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宇宙開発への貢献生んだ、中興化成工業が貫く〝課題解決の精神〟

宇宙開発への貢献生んだ、中興化成工業が貫く〝課題解決の精神〟

中興化成の長崎県松浦市にある開発・生産拠点の一つ「F1松浦工場」

2024年初頭、月着陸実証機「SLIM(スリム)」と、大型基幹ロケット「H3」試験機2号機の成功という快挙が続いた。それは中興化成工業(東京都港区、庄野直之社長)にとっても喜ばしいニュースとなった。同社がフッ素樹脂で製造した部品や部材が一役買ったためだ。宇宙開発への貢献は創立以来の“課題解決の精神”を貫く中で生まれた。(西部・三苫能徳)

中興化成工業は1963年創立のフッ素樹脂製品メーカーだ。半導体製造装置の部品や産業・建築用膜材をはじめ幅広い製品群を擁する。宇宙関連は長崎県松浦市の拠点で担う。専門部署はなく、顧客からもたらされる課題を製品開発で解決する、従来の形で宇宙分野でも成果を重ねる。

H3にはエンジンのポンプ内でベアリング(軸受)を保持するリテーナーの部材を供給する。ガラスクロスにフッ素樹脂を含浸した素材を重ね、円筒状に成形。供給先で加工されてリテーナーとなる。高い高度の極低温環境でも潤滑性を保つのがフッ素樹脂の強みだ。

松浦開発部の増田智洋主任は「素材の要求がシビアで基材の樹脂の検討も不可欠」と品質の高さを説明する。 ロケットの部材供給は40年以上前の「H1」にさかのぼる。航空宇宙技術研究所(現宇宙航空研究開発機構)の要請で開発した。当初は用途を明かされず、手探りで品質をつくり上げた。「H2」以降も担い、ロケットの進化とともに高まるハードルを乗り越えた。

H3では直径約60ミリメートルと大型化し、製法を変えてコストダウンも実現した。以前に開発を担当した川本啓司課長は「まねしようとして、作れるものではない」と自負する。

中興化成が「SLIM」向けに供給したフッ素樹脂(PTFE)製ダイヤフラム

新たな挑戦になったのが「スリム」向け部品だ。タンク内で酸化剤と機械部を隔てるダイヤフラム(隔膜)をフッ素樹脂(PTFE)のみで製造した。帽子のような形で動物の横隔膜のように半球部分が液体供給に合わせて上下する。従来の金属製では反復が難しかったが、弾性があり軽量で薬液耐性のあるPTFEで可能にした。

サイズは直径約600ミリメートルで厚さ1ミリメートル以下。マシニングセンターで削り出した。切削加工は同社の得意分野の一つだが、PTFEは数度Cの気温変化でも大きく膨張・収縮し、加工で精度を出すことに困難を極めた。

大型かつ薄肉で「動作に偏りを出さないために薄さの均一性も求められた」と、開発担当の川添裕生主査は振り返る。切削で熱を与えないほか、治具の工夫などで実現した。

約10年をかけたダイヤフラム開発だが、依頼が半年早ければ受けていなかったという。当時、顧客から相談のあった小型・薄肉の製品を完成にこぎつけた直後で、技術を生かせると判断し開発に踏み切ったためだ。

宇宙関連に関し、開発担当者3人は「自社に技術の蓄積があったからこそできた」と口をそろえる。生産技術の活用が他製品の品質向上につながるため、未知の領域への挑戦にも意欲的だ。今後も宇宙分野を含めて技術の高みを目指す。

日刊工業新聞 2024年08月26日

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