三菱商事はAI特化研修・双日は資格開発…大手商社、デジタル人材育成加速
大手商社が新事業の創出などに向けてデジタル人材の育成を加速する。三菱商事は人工知能(AI)に特化した研修を2025年度に本格化し、海外大学に年間で数十人の派遣を計画する。双日は26年度末までに事業へのデジタル実装を担うリーダー人材を現状比3倍超の約200人育てることを目指す。急速に進化するデジタル技術が企業競争力を大きく左右する中、AIなどを活用した事業モデルを立案できる人材の拡充を急ぐ。(編集委員・田中明夫)
三菱商事はAIを使った事業構想を持つ若手・中堅層などを対象にしたAI人材の育成研修を立ち上げた。24年度は試験的に7人を選抜し、IT子会社のエムシーデジタル(東京都千代田区)による国内研修と、米スタンフォード大学などAI研究が盛んな北米の大学への派遣をそれぞれ3か月間実施する。25年度以降は数十人に増やす予定で、海外の技術人材とのネットワーク構築も狙う。
三菱商事はこれまで、IT事業の担当者を対象にしたアプリケーションの開発研修などを通じデジタル知見の底上げを推進。エムシーデジタルでは、AIを使った食品需要予測による流通最適化システムの開発などにも取り組んできた。
一方、生成AIなどの技術進化が急速に進む中では「AIの本質を理解した上で事業を構想していく必要性が高まっている」(三菱商事の大畑琢哉人事部人材開発チーム次長)とし、AI専門研修の新設を決めた。外部専門家と“共通言語”で議論できる社員を増やして先端技術の取り込みを強化し、事業再構築や新ビジネスの創出につなげる。
双日は商社事業に必要なスキルを踏まえて育成プログラムと資格を自社で開発・設定し、デジタル技術の応用人材を26年度末までに全総合職の50%に当たる約1000人育てることを目指す。このうち事業開発の中核を担う「エキスパート」は社内各課に配置できる人数に相当する約200人の体制にする。
双日は中期経営計画で「デジタル・イン・オール」(全ての事業にデジタルを)を掲げており、荒川朋美専務執行役員最高デジタル責任者(CDO)は「エキスパート人材が社内に散らばって事業のデジタル実装を推進する」と意気込む。すでに新興国の肥料販売事業では、スタートアップと連携して衛星画像やAIを使った農作物の収穫量予測サービスの開発に着手するなど、事業価値の向上を推し進めている。
三井物産は研修を通じ事業とデジタル双方に精通するデジタル変革(DX)人材を、3カ年の中期経営計画の最終となる25年度までに現状比約4倍の1000人に増やす方針だ。さらに中計では価値創造の定量化にも取り組み、DXによる500億円の価値貢献を目標に設定。初年度は約50案件で合計約240億円の資産価値向上などを実現した。
大手商社は独自の視点でデジタル人材の育成を活発化させている。一方、デジタル技術を駆使した事業開発競争は産業界全体で巻き起こり、幅広い事業群を持つ商社にとって競合するのは同業他社とは限らない。プロジェクト間で相乗効果を生み出すなど、商社の持ち前の事業創出力をデジタル実装でも発揮できるか。育成したデジタル人材の生かし方が今後試される。