンを再々着火する必要がある。それに備え、宇宙空間でロケットの燃料の振る舞いを調べる」と説明。今後の宇宙輸送を成功させるべく、打ち上げの機会に技術実証も進める。
H3は従来よりも低コストでの宇宙輸送だけでなく、米主導のアルテミス計画での月への物資輸送も担う予定だ。岡田理事は「多くの人に使ってもらえるロケットに成長させたい」と意気込む。