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伊藤忠・兼松・三井物産…商社がDX・サイバーセキュリティで攻勢かける

商社がデジタル変革(DX)やサイバーセキュリティー事業で攻勢をかける。自社事業へのデジタル実装を通じ新たな価値を創出するほか、情報通信技術(ICT)ソリューションの強化によって人手不足に悩む顧客の業務効率化を推進。セキュリティー対応では国内外で技術会社と連携して、デジタル化の脅威となるサイバー攻撃対策の需要を取り込む。(編集委員・田中明夫)

伊藤忠 食品データにAI

伊藤忠商事は業容・業態変革の推進を統括する最高変革責任者(CXO)を4月に新設した。CXOに内包する最高デジタル責任者(CDO)と最高情報責任者(CIO)を廃止し、最終目標である“変革”に重点を置いた。消費者に近い川下を起点に社会ニーズを取り込む戦略「マーケットイン」をデジタル化でも推進する。食品の味覚情報と消費者の購買情報を組み合わせたデータサービス「フーデータ」では、分析結果を言語化して商品企画に落とし込む工程への生成人工知能(AI)の活用を検討。顧客の新商品立案を支援する。

伊藤忠の「フーデータ」では食品の味覚情報と顧客情報を掛け合わせる(イメージ)

また環境や人権に配慮して生産した天然ゴムの履歴追跡システム「プロジェクト・ツリー」の取り組みには、住友ゴム工業グループやタイヤ需要家の東急バス(東京都目黒区)が参加。サプライチェーン(供給網)の強化にもつなげる。伊藤忠は今後もIT部門などのシステム開発力を生かし、「部門間連携によるシナジー創出と事業の掛け合わせでビジネス変革を進める」(浦上善一郎准執行役員IT・デジタル戦略部長)考えだ。

兼松 100億円ファンド

兼松は2027年3月期を最終年度とする3カ年の中期経営計画で、600億円の成長投資のうち400億円をDX分野に充てる。23年に完全子会社化した兼松エレクトロニクス(東京都中央区)を核に部門横断的にICTサービスを展開し、労働力が不足する顧客企業の業務効率化などを後押しする。

デジタル化を阻むサイバー攻撃に対処するセキュリティー事業も強化する。4月にはベンチャーキャピタルなどと共同で、セキュリティー分野のスタートアップに投資する最大100億円規模のファンドを設立。兼松の宮部佳也社長は「共創を実現するエコシステム(生態系)を構築する」と意欲を示す。

三井物産 米社に出資、現地市場参入

三井物産は米国のサイバーセキュリティー会社レッドポイント・サイバーセキュリティー(RP)に約15億円を出資して同社株式50%弱を取得し、同国のセキュリティー市場に参入した。三井物産のセキュリティー子会社の三井物産セキュアディレクション(MBSD、東京都中央区)の技術力を生かし、コンサルティングから復旧サービスに至るRPの事業をテコ入れする。

三井物産セキュアディレクションの業績と従業員数

MBSDは約270人の技術者を抱え、22年度の税引き後利益は17年度比4倍超の15億6900万円と事業を急拡大している。さらなる成長に向け「(米国に進出する)顧客の日系企業をRPに送客していく」(三井物産サイバーセキュリティ事業室の葛西信太郎室長補佐)。

デジタル化の波は商機となる一方、競争の激化など事業環境は急速に変化している。商社各社は技術力や各産業との接点を生かし、着実に既存事業の周辺領域を取り込めるかがカギとなりそうだ。

日刊工業新聞 2024年5月9日

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