自社クレカに囲い込め…楽天・ドコモ・KDDI・SB、競争過熱で火花散らす
携帯通信業界で自社グループのクレジットカードの利用拡大に向けた競争が過熱している。MMDLabo(東京都港区)の調査によると、携帯大手4社のユーザーが最も多く使うクレカは4社とも楽天カードだ。決済機能を持つクレカは携帯各社が自社経済圏で提供する各種サービスを結ぶ重要な要素になる。顧客の買い物の傾向や支出動向の分析にも活用できるだけに、自社ポイント付与の拡充などで火花を散らす。(編集委員・水嶋真人)
【楽天】 ポイント・金融決済全て提供
「携帯4キャリアのユーザーが楽天カード、楽天証券を最も利用している」―。楽天グループの三木谷浩史会長兼社長は、自社の金融決済サービスが競合他社の携帯通信契約者にも広く浸透していることに自信を示す。
MMDLaboが18―69歳の男女2万5000人を対象に7月5―9日に実施した調査では、楽天グループが携帯大手4社の中で唯一、自社携帯契約者が最も使う共通ポイントと金融決済主要4サービスを、全て自社サービスで占めた。
三木谷氏は「当社を除く携帯大手契約者の共通ポイントや銀行でもトップに近い成績を収めた」と強調する。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク契約者が利用する共通ポイントの2位に楽天ポイント、銀行の3位に楽天銀行が入った。
楽天グループは2020年4月、自社回線を用いた第4の携帯通信事業者(MNO)としてサービスを始めた。国内最後発のMNOのため、通信品質向上に大規模投資を続けた結果、23年12月期まで5期連続の当期赤字となった。
だが、楽天ポイントの大盤振る舞い、家族や学生、子ども向けの割引プラン投入で契約者獲得の勢いが増し、「現状の楽天モバイル契約者数は770万になった」(三木谷氏)。発行枚数3100万枚超を誇る楽天カード普及の原動力となった楽天ポイント付与という成功体験を携帯通信事業に生かし、損益分岐点の目安となる800万回線を年内に実現する作戦だ。
すでに若年層の取り込みで効果が出ている。三木谷氏は「若い層を中心に楽天モバイルが普及している。この層はインターネットのヘビーユーザーだ」と指摘する。
実際、楽天モバイルの契約者と非契約者で楽天グループのサービスの利用状況を比べたところ、契約者が非契約者よりも「平均2・45サービス多く利用している」(同)。楽天エコシステム(生態系)の基盤を楽天モバイルでさらに強くするため、楽天カード会員による楽天モバイル利用で特典を増やすといった差別化戦略で自社経済圏を強化する。
【MNO3社】 特典付与拡充で巻き返し
他方、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクのMNO3社も、自社グループのクレカの利用促進策を本格化させている。
NTTドコモは自社の決済・金融サービスの利用に応じてポイントプログラム「dポイント」の還元率が高まる料金プラン「ドコモポイ活プラン」の第2弾「エクシモ・ポイ活」を1日に始めた。ドコモのクレカ「dカード」やスマホ決済「d払い」の利用でたまる通常ポイントに加え、1決済ごとに最大5%のdポイントを付与する。
マネックス証券の投信積み立てサービス「dカードのクレカ積立」を「dカードGOLD」で利用した場合は、通常付与分に1%を加算したdポイントを付与する。NTTドコモカンパニーコーポレート部の伊藤邦宏部長は「現金や他社カードで払っている部分をdカードに寄せていく」と意気込む。
KDDIは23年9月に始めた料金プラン「auマネ活プラン」の契約数が「(24年)7月に100万を突破した」(高橋誠社長)。携帯通信のデータ容量使い放題と金融サービスの利用で金利やポイント還元率を優遇する料金プランで、自社のクレカ「auカード」やスマホ決済「auペイ」、auじぶん銀行、auカブコム証券の利用で複数の特典を受けられる。
他の使い放題プランに比べて解約率が約2割改善。auじぶん銀行の預金残高増にも寄与した。高橋社長は「通信と金融のバンドリング(組み合わせ)による効果が出てきている」と指摘する。
ソフトバンクの宮川潤一社長は「経済圏の広さを競う局面に入った」と話す。同社は自社グループのスマホ決済「PayPay(ペイペイ)」のポイント付与率が増える料金プラン「ペイトク」を23年10月に始めた。「ポイント付与をシンプルにしており、まだまだ使い勝手が良い」と自信を示しつつ、「第2のペイトクのようなものを模索する」とテコ入れも示唆した。
これに対し、楽天グループは1日、楽天カードで他社携帯料金や保険料を支払った際の楽天ポイントの付与率を従来の半分に引き下げた。今後も自社経済圏にユーザーを囲い込む仁義なき戦いが続きそうだ。